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お祭りですか、そうですか


 最終的にボクは、今年度の騎士科次席卒業が内定した。


 主席じゃないのは少し口惜しいけれど、まぁ納得の結果だ。

 騎士になるつもりのないボクとティーナは、そこまで座学に力を入れなかった。

 主席に模擬戦で負けた事はないが、彼自身もボク以外には負けた事は無い。


 その上で座学も常にトップクラス、となれば仕方がない。


 お父様に呼び出されたのは、そんな事を思っていた頃だった。


「あー、もうすぐ卒業だな。なんだ、その、おめでとう」

「はい、ありがとうございます。あの、いかがなされましたか?」


 おそらく、本題は別なのだろう。

 明らかに決心がつかない様子でお父様が話し始めた。


「そう言えば聞いたか? 爺さんのところの農場の話」

「お父様方のお祖父様ですか? いえ聞いておりませんが」

「この間ゴブリンが出たらしくてな」

「珍しくは無いでしょう」

「ゴブリン自体はな。だが今回は見張りが気付いた時には、もう柵の中に入られていたらしい」

「あらら」

「それで何を焦ったのか、戻ってきた見張りの奴が上級魔法ぶっぱなしたらしい」

「上級魔法って……それは、やりすぎですね」

「そうだよなぁ……」


 それは畑だか田んぼが凄い事になったのだろう……。


 でも本題はそれじゃないよね。

 これは本気でボクに伝えづらいんだな。


「それで、本題は何なのですか?」

「いや……その、な。怒らないで聞いて欲しい」

「はぁ」


 こんなにも、歯切れの悪いお父様は珍しい。

 その態度に、凄く嫌な予感がする。


 あっ、なんか決心した。本題が来るかな。


「お前と俺の決闘だがな。決闘? まぁなんだ、その試験だがな」

「はい」

「見世物になった」


 なるほど。これは、言いづらい訳だ……

 って、は?

 えぇー!


「何故ですか!」

「うむ。ローランド・サザーランド様はお前もご存じだな」

「ええ。もちろんですが」


 当然知っている。同級生で騎士科の主席。ついでにハトコ。


「街長のレイモンド様になぁ、お前の将来の話しをこのあいだされた訳だ。そりゃあ次席のお前が王立学校に行かないと、明言しているのだから当然だよな」

「まぁ、そうかもしれません」


 おいおい、雲行きが怪しすぎませんか。


「じゃあこの街の騎士団に入るのだろうと、半ば確信していらっしゃった。その上で将来の騎士団長……要するにご子息のローランド様と、将来の女性騎士団長のお前で婚約しないかと打診してきた訳だ」

「まさか、受けたのですか?」


 もし受けたなら、今すぐ家出する。一生お父様と口も利かない。


「落ち着いてくれ。当然受けていない。ひとまず今は結婚や婚約は本人が考えていない。騎士団にも入るつもりもないと、まぁ歪曲に伝えたわけだ」

「ありがとうございます。……そう言わざるを負えないお父様の立場も理解できます」


 ふう。疑ってごめんなさい、お父様。

 しかしなぜ見世物に?


「じゃあ、うちのメイド希望なのか? そう聞かれる訳だ。もちろんハウスメイドじゃないぞ。護衛兼家庭教師、そしてそのまま、レディズコンパニオン候補だな」

「確かに妥当ですね」

「だろ。でもお前の希望は違う。冒険者だ。しかしそれはレイモンド様からしたら、許可出来るわけがないだろう?」


 いやいや、許してくださいよ。


「どういう事でしょうか?」

「親戚の、それも優秀な、ましてや回復魔法を使える、女性が、冒険者というアウトローな仕事を選ぶ。あそこの子爵家はどうなっているんだと、貴族社会で言われる訳だ。お前が男なら別だがな」


 ……つまり?


「もう仕方ないだろ。お前が心はオトコだって言うしか無かった」



『仕方ないんじゃないか?』

 ティーナ、君さっきまで『そんなのカンケーねー、そんなのカンケーねー』って古いネタではしゃいでいたよね?

『お前も俺の世界の事を、結構分かって貰えたようで。お兄さんはうれいしいよ』

 まぁ君と3年もいたらね。


「ゴホン。それで、何故見世物になったのですか?」

「その場で、お前が百合姫様の再来と発表する。そうすれば、レイモンド様のメンツは潰れない」


 ちくせう。ボクのプライベートより、お偉いさんのメンツって訳かい。

 あーわかっているさ。

 大人の対応って奴だろう。

『それにお前にとっても都合が良い。なんせカミングアウトする大義名分になる。その辺の判断をしてお父様は受けたんだろ?』

 ふん。どうだかね。


「まぁお前にとっても都合が良いぞ。こんな事になった以上は、俺に勝とうが負けようがお前は冒険者だ。まだ俺には勝てないだろう?」


 へー。ふーん。ほぉ。

 なんですかねぇ、そのにやけた顔は?


「ふん。お父様には精々恥をかいてもらいますよ。それがボクに出来る親孝行ですからね」


 言いながら席を立った。扉をなるべく乱暴に閉めて、部屋を出て行ってやった。



 大丈夫。ちゃんと理解しているよ、ティーナ。

 あれはお父様なりの激励なんだろ?

『だと思う。その気持ちに答えて、恥をかかせてやろうぜ。孝行のしたい時分に親はなしっていうからな。ちょっと意味は違うが、この街を出ていくのだから、後悔はしたくないだろう?』

 アハハ、ティーナも大分ボクの事が分かってきたね。

『ハッ。3年も一緒にいたら……だろ?』



――――――――――――――――


「クリス聞いたわよ。お祭りらしいわねー」


 振り返ると半年程前に帰ってきたフィーナ姉さまが立っていた。

『おー相変わらず素晴らしい胸部装甲ですなぁ。ちょっとばかし、おっちゃんに揉ませて貰えんかね?』

 なんで僕のはもぎたいなのに、姉様のは揉みたいになるんだろう?

『バカだなー。それはもう俺のだからだよ』


 うん、言いたい事のニュアンスはわかったけど、絶対に誤解を招く言い回しだよね、それ。


「何をまたボケっとしているのよ」

「あぁ、すみません。お疲れさまです姉様。今日はもうお帰りになられていたのですね」

「まぁね。立ち話もなんだし、私の部屋によって行かない?」


 了承し姉様の後をついて行き、部屋に入る。

 ボクとは違う意味で女の子っぽさのない部屋だ。いわゆる仕事部屋。


 でもさりげなく、花とか置いているあたり洗練されています、とでも言えば良いのかな?


「お菓子食べる?」

「はい、では頂きます」

「コーヒーにする? それとも紅茶?」

「ではコーヒーを」


『相変わらず、違和感のある光景だな。騎士とコーヒーとか』

 もう君だっていい加減なれているだろうよ。


「まーた、ボケっとしているわねー。王立学校から帰ってきて思ったけど、貴女随分変わったわ」

「いえ、いろいろと考えることが多くてですね」

「まぁ、そういう事にしておいてあげる。それで、お祭りどこでやるのよ?」


 お祭り言うな。


「騎士団の練兵場ではないのですか?」

「お父様と貴女が戦うんだものねー。そうなるかしら? 軍の演習場って事はないの?」

「平地では観客に死人が出ますよ」


 いや本当に。攻撃の余波で何人死ぬかわからない。


「あんたもお父様も本当に手加減する気が無いのねー」

「手加減して勝てる相手ではないでしょう。そんな事は姉様だってご存じでしょう?」

「はぁ……そういう事じゃないのだけれどもね」


 どういう事?


「しかし何故そのような事を?」

「いえね、早めに場所がわかれば、うちの商会の出店の計画が立つからね。お父様は騎士団に戻られてしまわれたし、貴女が知っていたら教えて欲しいなぁと。」


 ……それは随分と楽しんで頂けているみたいで。




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