第8話 ポンコツ。居ても邪魔
「あっはっはっは!うぇっへっへっへ!!ひぃぃひっっひ!!ゴファ!!」
ジャスから一応解決したという思念波を受け、神殿に戻り女王の寝所で全ての事情を聞いた3体、いや3人の古代竜。
3人とも唖然としていたが、一番最初に反応があったのが先程ローラルダとルルエンティの二人に殴られ、神殿の壁を突き破って消えていったダリウスであった。
(彼・・・死んだんじゃないか?)
女王と暴れた時にも傷一つ付かなかった壁に大穴が空いているのを見てジャスは冷や汗を流す。
先程の女王が全然本気ではなかったことを改めて思い知らされたカタチだ。
「私がこの者を遣わせた結果、このようなことになってしまい大変申し訳ありません。この命をもって謝罪させていただきたく思います」
事態を飲み込めたルルエンティが跪く。
その姿に女王はふぅ、と額に手を当てて息をつく。
「良い。この事態を招いたのは癇癪を起こし汝らを追い出した妾の責じゃ。それに我が子同然の汝の命に変えられるものなどありはせん」
「じょ、女王様ぁ」
魔力で作った椅子に腰を掛けているため、空中に浮いているような体勢で臣下に告げる。
その慈愛に満ちた言葉にルルエンティは金の瞳から大粒の涙を流し女王を見つめる。
「でも、追い出された原因は、ルル」
ぼそっと女王がララと呼んでいた3人目の古代竜が呟く。
その言葉に子竜以外の全員が硬直する。
「お、お姉ちゃん?」
どうやらルルエンティの姉であるらしい古代竜は呟くように続ける。
「ルルが、女王様怒らせなければ、この事態起こってない。この人間ここに居ない」
じぃっとジャスの目を覗き込むように見てくる瞳の色はルルエンティの金色とは対照な銀色。
2つの団子状にまとめられた髪も白金ではなく薄い銀色をしていた。
「そう言われてみれば、そう、じゃなぁ?ララミーナの言う通りじゃ」
「ひぃぃ、女王様!落ち着いて!」
ゆらりと立ち上がるローラルダからどす黒い障気が噴出されているようにルルエンティには見えた。
先程まで死を覚悟していたが、それでも今の状況は素直に怖い。
そんな彼女の取った行動は、
「だ、ダリウスが心配なので見てきます!!」
逃亡であった。
神殿の穴から超高速で出ていくルルエンティの姿に女王は溜め息をつき、姉のララミーナに目を向ける。
「して、妹を追い出してどうするのじゃ?ララよ」
先程の流れは二人のシナリオ通りであったことにジャスはようやく気が付いた。
あまりにも自然な流れで完全に騙されてしまった。
女王の怒りなどまるで本物のように思えた。
ふと女王の方を見るとじっとりした目と目があう。
(・・・完全に演技、というわけじゃないよな、やっぱり)
膝の上の幼女の体重を感じつつ冷や汗を流す。
女王に問いかけられたララミーナは妹が消えていった方向を見たまま、
「ルル、女王様溺愛してる。今回の件ではポンコツ。居ても邪魔。話が進まなくなる可能性が、高い」
辛辣な言葉をはく。
声にも表情にも感情がこもっていない分、本気でそう思っているのかもしれない。
「酷いことを言うのぅ」
「事実。それより今後の事、決める必要がある。一番は、この人間の扱い。始末することは」
ララミーナがちらりとジャスに視線を移すと膝の上の幼女から「うううう!」と唸りながら睨み付けられる。
それに反応せず女王に視線を戻すと言葉を続ける。
「このように、出来ない。お嬢様に嫌われる。違う、恨まれる覚悟が、あるなら
「ない!!」
・・・だから、出来ない」
きっぱりと堂々と臣下の言葉に被せて胸を張る女王。
ある意味清々しい。
ララミーナは特に表情を変えずに、
「でも、人間はここに住めない。魔力濃度が高いここに長期間居ると、死ぬ」
(だろうな)
ジャスもこの神殿内の魔力濃度の高さには当然気が付いていた。
ドラゴンには心地良い空間でも、人間の場合、耐えられる期間に個人差はあるが間違いなく遠くない未来に命を落とすだろう。
短期間であれば問題はないのだが。
「パパと離ればなれはイヤ。でもパパが死んじゃうのはもっとイヤ。だからあたしがパパの街に行くっ」
「だ、ダメじゃ!!」
母親の悲鳴に近い叫び声にビクっと思わず身をすくませる。
ローラルダは血の気の引いた青い顔で「それはダメじゃ」と繰り返す。
子竜はムっとした顔で母親の方を向くと、
「お母さんまたイジワル言うの?そんなにパパが嫌いなの?」
「そうではない!其方のためじゃ!」
「ちがう!イジワルだよ!」
「お嬢様、違う。女王様の言葉。本当だよ。人間の街に住むと、お嬢様、死ぬ」
「!?」
この場に居る4人の内2人、ジャスと子竜が息を飲む。
ララミーナは少し間を開けると説明を続ける。
「さっきの話と一緒。正確には逆。人間がここに住むと、魔力濃度が高くて死ぬ。まだ体が出来ていない、竜が人間界に住む。そうすると」
「魔力が足りなくなって命を落とすってことか」
ジャスの言葉にこくりと頷く。
膝の上で子竜は何か反論しようと口を開くが、言葉は出てこず、結局俯いてしまった。
静寂が部屋に訪れた。
(かわいそうだけど、こればっかりはどうしようもないよなぁ。そもそも俺と一緒というのがおかしいわけで。時々俺が遊びに来てあげるというのが落とし所か)
根っからのお人好しであるジャスは声を出さず涙を流す幼女を見てそう結論づけた。
転移魔法を使ったらあっという間なので日課が少し増えるだけだしな、と納得し、そう提案しようとしたジャスより前にララミーナが口を開いた。
「だから、ララが良い解決方法、考えた」
「は?」「なんじゃと?」「ホント!?」
三者三様の声にララミーナは「マジ」とドヤ顔で応える。
そして部屋の壁まで歩いていくと、
「そろそろ、頃合い」
壁に両手をついた。
すると突如彼女の両手を中心に、半径1メートル程の魔方陣が出現した。
更に魔力が込められ、魔方陣が淡く明滅したかと思うと、
「言われた通りにしてきたぜ」
魔方陣からダリウスが姿を現した。
彼の背後には綺麗に整備された色とりどりの花が咲く花壇やハンモックが見えた。
ジャスは震える指先でダリウスの後ろの光景を指差す。
「俺の店の裏庭じゃないか!!」
王都とドラゴンの神殿が繋がった記念すべき日となった。
説明するとこうだ。
ジャスがドラゴンの群れの前に姿を現した時点で、ララミーナはジャスの事を探っていた。
何処から来たのか、ドラゴンに悪意はないのか、何が目的なのか、をだ。
集中して魔力の痕跡を辿り、なんとか王都から来た人間であることを掴んだところで、ジャス本人から様子を見に来ただけという話を聞く。
その後、産まれた子竜がジャスに懐いてしまったことから今の問題を予想し、神殿外に吹き飛ばされたダリウスを遠隔で王都ゼドラルに転送する。
思念波でジャスの店に行くように伝え、そして店の適当なところで転移の魔方陣を描くように指示して魔方陣を起動。
で、今に至る。
というわけだ。
「すごい!すごいのじゃ!ララは天才じゃ!」
「ララちゃんすごい!」
「ふふ。智将ララ、と呼んでもいい」
親子竜に絶賛され、小さくVサインを作る。
盛り上がる3人をよそにジャスは魔方陣に近付く。
魔方陣の向こう側は見慣れた裏庭だった。日常が一気に非日常にかわった気がした。
そんな彼の肩にポンと手を置き、ダリウスは憐れんだ視線を向ける。
「お前、これから苦労するぞ」
「・・・・・・知ってる」
繋がった裏庭の片隅でこれから苦労する仲間の赤髪の少女が立ったまま気絶していた。
古代竜達の登場話はコレで締めです。
次回からは日常(?)に戻ります。
それでは良いお年を!




