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奴隷キャリアプランナーは成功できる職業 ~おまけ集~  作者: Richard Roe
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41/89

1.

 我が店、『人材コンサルタント・ミツジ』の朝は早い。


「さあ、朝だ! 皆もさっさと起きろ! ほら!」


 朝日が登ると同時に、俺の一日は始まる。正確には朝の冷えと眩しい日差しによって徐々にいい感じに覚醒するのだが、いずれにしても朝早いことに違いはなかった。


 早起きは三文の得。それは俺の未だに遵守しているモットーでもある。


 朝はいい。仕事をさくっと片づけるにも気持ちのいい時間帯だ。それに朝のスタートをいい感じで始められると、一日中ずっと上手く行くのだ。気分が引き締まるという奴だろうか。


「……う、眠……」


 まずは一人目。欠伸をしながら、危ういところまで(はだ)けさせただらしない姿を現したのはミーナであった。

 ミーナ・セリアンスロープ。獣人族セリアンスロープのワーキャットで、猫っぽい外見をした少女。

『夢見の巫女』という変わった加護を持ち合わせており、実際に時々、夢でお告げを受けることがあるのだという。


「どうした、眠いのか?」


「だって、私夢見の眠り姫ですから……」


「何だそりゃ」


「お早うのちゅーがないと起きれないんですよ……」


「なあ知ってるか? 寝言って寝て言うらしいぜ」


 この通り、ミーナは俺へのアプローチが少々露骨だ。多分俺を誘っているつもりなのだろう。

 だが、俺は超ドライな一面があるので(キスとかやめてくれ、寝起きの口内は濯がないと汚いだろ)などと女の子に大して割と容赦ないことを考えていたりする。


「じゃあ寝まーす」とか何とか戻ろうとする彼女にデコピンを食わす。痛っ、とか頭を押さえていたが知ったことではない。

「寝言は寝て言わないといけないですから、寝ないといけないんです!」とか言ってたが、それこそ寝言は寝て言えって話である。あれ、ややこしいな、何だこれ。


「……あら、お早う……」


 続く二人目として姿を現したのは、うちの頼れる副店長ヘティ。

 本名はヘタイラ・ラミアー。魔族のラミアー種である彼女は、下半身が蛇のようになっている。


 ヘティもまたひどく眠そうな様子であった。そういえば蛇は変温動物であり、体が暖まらないと眠くなるという特徴があった気がする。


 しかし、しっかり者の彼女にこんな一面があるだなどとは珍しいものである。典型的なデキる女、という感じの綺麗目の顔立ちの彼女が、少し眠そうに目をこする仕草を見せるなんて、ちょっと貴重な光景だ。


「ヘティ、聞いて下さいよ、さっき主様にデコピンされました! やっぱり主様はDV夫ですよ!」


「あら、お早うミーナ。朝から元気ね」


「今夜は寝かせないぜーみたいな肉食な一面もあるし、でも意地悪な部分もあって、でも仕事はバリバリ系、これは間違いなくDVになるパターンです!」


「デコピンとかディーブイとか肉食ってどういう意味なのか分からないのだけれど、でもまあそうなのかもしれないわね」


「て、適当……」


 眠いのか頭が働いていないのか、ヘティはミーナに適当に話を合わせていた。これにはミーナの方が「こんなヘティ初めて見ました……」ときょとんとしているぐらいであった。

 俺もちょっと驚いている。いつものデキる女オーラが、今はすっかり影を潜めているではないか。


「というかDVってなんだよミーナ」


「にゃっ! はにゃ()そうにゃって(そうやって)はにゃを(鼻を)つみゃむとこほ(摘まむところ)です!」


 手を離したら、ふしゃーと警戒された。ふしゃーって何だよ、猫かよ。

 あと、今夜は寝かせない云々。別に俺、そんなこと言った記憶がないのだが。


 とりあえず茶番はさておくことにして、残りの面々を起こしにかかることにする。


「――残念、起きている」


 三人目。ハーピィの女の子、イリは既に起きていた。イーリス・ハルピュイア。緑の髪とアホ毛、翼になっていて手がないその腕、そして断片的なしゃべり方が特徴的な、ちびっ子三人組の一人だ。


「一二歳を、ちびっ子とは、言わない」


「こら、人の心を読むな」


「鳥の朝は、早い」


「お前マイペースだよな、本当」


 イリはいつもこんな感じだ。無口無表情の女の子なのかと思いきや、喋らせると面白いパターンの子である。そしてスケベな話題に食いつくというむっつりな一面もある。中学生男子かよ。


 そんなイリだが、今は日向ぼっこに興じているらしく「暖かい」とご満悦のようであった。目を閉じて「暖かいのは、好き」とか言ってたので「そうか」と適当に話だけ合わせておいた。


「……うるさいわね」


 そんな時、不機嫌な声が背後から聞こえてきた。四人目。振り返るまでもない、我らが不機嫌姫、ユフィである。

 ユーフェミア・スコヴフォルク。不遜系銀髪エルフ、で端的に言い表せてしまう傲慢ちゃんである。


 潔癖な一面がある彼女は、例えばテントの掃除を申しつけると涙目になるぐらい嫌がったりする。この前ドジなネルに雑巾の水を飛ばされて「ひぃ!」とか言ってたっけ。


 今、彼女が不機嫌な理由は、朝早くに叩き起こされたからだと思われた。というかそれしか思い当たらなかった。


「アンタたち、朝早くに騒ぐと近隣迷惑になるわ。分かってる?」と苦言を呈してきたので、一応俺が受け答えることにした。


「大丈夫さ。ここはオアシス街とスラム街の境目、近隣住民の数は少ない。それに騒がしいという程には騒いでないつもりさ」


「……万が一、面倒な人間に目を付けられたらどうするつもりなのよ」


「その時こそ、うちに控えている奴隷たちの出番さ。三〇人単位の人間が槍稽古とかで鍛えているし、荒事だったら何とでもなるさ」


「雑な思考ね」


 ばさばさ、と野鳥たちが飛んでいく音が聞こえた。どこかのゴミでも漁ってたのかもしれない。

 この街『オアシス街』のはずれの部分、通称『スラム街』にはよくある光景だ。

 廃墟と岩。疎らにある露店とテント。浮浪者、野鳥、そしてゴミ。

『スラム街』エリアは、この街のはずれにあるだけあって、怪しい雰囲気に満ちている。

 

「まあ、アンタの言うとおり今まで問題はなかったかもしれないけど、これからはそうは行かないかも知れないわ」


 腕組みをしながら語るユフィ。

 彼女はいつも、全く楽しくなさそうというか、妙に言葉が尖っているというか、そんな感じなのである。

 気難しい年頃、という奴だろうか。


「……皆さん、お早うございます……」


 そんなタイミングで、ようやく五人目のネルのお出ましであった。ネリーネ・スィレネ。魔族セイレーンの娘であり、青く透明感のある髪を持つ。

「うぅ、眠いです……」とぼんやりした顔をしているところを見ると、ネルは本当に朝に弱いらしい。おっとりした彼女らしいといえば彼女らしい。


「何のお話でしょうか……? お魚……?」


「……ネル、アンタね、誰もお魚の話なんてしてないわよ」


「でもユフィ、お魚はそうは行かないかも知れないわ、って言いませんでした……?」


「これからは、よ……」


 寝起き早々、早速の天然ボケを発揮していた。これには流石のユフィも「お魚って何よ……」と呆れかえっていた。ネルは眠かろうが起きていようが平常運転らしい。つまり天然ちゃんである。

 そのタイミングで「え、あ! ご、ごめんなさい、ご主人様!」とようやく俺に気付いてかなり狼狽えていた。


「お早うございますを忘れてました! ごめんなさい!」


 遅れたことに対する謝罪じゃなかった。挨拶かよ。

「うん、お早う」「はい、お早うございます!」とにこにこ言われてしまったので注意する気も失せてしまった。

 何というか、この子は注意しても仕方がないタイプなのだろう。無意味というか何というか。


「で、お魚でしたっけ!」


「違う」


 お魚から離れろよ。


「え! そ、それは、ご、ごめんなさい!」


 あと妙にネガティブでよく謝る。恐がりなのかもしれない。何故か俺を恐れているみたいだし。何故だろうか。


 とりあえず、他の奴隷たちも続々と起きてきたので、そろそろいいタイミングだ。

 俺は一つ手を叩いて「さあ連絡だ!」と注目を集めておいた。


(後はルッツだが……まあ彼には朝の肉の仕入れを頼んだからここにはいないとして……)


 本来ならここには後一人、ルッツというオークの子供がいるのだが、彼には肉の仕入れを頼んでいるのでここにはいない。

 肉、というのは、肉炒め販売のための食材だ。


 そう、今回弊店『人材コンサルタント・ミツジ』は、肉炒めを販売して一儲けすることを目論んでいるのだ。


「諸君! これから一週間、忙しくなるとは思うが気を引き締めていこう! オアシス街のみならず外の街からも客がくる! それはつまり、外部の客に当店の独自性と特殊性をアピールするまたとない機会でもあるということだ! 抜かるな!」


 そう、一儲けというのも。


「何故なら今日からは、『蚤の市』だ!」

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