奴隷キャリアプランナーSS番外編 桃太郎
昔々、あるところにミーナさんとヘティさんが住んでおりました。
二人は慎ましい生活を送っておりました。
ある日のことです。
ミーナさんは山へと芝刈りに、ヘティさんは川へと洗濯をしに行きました。
ヘティさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこ、とやってくるではありませんか。
驚いたヘティさんですが、「これを持って帰って食べようかしら」と考えて、蛇の尻尾でぐるぐる巻きにして持って帰りました。
家に帰ったミーナさんとヘティさん。
「おおお、これは桃ですね! でかい! これは何だか凄そうな予感!」
「ええ、そうね。でも二人で食べても多いわね。少しずつ切って、食べない分は冷やして保存しましょう」
「流石ヘティ、冷静です!」
と、まずは小さく切り分けようと話が進みました。
桃に包丁を入れたミーナさん。
「ん、あれ? 何かがいるような……?」
と何かに気付いたようです。
「ああ、よく気付いたな、ミーナ。まず部屋を開けるときは中に誰かいないかを確認するべきだ。――まあノックがなかったのは減点だがな」
そう、中には桃太郎がいたのです!
「いや、桃太郎じゃないですよね!? 桃太郎いきなり喋らないですよね!? しかも挨拶について説教しないですよね!?」
「最近の桃太郎はそれぐらいするさ。挨拶はビジネスの基本だ。分かったな?」
「しかもこの桃太郎なんか生意気ー!?」
ミーナさんはショックを受けていますが、スーツ姿の桃太郎でした。
* * *
「じゃあ、新規顧客の開拓と営業回りに出掛けてくる」
「鬼退治しろー!」
ミーナさんは騒いでいますが、桃太郎はどこ吹く風でした。
* * *
「どうやら鬼ヶ島には娯楽が足りないらしい。そこで新たにアイドルをプロデュースして売り込もうと思う」
「アイドルって何ですか!? プロデュースって何ですか!? 世界観とは一体!?」
「CDに更なる付加価値を産み出すため、握手券を作ろう。歌だけじゃなくて歌って踊る可愛い女の子、という点を全面的に押したい」
「何か言ってるー!?」
何か言ってました。
* * *
「……ということで、犬、猿、雉の諸君にはアイドルとしてデビューしてもらうことになった」
いつの間にか、犬、猿、雉がお供になっていました。
いえ、無理やりそうなっていたと言っていいでしょう。
「犬ですか? わんわんです!」
犬耳を付けたネルは、案外楽しそうでした。
「猿って何よ! ねえ! 配役おかしくないかしら!」
「いや、いつもキーキーうるさいだろ?」
「きいいいいいいいい!」
猿役にされたユフィは相当頭に来ていたようです。さっきから一人だけ暴れまわっていました。
「私は、鳥」
イリは相変わらずでした。
「私が 皆の、オオトリ」
「……」
「歌えば 皆は、うっとり」
「……」
「ここで 利かすぜ、はったり」
「……」
「手柄 私が、総取り」
しかも何かノリノリでした。
隣でユフィが「何でラップしてるのよ……」とげんなりしています。
しかし桃太郎はというと。
「採用だ!」
何か合格を出してました。
どうでもいいですけど、そろそろ鬼退治してほしいです。
* * *
「うふふ、鬼よ」
「がおー、鬼です! ……って何ですかこれ! 配役に悪意ありますよね!?」
ヘティさんとミーナさんが、鬼ヶ島で楽しそうにしていました。
「おじいさんとおばあさん役って!? そしてその後鬼って!? 看板二大ヒロインにやらせるお仕事じゃないですよね!? 絶対こんなのっておかしいですよね!?」
何かを必死に訴えていますが、今さらの話でした。
「おじいさんとおばあさんって!? 年増ってことですか!? しかも鬼って!? 鬼ヒロインってことですか!? ネガキャン半端じゃないですよね!? ヒロインの扱い雑すぎませんか!?」
魂の涙を流しているミーナさんでしたが、全然誰も取り合わない様子でした。
無念です。
「まあ、心がおっさんのミーナとアラフォー設定のヘティだったらじいさんばあさんで妥当だろう」
そこに桃太郎がやってきました!
相変わらず容赦がありません!
「酷すぎる!?」
とミーナさんは崩れ落ちてました。
どうやらこっちの鬼は豆腐メンタルのようです。いじけてます。
かと思うと、「がお……」と何かのエロゲのヒロインを真似しているので、以外と芸人根性はあるようです。
面倒くさい女の子です。
「何かナレーターにディスられてるんですけど!? 酷すぎませんか!?」
時間の都合でスルーさせていただきます。
「さあ、鬼の諸君。君たちにはうちのアイドルを見てもらおう! そして思う存分貢いで貰おう! ペンペン草も生えないほどにな!」
「鬼ー!? 鬼はそっちの方だー! 所業が教育用絵本のそれじゃねえー!?」
「これがビジネスだ。教育になっただろう?」
「教育の意味を悪意ある方向に曲げてやがるー!? 何て人ですか! 鬼です鬼!」
もはやどっちが鬼だか分かりません。
着いてきた三人のお供も「わんわん」「何なのこれ……」「鬼も 流石に、げんなり」と好き放題です。
収拾がつきません。
しかしその時でした。
「はあ、仕方ないわね」
と、ヘティさんがにじり寄ってきたではありませんですか。
「いいかしら。貴方はアイドルをプロデュースして売り込もうとしたのよね。そのために幾ら費用がかかっていると思うかしら」
「? CDと握手券だろ?」
「それが問題なの。いいかしら、元をとるためには5000枚中2400枚を売らなきゃダメなのよ。彼女たちへの給金を考えたら3200部は欲しいところよね。貴方、それだけを私達だけに売れると思ったのかしら」
――流石はヘティさん、数字に強いです。
「あくまで君たちはモデルケースだ。これを足掛かりにノウハウを培って、他の鬼たちへと同様のアプローチを展開するつもりだ」
「そんな悠長なこと言ってられないわよね? 誰が会計簿をつけていると思うのよ?」
「だが」
「だがも何もないわよ。貴方はまずは手を広げるよりも先に他にやるべきことがあるでしょう? 奴隷商本来のお仕事とか!」
「だがしかし」
「だがしかしもないわ。いつも営業だとか外回りだとかで店をほっぽり出して、そして飲み歩き食べ歩き! それでどうして利益が出ると思ってるの!」
「だ、だが」
何だか桃太郎の旗色が悪そうです。
ヘティさんの勢いに呑まれています。
「店主なら店主らしく店にいなさい! 何で毎日のように貴方は遊び歩いているの! そして何で私の方が店の経営管理をずっとしているの! 私がいなかったらお店は立ち行かないのよ! 全くもう!」
「……」
「返事はいかがかしら」
「……なるほど。言葉もありません」
桃太郎、負けだそうです。
「意見を真摯に受けとめ、次に向けてプランを修正していくことこそビジネスの基本」とかなんとか負け惜しみを述べてましたが、とどのつまりは反論できなくなっただけです。
やはり流石はヘティさんでした。
「ヘティ、怒ると鬼でしたね……」
ミーナさんはしみじみ呟いていました。
どうやら話のオチはこれで綺麗にしまりそうですね。
めでたしめでたし。
「わんわん!」
「ご主人 怒られ、しょんぼり」
――何か、まだ続けてましたとさ。
めでたしめでたし。
「めでたくないです! 何にもめでたくないです! おじいさんと鬼って!?」
「そうよ! 猿って!?」
――めでたしめでたし。




