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魔人 -Restricted-  作者: ともえ
-帝国の騎士篇-
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第六話 「横から快諾」


 言葉を失ってしまった。

 ゴールドマンの提案はそれほどに明後日な方向へ向いてると思ったし、客観的に見てありえない。


 〈三商ギルド〉に加わるとはすなわち、この国を支える三柱の一本になると言うこと。

 ちんけな、それこそ収入の当てもない探偵事務所が担えるものじゃない。


 この国の人口は三〇〇万人ほどと、国としてはとても小さい。しかし、観光客の数は馬鹿に多くバカンスとして訪れる者が後を絶えない。

 目的は女と賭博。この二つの事業は四六時中休むことなく営業されており、当然ながらこの国ではそれが合法だ。


 国によっては売春も賭博も違法な国があるし、営業時間も厳しく設定されていることが多いため、この国は一部の紳士に対して大変に高評価を受けているのだ。

 この生産性の欠片もない事業で国は回り、だからこそ輸入や輸出と言った事業に積極的ではない。


 立派に整備した港があるにも関わらず、他国へと直通船を出さない理由も存在する。

 事業柄、恨みを買うことが多いために自国から呼び込むような真似はしない。それに、宣伝を打たずとも来る者は来る。そう言った性質のレジャーであるため、何かを積極的にせずとも外貨は勝手に流れ込む。


 自炊を推奨しない外食産業にも多大なる税を掛けているから金の回りは常に良い。

 それによって小国でありながらもこの国はインフラの整備が行き渡っている次第だ。


 つまり、この国。〈クルノワ共和国〉は小さいながらも、主としている事業柄上、それなりの金を持つ国家となっている。

 共和国と言うだけあり、王族や帝族と言った君主がいないため、法整備なども簡単に行える腰の軽さが国の発展を促し続けていた。


 そんな国を支える三本柱の一本に、僕が? この事務所が?

 与太話も良いところだ。


「そう顔をしかめないで欲しいなぁ。一応、最後まで話を聞いてから考えてくれるかな?」


「……えぇ。一応は」


 一応。と言う単語を強く発した。

 例えば失脚したアルフォードの代わりに飲食のシマを任されるのはごめんだ、門外漢どころの騒ぎじゃない。


 この事務所に居るのは小柄で口達者な吸血鬼ヴァンパイアと、コミュニケーション能力の乏しい無職の龍人ドラゴニュートと、異常な身体能力を持つ幼児のような人虎ワータイガー

 そして無能で不能な探偵事務所の所長である僕だけなのだ。


「多分、想像しているのとは違うと思うよ。飲食と言う業界も難しくてね、これは当初の予定通りに僕とコルトの商社で回す予定なんだ」


 ほう、では僕に任せたいものとはなんだろう。

 アルフォードの提案していた要人のボディーガードだろうか。だが、その程度の仕事でギルドに加入など出来るはずがない。国民が納得しないだろう。


「かねてより、国々は〈壊れた魔人〉に対して注意深く意識を尖らせてきた。この国も御多分に漏れず、警戒は怠っていないよ。その証拠に、ベルガモットさんの目撃情報が入ってからは直ぐに警察機構を総動員して壊れているかどうかの確認を行ったからね。ホプキンスを使って個人的に勧誘しようとしたのはアルフォードだよ。彼の一番の失脚原因は警察機構の私物化だ。僕たちは商売人であると同時に政治家でもある。その、政治家風情が国の税金を賄って組織された警察を私物化しては国民も納得がいかないだろう?


 事実、警察機構は政治家の犬と言う印象を民衆は持っているはずだよ」


 ギクリとした。

 まさに僕が警察機構に抱いていた印象そのままである。


「これからは真っ当になるさ──で、壊れた魔人についてだね。それの侵入に対して見張ってはいるのだけれど、それだけだ。軍隊のないこの国では万が一のことが起きたら終わるだろうね。国が亡ぶ」


 ここにきてようやく、話の筋が見えてきた。

 あぁ、そうか、つまり……。


「要約しよう。この事務所……いや、商会は壊れた魔人が国に侵入して来た際の防衛として機能して欲しいんだ。補足説明しておくと、建国以来、一度もその存在が入国してきた事はないよ。つまり、保険さ。民衆に、この国は脅威に対する力があると言えるようになる。巨大な暴力から民衆を守れる」


「……」


 なる、ほど。

 色々なものが僕の頭の中で組み合わされていく。事と次第によってはとても良い取引になる。


 だが、なにか気に入らない。

 そもそも、僕は人間であってなんの力も持ってない。


 彼らが欲しているのは魔人の力だ。

 そしてその魔人がなぜか僕の腕の中にあり、それは万金に値する価値がある。


 嫌だ嫌だ。

 まるで他人の褌で相撲を取るようだ。虎の威を借るなんとやら。


 これは男としてのプライドだとか矜持だとかそういった類のものではない。

 気に入らない、好みじゃない。


 僕は権力にも特権にも興味がないのだ。それよりも人様から注目を集めることの方にこそストレスを感じてしまう。

 あぁ、くそ。なんて言って断ろうか。


「この話を飲んでくれた場合、魔人の三人方には平時待機として月々に給金を支払うことにるね。金額は役所の平社員程度で、これは直接に支払っても良いしこの事務所に支払っても良いから任せるよ。そして、万が一……壊れた魔人の入国が確認されたらそれの排除を全力を持ってしてやって貰う。成功時の報酬は一般的な勤め人の年収を三人分支払うよ。まぁ、失敗した場合は国が亡ぶのだからもっと報酬をあげた方がとコルトに言ったんだけれど、高過ぎても相手方……つまり君たちが嫌がるんじゃないかと予想を立て


ていたなぁ」


 条件を言い終えたゴールドマンはぬるくなったコーヒーを流し込んだ。長々と台詞を吐いたから喉も渇くというものだ。

 さてさて、条件を聞こうにも僕にその気はない。


 なんと言っても、関係ないからだ。

 確かに壊れた魔人が国に入り込めば亡ぶだろう。国民として有効な対策をして欲しいとも思う。


 けれど、これは話が別だ。そもそも、僕に話を持ってくること自体が間違っている。人間だぞ? 僕は。

 ゴールドマンもコルトピアも、僕が魔人なのだと勘違いしてるんじゃあるまいな。交渉する相手がまず間違っているんだ。


「まぁ、エイリアスもまだ仕事中だろうし話し合って決めて欲しいな。早ければ早いほど〈三商〉の名前が復活させられるから有難いんだ。そうそう、その場合は賭博と女と、飲食ではなく対魔人防衛と言うことで魔衛まえいと言う言葉を当てることになるかな」


 よし、断ろう。

 これ以上に話を聞いて、半ば期待させてしまうのも申し訳ない。


 と、僕が口を開き掛けた瞬間だった。

 両隣の、困った生物が立ち上がったのだ。


「やっ、やる……ます! わ、私にもそれなら出来る!」


「自分もやるぞー! 国のため? そうだー! 正義に違いないっ!」


 なんてこった。

 ソファからずれ落ちそうになる。


 まさか二人がこんなことを承諾……いや、ちくしょう。この二人だからだ。

 イリスが居てくれたのならば、きっと話は違う方向に運んだことだろう。


 無職であることを気にしているらしいベルと、守るとかそう言った言葉に鋭敏なウルスラ。

 あぁ、そうか。漂っていた違和感の正体に気付く。ゴールドマン程の男が、イリスの雇い主である彼が、彼女の出勤時間を知らないはずがないのだ。


 留守を狙ったのだ。勝率を上げるために。


「即決とは嬉しいね。最悪、エイリアスが参加を拒否しても二人の協力があるのであればなんら問題ないよ。かの帝国ですら、軍部に携わってるのは一人きりだからね。二人ともなれば大船どころの騒ぎじゃない」


「まっ、任せてくれ! 龍人ドラゴニュートの名誉にかけて、責務を果たさせて貰う」


 ベルはそう言うと僕の方に視線を移し、キラキラと輝く瞳を見せた。

 これで私も働けるよ! と訴えかけているように見える。


「自分もだぞ! にゃははっ、なんだか凄いなー! 国を守るんだろー? 頑張らなきゃだ!」


 ウルスラも目を輝かせていた。

 今まで行ってきた無理やりに近い救助活動。正義とは程遠い暴力のみでの解決ばかりで、感謝されることがなかった彼女からすれば、国から民衆を守って欲しいなどと言われれば……。


「と、言うことらしいが。テイラー君? よろしいかな?」


 よろしいもクソもない。

 僕がどうこう言う資格は有してないのだ。


 彼女らがその意思で決めたのなら、文句をつけられるはずがない。


「よろしいも、よろしくないもありませんよ。彼女たちがやると言っているのです、僕が口を挟む理由はありません」


 そう言って僕は両手を上げた。

 降参、参った、許してくれのポーズだ。


 ゴールドマンはそれを見るとニコリと笑って、握手を求めてきた。

 それに応じて、交渉は成立。


 晴れて、この事務所は商会扱いとなった。

 魔人である二人だけの問題であるはずだが、僕は逃げられないことをわかっている。


 どうせこの探偵事務所は僕の意思など無視して巻き込まれるのだ。

 だったら、無駄な労力を使わずに流される。魔人と出会ってから僕が身に付けた処世術のようなもの。


 ため息をこぼし、すっかりと冷え切ったコーヒーを一息で飲み干した。




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