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魔人 -Restricted-  作者: ともえ
-人虎と三商ギルド篇-
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第七話 「会合」

 身支度を整えて事務所から出ると、仰々しい馬車が停めてあり、それが三商社の用意したものであることは直ぐにわかった。

 僕とイリスは慣れた手つきで乗り込み、ベルとウルスラはあたふたとしている。


 軍人時代に最低限の教養やマナーを叩き込まれているし、無能ではあったが一応の少将ではあったため馬車は慣れたものだった。


 程なくして、馬車の動きが止まる。どうやら目的地に到着したようだ。

 馬車から降りると目の前には豪奢な建物が待ち構えていた。


 彼らが会合場所に選んだのは高級レストランだった。

 扉は分厚く厳重。中に入ると装飾品も高そうな品ばかりであるし、絨毯の厚みなど一瞬バランスを崩してしまうほで、贅沢の限りを尽くしてみましたと言った具合の店だ。


 用意された部屋までの道すがら、隣をトコトコと歩くイリスに声をかけた。


「この国で一番上等なレストランだ」


「魔人を招待するんですもの、当然の配慮よ」


 可愛げの欠片もない発言をする彼女は随分とめかしこんでいた。

 ドレスコードがあると言われたので、それぞれがそれなりの格好を作っていた。


 僕はスーツ。イリスに女装はしないのかと茶化されたがする訳がない。

 そう言った彼女はやはり、黒いドレスを纏っていた。妙に似合っているあたり、帝国の屋敷ではそう言った格好をしているのだろう。



「あ、アルト……私の格好は変じゃないだろうか」


 ベルは事務所からこっち、慣れないドレスを着て挙動不審に陥っている。

 真紅のドレスは彼女にとてもに似合っていた。


「なんかここ凄いなー、金ピカだ」


 辺りを物珍しそうにキョロキョロと見回すウルスラは、意外にも白一色のドレスである。もう少し装飾が派手であればウェディングドレスにも見えた。

 白地に黄色と黒の髪色が映えて、思いのほか綺麗だった。


 注釈するのであれば、僕の引き連れる三人の魔人全てが完璧な化粧を施してある。

 イリスからの注文で僕の手でそれが行われた。


 自分で言うのもこそばゆいが、僕の化粧技術はそれなりの物なのだ。

 少将時代、様々な性癖を有した将軍皇女の要望に応えるため随分と苦労して身につけた技術で、それがあるからこそ探偵業を始めたと言っても良い。


 そのお陰か、元々の顔立ちが良い彼女らは着飾ったドレスもあって容姿端麗と言わざるを得ない姿形をしていた。

 僕らを部屋に案内する給仕者の表情がそれを如実に物語っている。


 上品に歳を重ねた初老の男性だが、彼女たちの露出した肌を見た途端に春を思い出し、忘れかけていた疼きを股間に覚えたはずだ。

 それを感じ取ってわかってしまう自分がまた悲しい。


「こちらでございます」


 給仕者が扉を丁寧に開けてくれた。

 天井からはガラス細工のシャンデリアがぶら下がり、煌びやかな光で部屋を照らしている。


 まるで部屋を着飾るように絵画や調度品が方々に設置されていて、中央に円卓が置かれていた。

 男性が二人、腰を下ろしていた。


 一人は痩身で、一人は肥満。


「やぁ」


 声が横からかかった。燕尾服を身に纏った<ラルフ・ホプキンス>だ。

 どうやら彼もこの場に呼ばれているらしい。


「痩身で丸眼鏡をかけているのが、賭場を取り仕切るゴールドマン氏だ」


 小声で教えてくれた。

 何処からどう見ても肥満、としか言いようがない男性の説明は省かれた。


 彼がこの国の飲食を支配してる<ガンド・アルフォード>であることは明々白々である。

 ホプキンスが説明を省いたのは小声ですら、あそこのチキンを頬張ってる首なしのデブがそうだよ、などと言えるはずもない。


 そして娼館を切り盛りしている、三商社で唯一の女性。<レイラ・コルトピア>の姿は見えなかった。


「やぁ、エイリアス。ゴールドマンとして会うのは初めましてだね」


 一番最初に声を出したのは〈サック・ゴールドマン〉だった。


「あら、オーナー。店舗の責任者かと思ったら、なあに? トップの人間だったの?」


 どうやら、口振りから察するにイリスとは顔見知りのようだった。

 それどころか、働いているカジノのオーナーでもあるらしい。


 この国に数多ある賭場の一つに、元締めが現場に居るとは誰も思わないだろう。


「うん。どうにも鉄火場の匂いと言うやつが好きでね、現場にはちょくちょくと顔を出しているんだ。あぁ、テイラー君も初めまして。君のことはよく知っているよ、お得意様だからね。気持ちの良い張りをする」


「これは……いや、お恥ずかしい。カジノには大いにお世話になっています」


 柔和な声で、喋り方からは知性すら感じられ、スーツの着崩し方が異様に似合っている。

 天然なのだろうか、アッシュ色の髪はくしゃくしゃと色々な方面へ跳ねておりまとまりがない。


 痩身も合間って、この男が賭場を取り仕切る大人物であることを匂わせる素材はなに一つかなかった。

 隣でチキンに夢中になっている男の方が余程ガラも悪く、カジノに似合ってると思った。


「なんだ、なんだ。魔人てぇのは揃いも揃って随分とめんこいじゃねぇの。コルトピアの店に居る嬢よりか上玉じゃねぇか」


 やはり、と言うか予想通りの口汚なさだった。おそらくは特注で作らせた特大のスーツがミチミチと音を立てる程の肥満体で、首が見当たらないほどに肉がついている。

 髪はなく、スキンヘッドで頭部だけが涼やかだった。


 チキンを汚らしく食い散らかしながら、下卑た目でイリスたちを視姦している。

 そんな時だった、


「あら、随分な言い方ね。貴方がそのつもりならご利用して下さらなくても結構なのよ。わたしくしの娘たちも、貴方の体重には辟易しているもの」


 いつの間にか、イリスの真後ろに妖艶な女性の姿があった。

 珍しくイリスが驚きの表情を作っている、つまり、その女性が発言するまでその存在に気付けなかったのだ。


 透き通るような長い白髪を蓄え、胸元が大きく開いた紫色のドレスと、半透明のストールを羽織っている。

 間違いない、彼女が三人目だ。


 この国の娼館を一手に担う女傑〈レイラ・コルトピア〉だろう。

 彼女はイリスの肩に両手をかけ、


「貴女がエイリアスちゃんね? カジノの方から噂が流れてきてるわ。随分と可愛いわね、うちの店でも働いて貰いたいほどだわ」


 などと気安く語りかけている。

 イリスの表情は芳しくなかった。


「貴女、本当に人間? 発声するまで気配なんて感じられなかったのだけど」


「それは褒め言葉として受け取っておくわ。なにせ、か弱い女なのでね、身の安全を確保するために用いた努力はそれはもう」


 大きく手を広げ、大袈裟に振る舞う。

 そして僕はどうにも、この女性がわからないでいた。年齢が読めないのだ、肌に皺やシミはない。


 けれど、風格は二〇代で持てるものでもない。

 そんなことを考えていると、


「おい、んな所でくっちゃべってねぇでさっさと腰を下ろせ。いつまで待たせんだ! ホプキンス、お前も座って良いぞ」


 どうやらアルフォードの気は長い方ではないらしく、大声で着席を促された。

 コルトピアは鼻を小さく鳴らし、席に着きましょうと言った。


 こうして、魔人と人間の会合が開かれた。

 権力の塊である人間三人と、力の権化ごんげである魔人三人。


 なんの因果でなんの力も持たない僕がここに居るのかと、頭を悩ませるが、そう言った贅沢は後ほど楽しむとしよう。


 さぁ、開戦だ。



 ◇



 席についてなる程、と思う。


 痩身で覇気が感じられないと思ったゴールドマン。

 体に肉が付きすぎ、粗野な言葉遣いを用い小物臭がすると思ったアルフォード。


 唯一の女性にして、妖艶な雰囲気を放つが、女と言うこともあり他の二人と比べて評価が高くなかったコルトピア。

 やはり、僕は無能だと自身を内心で叱責した。


 対峙してわかる、彼らの放つ雰囲気は常人が纏うそれとは一線を画している。

 軍部であればそれぞれが大将クラスの重圧を感じられる。


 やはり、小国とは言え国を担う人間とはこれほどにも別次元の生き物なのだと納得してしまった。


「さて、何から話そうかな」


 最初の言を切り出したのはゴールドマンだった。

 進行役に収まりたかったのか、話の主導権を握りたかったのかは定かではない。


「まぁ、何はともあれだ。ホプキンス、ご苦労だったな。この場を設けたのはお前だ。ウチの商社から警察機構へそれなりの額を納めてやる。ゴールド、コルト、お前らもそれで良いな」


 ゴールドにコルトと言うのは略称だろうと言うことは直ぐにわかった。

 それよりもアルフォードら三人が略称で呼ぶほどの仲だと言う方が少しばかり意外である。


「あぁ、構わないよ。ご苦労だったね、ホプキンス」


「勿論、異論はないわ。ホプキンス、なんならウチの娘を一日貸すサービスも付けるわよ?」


「御三方、ありがとうございます。それと、私には妻がおりますので」


 ホプキンスはそう言って丁寧に特別報酬を断った。

 この話を奥方にすればさぞ喜ぶだろうなとは思ったが、彼の奥方は僕にとって飯のタネになり得る存在だったのでその思いは胸の内にしまい込んだ。


「さぁ、本題だ」


 アルフォードが仕切り直す。

 この男、上手い。ゴールドマンが握ろうとした主導権を、ホプキンスの件を持ち出し一気に握ってしまった。


 ゴールドマンの方に視線をやると、すまし顏を作っている。完璧なポーカーフェイスで見習いたくもあった。



「今回の議題は魔人だ。この三人のべっぴんさんの話題に尽きる」


「この国に魔人が足を踏み入れるのは初めてだからね」


 アルフォードが言い放ち、ゴールドマンが付け加える。コルトピアは脚と手を組み、傍観していた。


「話してぇことは山ほどあるが、まず一つの問題を片付けようか。これは俺とコルトが突つかにゃならん問題だぜ」


「となると、標的は僕か。参ったなぁ、お手柔らかに頼むよ」


「どうぞアルフォード。貴方が話して下さいな」


 僕たちは一言も発言せず、ただ三人のやり取りを聞くだけだった。ウルスラなど欠伸をかいている。

 レストランだと言うのに出されたのはコーヒーだけで、アルフォードの前にだけチキンが山積みにされていた。


 説明しておくと、僕を挟むようにイリスとベルが座り、ベルの隣にウルスラが腰を据えている。

 後はイリスの左隣から順にコルトピア、アルフォード、ゴールドマンの並びで座っている。


「ゴールド。お前さんの店で魔人の姉ちゃんが働いてるな? 大層な評判だ。べっぴんの魔人が人間相手にディーラーやってるってんだから、そりゃ人気も出るわなぁ」


「ありがたいことに、彼女──あぁ、そこに座っている黒髪の、エイリアスのお陰で随分と儲けさせて貰っているよ」


 返事と、そのついでにイリスの紹介をしてくれた。

 そう言えばいきなり会話が始まったもので、碌な自己紹介もしていない。


「そいつは重畳。国のために儲けるのは大変に結構なことだ、そりゃご機嫌にもなる。だが、そうじゃねぇだろ?」


 アルフォードの眼光が変わった。

 睨みが効き、声にもドスが効いている。


「なんで手前ぇのシマで魔人が働いてんだってことだろうが」


 つまりはそれが本題なのだった。

 魔人の誘致こそが、と思っていたがアルフォードは違った。


 本丸は〈サック・ゴールドマン〉だ。彼は飲食業界だけではなく、賭博業界すらを手中に収めたいと思っているのだろう。

 この空気は知っている。まつりだ。


 同じ国に住む同志ではなく、権力を分散している政敵として相手を捉えている。

 アルフォードの目は正に、敵を殲滅するためだけに突撃命令を下す将軍のような目付きと気迫だった。



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