閑話1
ティーナ視点
時系列的に一話。
クリスが、夢を見ている間の出来事です。
……意味がわからん。
ありのままに起こ……まあボケている場合じゃなさそうだ。
えっと直前の記憶を思い出すと……
自家発電して寝る。
女の子になる夢をみる。
あれ? これ発電に利用した子じゃね?
目覚めると夢の女の子になっている。
ここ夢の中の家だわ。 ←今ココ
なんだ? 転生か?
ありがたや。これでハーレムが作れる。
いや待て、トラックのお約束も、神様のお約束もないぞ。
寝て起きたらもお約束の一種だが、チート無しだろ。
それでTS転生って本当にありがたいのか?
よもや!
無自覚に! 実はあるのか!? チートが!!
……それを期待したら、即死パターンだな。
――混乱しすぎだ。思考もテンションもおかしすぎる。
取り敢えず喉乾いたな。水を飲みにキッチンに降りよう。
「あらクリス、こんな朝早くにどうしたの? まだ日も登ってないじゃない」
想定外に家族とのエンカウント。どないしよう。
「アンジェリーナさんやないですか。いえね、喉が渇きましてね、ええっはい、まぁ水でも飲もうかと思いやして。へいっ」
あかん、口調がおかしすぎる。
……つか、アンジェリーナさん42、3だよな? 10は若く見えるぞ。
大体、なんであのサイズで垂れていないんだよ。
ええぃ! 異世界のクーパー靭帯は化け物か!
「どうしたのよ。突然変な口調で?」
本当にどうしよう?
いや、この人クリスティーナの家族だしな。
なんとなくだが、クリスティーナが目覚めれば俺は引っ込む気がするけど……まだわからないし。
助けを求めるべきかもしれない。
――よし。
「あー申し訳ありません。その、ちょっと突拍子もない事を申し上げますが、よろしいでしょうか?」
「なーに? はいお水」
「これはどうも、恐れ入ります」
なにから切り出すべきか……ひとまず水を飲んで時間を稼ごう。
あっ意外と冷えていておいしいな。
じゃなくて、
「えっと、私はクリスティーナですが、アンジェリーナさんが知っているクリスではありません」
「たしかにその口調は私の知っているクリスではないけれどね。まあ付き合ってあげましょう。それじゃあ貴女はだーれ?」
いたずらっぽく尋ねるアラフォー。
可憐だ。
ゴホン。
誰だろう? 多分……
「おそらくはクリスティーナの前世です」
「なるほど、それで昨日までのクリスはどこに行ったのかしら?」
「たぶんまだ、眠っております。起きたら貴女のご存知のクリスに戻ると思いますが、確証はありません」
もし俺と同じく人生の追体験をしているなら、俺の3倍弱かかるはずだよな。
「前世か……。確認するけど、からかっているわけじゃないのよね?」
おろ、意外と受け止められているでござる。
「はい。私は昨日までのクリスとは別人です。あの、何か心あたりがあるのでしょうか? 自分で言っておいて、おかしいとは重々承知しておりますが、かなり突拍子の無い話しをしている自覚があるのですが」
「うーん。貴女は知らないのかもしれないけど、前世の記憶を持っている人というのは極稀にいるのよ。まあ今の貴女の言葉使いが、普段とかけ離れている点もあるし、あと貴女が生まれた時に気になった事を思い出してね」
なんだ? 転生者多いパターンか?
モブなら俺も納得だが。
「気になっている事とはなんでしょう。差し支えなければ教えていただけませんか?」
「なんかその口調、とても違和感を感じるわね。いえ、ごめんなさい、貴女が悪いわけじゃないのだけれども――もうちょっとくだけて喋れないかしら?」
「では遠慮なく」
「それで、えっとそうそう。貴女が生まれてすぐの事なのだけど、かなり情緒不安定だったの。赤ん坊はみなそういうものだけど、上の二人より明らかに酷かった。でもね、行動の一つ一つをみると何というか、必死に状況を把握しようとしているようにも見えたのよ」
「それは不思議ですね」
「そう。まあつきっきりの私には、そう見えた…という程度で、周囲の人間には元気が良いぐらいにしか感じてないと思う。それで、ある日突然普通の赤ん坊になったのよね」
ふむ。
「貴女は二重人格の発生メカニズムを知っている? いくつも説はあるけど」
なるほど、そういう事か。
「ストレスですか」
「正解よ。――本当にクリスじゃなさそうね。嘘だったら女優になれるわ」
まあネットの無い世界で、クリスの様な子供が二重人格についての知識があったら、おかしいよな。
「ねえ。私の名前も知っているし、母親だって認識もあるみたいだから、クリスの事もある程度は分かっているのでしょう?」
「えぇ多少は。でもアンジェリーナさんほど理解しているかは、自信はありませんが」
「そう、じゃあ幾つか、わかれば聞きたいのだけれども良いかしら?」
「もちろんです」
なんでしょう。独身ですよ? 彼女募集中ですよ?
「まずは、貴女は男性のイメージだけど間違いない?
「はい」
ついでに独し……
「そう。じゃあ貴方から見て、普段のクリスは男性? 女性?」
「……おそらく、男です」
「――やっぱりそうか」
困惑しているな。
当然だろう。
予想していただけでも凄いものだ。
「百合姫様か…」
百合? ちょっと違うぞ。
「あの」
「はい」
「百合姫様というのが、どういう方かは存じませんが、百合とは少し違います」
「……? どう違うの?」
「百合というのは、自分の事を女性と認識している女性が、性欲の対象に女性を選ぶ事です。クリスは、いえ私もですが、自己認識が男性であり、恋愛対象が女性です。勿論性欲の対象もですが。その上で体が女性なのです」
「ごめんなさい。ちょっと混乱していて、なんとも言えないわ。――でもそれは、大切な事なのね?」
「重要です。――急に無理難題を押し付けて心苦しくはありますが、私はともかく、クリスと接するときは参考にして下さい」
俺はいわゆるセクマイではない。
ただ、知り合いは結構いた。
なんとなく、家族と疎遠な人が多かったイメージがある。
あくまで俺の主観で、更にはどちらかというと、といったレベルだが。
要するに何が言いたいのか。
クリスとアンジェリーナさんの親子関係が壊れてほしくない。
その程度の情はすでに、クリスに持っている。
「それでは、突然の事ですみませんでした。部屋に戻ります。お水ごちそうさまでした」
「ちょっと待って。私こそごめんなさい。あと、ありがとう。――貴方は大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
……実は大丈夫じゃない。
正直消滅する可能性を想像すると、かなり怖い。
だからこんな意味不明なテンションだ。
「あのね、誤解が無いように言っておくけど、貴方もクリスの中で残ると、私は嬉しいわ」
「何故でしょうか? 余り精神構造上好ましくないですよ」
「それでも、貴方もクリスも私にとっては可愛い子供だからよ」
――あぁ、すげーやこの人。
俺も親になっていたら、こんな風になれたのかな?
まぁ今さらだし、大体こんな事になるとは思わなかったし、考えても仕方ないが。
ともかく、絶対にクリスとこの人なら、
……多少ぎくしゃくしても親子でいられる。
そう思えただけでも、安心した。
「ありがとうございます」
さようならかもしれないが、
最大限に感謝の気持ちを伝えたい。
「――おやすみなさいませ。お母様」
そっと部屋を出て、二階に上がりベッドに戻った。
しばらくすると水差しに水をいれ、コップと共にアンジェリーナさんが訪ねてきた。
彼女は朝まで俺に付き合ってくれた。
※クーパー靭帯=乳を吊っている体組織、切れると垂れるよ。




