お父様の試験1
卒業式が終わった。
今年は梅の花の開花が早くてきれいだったのに、ティーナの『梅の匂いは、エロい匂い。昔の人は言っておりました』という一言で、気分が台無しだよ。
しかし、ボクにとっての本番はこの後だ。本当にお祭りの日にしてくれるとは……
「ようお互い卒業おめでとう、だな」
「ローランド……いやもう同級生ではありませんね。ローランド様ご卒業おめでとうございます」
学校を出ようとすると、後ろからローランドに話しかけられた。
『早く準備したいって言うのに、迷惑な奴だ』
言い過ぎ。まだ時間は大丈夫だろ。
「おいおい、敬語なんかやめてくれよ。一度も勝てなかった奴に敬語使われるのも逆に嫌だぞ」
「まぁそういう事なら――でも主席は君さ。王立学校で頑張ってね」
「あぁ頑張るよ。ところで親父から聞いたが、お前中身はオトコって本当か?」
コメントに困るな。慣れる必要のある事なのだろうけど。
「本当さ。余りからかわれるのは気分が良くないよ」
「そっか。いやすまん、悪気はないんだ。だが不愉快にさせたなら謝る。ただ勝てなかった事にこだわる必要が無いと思いたくてな。お前が男だってなら、あー、わかって貰えると思うが」
「それならいいさ」
男の子だもんね。
『子供とも言うがなぁ』
うるさい。
「今日親父さんと戦うんだろ、見に行くから応援するぜ。頼むから勝ってくれよー副団長に勝つ奴に負けていたなら仕方ないって思えるからな」
「任せてくれ。じゃあ準備急ぐから帰るね」
「おう。――あーそうだ、一つ訂正だ」
「何?」
「敬語使わないで欲しい理由な、俺とお前は友達だろ?」
「――ありがとう。では友の名誉にかけて、今日の勝利を誓うよ」
「頼んだぜ」
……友達か。ちゃんとボクの事をみんなに話していれば、友達もまた作れたのかな?
『……俺の意見は正直言って、それをしなかったのは正解だと思うぜ』
なんでさ?
『お前らの年頃では、正直難しかったと思う。だけど、これからはその気持ちを無駄にしない事だ』
むー。いまいち納得できない。
――――――――――――――――
お昼を軽く済ませて、騎士団への道を歩く。
運命がほんの少し違えば、毎日歩いていたかもしれない道。
中学校の卒業式という事で、毎年この日はお祭りになる。
コツコツと石畳の上を歩く、すれ違う人々。
もしかすると、毎日すれ違っていたかもしれない人々。
『感傷的になるのはいいが、周りの人が考えている事は、今日の晩御飯どうしようか? とかだぞ』
……やれやれ、皮肉屋はいい加減にしたらどうだい。
「チケット余ってない? チケット買うよ。チケット無い人いる? チケット売るよ」
予想外にも、相当な人が集まってきているらしい。ダフ屋まで出てきている。
『ダフ屋は合法なのか?』
どうだろうね? 気にしたこともないよ。
『……やっぱりちょっと緊張するな』
ボクもだ。あぁ、いつの間にか騎士団に到着していたね。
中に入り女性用の更衣室へ向かう。皮鎧に着替えて、訓練用のロングソードを出し、刃引きされているか再度確認する。
『慣れちまうものだなー。罪悪感はあるが、仕方ないとしか思えない』
そろそろ戯言は終わりにしよう、ティーナ。準備は良いかい?
『ばっちりだ。もう一度作戦を確認するぞ』
了解――
――――――――――――――――
「ご来場の皆さま。本日の最大のお楽しみ、メインイベントの時間です」
分かっていたけどやっぱり満席だ。ここの観客席は、2000人入るのに……
「さて通常は挑戦者から紹介するのが定番ですが、今回はちょっとした事情の為、被挑戦者たる親父さんから紹介だぁー!」
「その男の二つ名は『人間の皮を着たオーガ』、『リーリエのボスゴリラ』などいろいろあるが、一番有名なのはこれ『美女と野獣』! 皆さまご存じの副団長、ジャック・サザーランド!」
「ゴリラー!」
「嫁さんとつりあってねーぞー!」
「娘さんを私に下さいぃぃぃ!」
好き勝手観客が騒いでいる中、父様が反対側から入場する。
かなりイラついている様子だ。
ところで、娘ってボクじゃないよね? 姉さまだよね?
「さて野じゅ、もとい、副団長の簡単な紹介をしましょう。身長189cm、体重95kg。見ての通りのパワーファイター。普段の得物は大剣だが、今日はロングソードで登場だ!」
「野獣! 野獣!」
「おーい流石に手加減しろよー!」
『観客も、お父様も、舐めてくれるじゃねーか』
おや? 君も大分好戦的になったね。
『男に舐められるのは、嫌いなんだよ……うぇ、マジで勘弁してください』
「さぁて次は挑戦者の登場だ! 副団長のご令嬢、クリスティーナ嬢! ご入場願います。さて、なんと中学時代は模擬戦無敗の本日卒業、このまま無敗を貫けるかぁ?」
「美女が野獣を倒してしまえー!」
「クリスー! 俺たちの為にも勝ってくれー!」
「お前に負けるたびに、家で怒られたんだー!」
「なにやら同級生と思しき負け犬共が、キャンキャンと騒いでおりますが、クリスティーナ嬢の紹介に参りましょう」
「身長169cm、体重59kg。3サイズは上から95-67-94。肝心のバストサイズはなんとEカップ! そうは見えない? それこそが彼女の戦闘スタイル。『コンパクトブラの使い手』の二つ名は伊達じゃない!!」
ちょっと! 誰だよ、情報流した奴は!!
『もうやめてあげてー! クリスのパス度は最初から0よー!』
なんで更に煽ってるんだよ! 後その二つ名戦闘関係ないよね!
「だがみんな、残念なお知らせだ! 彼女実は男嫌い。女の子が好きという百合少女なんだ! 今日の戦いは彼女が百合道へ進むことを認めてもらう為の戦いだ!」
「ノー、ノーよー!」
「止めろー! 止めるんだ、野獣!!」
「くんかくんかしたいぉー!」
『百合ちゃうわ! しれっと、間違った発表をするなし!』
「まぁ、男が集まった時の猥談はこんなもんだ」
ティーナの突っ込みに併せてお父様が笑いながらそう話す。
あまりの言い草に言葉も出ない……
『元男の俺としては、わからなくもないが、ちょっとそのセリフはアウトだな、って……ク、クリスさんや?』
よし、わかった。いいでしょう。
どうやら、今日はお父様の命日らしい。
貴方の事は忘れません。




