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第69話 英雄ジャス


「あらら、また負けちゃったじゃあないか」


首を切り落とされ、頭部だけになったのにも関わらずヴァルディマは笑ってみせた。

その言葉や表情に負け惜しみなどの感情は感じられず、ただ、純粋に笑みを浮かべて軽口を叩く。


「負けて首だけになってるのに笑うとか魔人サマは変わった思考をしていらっしゃるな」


今にも崩れ落ちそうな体を気合と根性だけで支えながらジャスはヴァルディマを見下ろした。


「フハハ、そんなボロボロの状態で軽口を叩ける君も大概なんじゃあないかな?」


頭部からの流血により顔の半分は真っ赤に染まり、体中に大小様々な傷。

そして極めつけは腹部に開いた穴とその横に今も刺さり続けている黒い槍。

ジャスはそんないつ死んでもおかしくないような状態だった。

意識が途切れそうになるのを無理矢理抑えながらジャスは血とともに言葉を吐き捨てる。


「誰のせいで、ごほ、げほ!・・・こうなってると思ってるん、だ」


「ん〜・・・あぁ、もしかしたらワタシのせいかな?」


少し考え込むような仕草の後にヴァルディマは意外そうに答えた。

首だけの姿でなかったら顎に手をあてたり、ポンと手を打ってそうな、そんな軽い口調にジャスは血圧が少し上がったような気がした。


「ぶっ飛ばすぞ・・・お前・・・」


「もうぶっ飛ばされてるよ。それより顔色が悪いじゃあないか?健康には気を付け給えよ」


「言ってろ。今度はしっかり止めを刺させてもらうぞ」


3年前の同じ状況の時とは違う選択を口にする。

あの時は勇者パーティを異空間から救出し、気が付いた時には既にヴァルディマは黒い塵のような物に変わっていた。

そのため、ジャスも含め全員がヴァルディマは死んだものと考えていたが、結果からするとそれはカモフラージュであり、首だけの状態からなんとか復活を遂げて今回の事件に至った。


同じ轍を二度踏むわけにはいかない。


落ちていた古代竜の爪で出来た短刀を拾い上げてジャスは構える。

薄っすらとした虹色が、今は廃墟と化した大通りの炎を受けて赤く揺らめいた光を放っているように見えた。

その姿を見てヴァルディマは囁くように「その必要はないよ」と口にし、視線をジャスからその後方へと移した。

警戒しながらジャスも同じようにそちらに目を向けると分かたれたヴァルディマの身体が黒い塵となり少しずつ風に流されて宙に霧散していた。


「ワタシはね。もう終わりだ。本当に、本当に残念なのだけどね」


そう言って笑うヴァルディマは言葉通り寂しげな表情を見せていたが、何処か充実したような達成感に満ちた顔をしていた。

ジャスに敗北し、今にも命が尽きようとしているにも関わらず、だ。


「お前の言葉は信用ならん。また逃げようとしてるんじゃないのか?」


「あっはっは、信用ならないと信用してくれてるんだね。嬉しい限りじゃあないか。でも本当は分かっているんだろう?ワタシは終わりだよ」


一度言葉を切るとヴァルディマは視線をジャスから外して空を見上げた。

そして数秒の静寂の後、「ただね」と言葉を続ける。


「ワタシの目的はね、どうやら無事に成し遂げられたようだよ」


ゴボっと血を吐きながらもヴァルディマは目を細める。

その顔は嘘を言っているようには見えなかった。


「何を言って・・・ま、まさか?!」


ジャスはあることに気が付いて慌てて探知の魔法を使おうとするが、ほぼ空になった今の魔力量では見える範囲を探知することすら出来そうにもなかった。


「何を焦っているんだい。あぁ、非常に残念ながら城門は三箇所とも無事なようだよ。戦いに夢中で気が付かなかったのかね?」


そう言ってヴァルディマは声を上げずに笑う。

確認する術がないジャスは首だけとなった魔人の言葉を信じるよりほかになかった。


「本当だろうな?」


「ここまで来て嘘をつくメリットなど何もないよ。間違いなく魔界への門も消えている。王都は無事に守られたというわけだ」


「じゃあーー」


「ジャス君。君は勘違いをしているよ」


復讐というのは?と続けようとしたジャスにヴァルディマは言葉を重ねる。

訝しげにするジャスにコレまでで一番意地の悪い、愉悦に溢れた笑顔でヴァルディマは言葉を続けた。


「ジャス君。君はワタシの目的が何なのかわかっているのかね?」


「何を今更。俺の命だろ?」


呆れたように答えるジャスにヴァルディマはフゥとため息を吐くと、まるで不出来な生徒を見る教師のような顔をする。


「不正解だね。それが目的なら君は何度ワタシに殺されていたと思っているんだい?」


「・・・」


ヴァルディマの言うように、彼に本気の殺意があればジャスは幾度か命を落としていた事は間違いない。

シーマ海岸沖の孤島で対峙した時。

ルクトウの町で会った時。

そして今回の王都での戦いでも。


ヴァルディマがジャスを殺す事を第一の目的としていたのならば、きっとジャスは生きてはいなかった。


「じゃあ俺に絶望をさせるというのが目的だろ?何度も言ってたしな」


「あぁそれか。悪いねジャス君、それ嘘だから」


「はぁ!?・・・ごほ!ごほっ!」


大きな声を出した影響で吐血してしまい咳き込むジャス。

なんとか落ち着かせ、口元の血を袖口で拭うとヴァルディマを強く睨みつける。


「大丈夫かい?あまり大声を出すと身体に障るよ」


「お前の、せいだろうが・・・」


フゥと再び息をつくとヴァルディマは続けた。


「嘘というより、正確には本当の目的ではない、といった感じかな。いや、そうなっても面白かったから本当の目的ではあるのかな?」


「何を言っているんだ?わかりやすく言え」


今ひとつ要領を得ない物言いにジャスが苛立たしげに口を挟む。

立っているだけでも意識が飛びそうになるのを必死で耐えながら睨みつける。


「あぁ申し訳ないね。今回ワタシは目的が2つあったんだよ。1つはさっきジャス君が口にしたように君を絶望の底に落とすこと。しかしこれはもう1つの目的が達成できなかった時の保険でしか無い」


まぁそれはそれで物凄くソソられることなんだがね、とヴァルディマは嗤う。

そしてひと呼吸を置いて続けた。


「誤解しているかもしれないから1つ補足しよう。ワタシは君を本気で殺すつもりだったよ。矛盾していると思うかもしれないが手を抜いたということはない。あくまでもう1つの目的を達成する下地を作った上で、だがね」


「話が長い。首だけなんだからさっさと話してさっさと消えろ」


「冷たいじゃあないか。まぁいい、もう1つの目的はね。・・・何か、気が付かないかね?」


ジャスから視線を外してヴァルディマは周囲に目を向ける。

対照にジャスは油断なく魔人から目を離さない。


「特に何も。結局何が言いたいんだ?」


「フッフッフ。そんなに集中して見つめられると照れるじゃあないか。ワタシにそっちの気はないよ?」


「もういい死ね、今すぐ死ね」


振り下ろされた短刀を器用に転がり避けるヴァルディマ。

神秘的に輝く刃がザクリと地面に深々と突き刺さる。


「あ、危ないじゃあないか。本当に死ぬかと思ったよ!」


「本当に殺そうと思ったからな」


短刀を引き抜き再び振り下ろそうとするジャスを「待った待った!」と慌てて制止してヴァルディマは早口で続けた。


「周囲を見回して見給え!そこにワタシの目的がある!」


「周囲?何があるって・・・・・・あ・・・」


必死に訴えるヴァルディマが嘘を言っているとは思えず、顔を上げたジャスの目にそれは飛び込んできた。

ジャスとヴァルディマがいる位置から離れた所に。



数え切れない人々が二人に視線を注いでいた。



しん、と誰も一声も発さずに不安げな顔で祈るようにジャスを見ている人々。

間違いなく先程までは誰の姿もなかった。

しかし、戦いの決着を察したのか、一人また一人と周囲の人の数は増えていく。


「ほら、勝利宣言でもして安心させて上げるべきじゃあないのかい?」


「お前、まさか・・・」


ゆっくりと視線を下げると微笑を浮かべる魔人と目が合う。

そして目を瞑ると満足したようにヴァルディマは話だした。


「ワタシはね、3年前に君に殺されかけた時点でもう負けてるんだよ。完璧にね。それに対してみっともなく復讐をするなんてこと、微塵も考えてはいないよ」


目を閉じたままヴァルディマは続ける。

尖った耳の先端が黒い塵に変わっていく。


「なんとか命をとりとめたワタシがまず最初にしたことが何かわかるかね?調べたのさ、自分を殺した者のことを。勇者達との死闘の時も、罠を発動した時も、ワタシは油断していなかった。しかし、奴らを異空間に飛ばした、その瞬間に気が緩んだんだろうね。そこを君は見逃さなかった。本当にお見事だったよ。完敗さ」


でもね、と口にするヴァルディマの声音に怒りの感情が交じったような気がした。


「調べてみて驚いた、わからなかったんだよ。君のことが。人間の世界では魔王様を倒したのは勇者達4人。ワタシ達三魔貴族を倒したのもその4人になっていた。違うじゃあないか!ワタシを倒したのは奴らではない!奴らにワタシは負けてはいない!」


ギリっと歯が軋む音が聞こえた。


「僅かな情報を集めようやく見つけた君は誰も知らない売れない店を開いているじゃあないか。ワタシを倒した男が何故誰からも認められない?何故隠遁者のような生活を送っている?ワタシは我慢ならなかったのさ」


「それでこんな事をしたってわけか。身勝手なやつだ」


ジャスの吐き捨てるような言葉にヴァルディマは声を上げて笑った。


「はっはっは!ワタシは魔人だよ?身勝手で当たり前じゃあないか。まぁ、何はともあれワタシの目的は無事果たせたというわけだ。ジャス君を英雄にするというね」


「こんなことで英雄になんかなるかよ」


「なるね。ここまでこの王都を追い詰めた者は過去にいなかったはずだ。あの結界は本当に厄介だった。おかげで魔力の殆どを持っていかれたよ」


簡単に壊されたように見えた王都大結界であるが、実はヴァルディマの魔力をもってしても破壊するのはギリギリであった。

それをあたかも簡単に壊したように見せる辺りにジャスは彼のプライドの高さを垣間見た気がした。


「じゃあ俺が苦労して倒したのは抜け殻のような魔人サマってわけか。格好つかないな」


「フフッ、そう言ってくれるなよジャス君。いや、英雄様」


「誰が英雄だ!悪いが俺はこのまま逃げさせてもらう」


「そんな身体でかい?早く治療しないと本当に死ぬよ?・・・仕方ない、それならばワタシがひと肌脱いでやろう」


やれやれとでも言いたげな声音でヴァルディマが呟く。

それに対して猛烈に嫌な予感がしたジャスが問い詰めようと口を開きかけたその瞬間。



「見事なり!何でも屋ジャスよ!見事魔人の貴族であるこのワタシ、<策略>のヴァルディマを打ち倒した!だが、ワタシが消えようとも魔人の脅威がこの世から無くなることはない!その事をゆめゆめ忘れず震えて生きていくが良い!」



魔力で拡声されたその言葉が周囲に木霊する。

数瞬の静寂の後、言葉の意味を理解した大勢の王都の民が歓声を上げた。

その爆発的な歓声を耳にしながらジャスは足元のヴァルディマを力なく睨みつけた。


その顔には既に無数の亀裂。


「お前・・・やってくれたな・・・」


「これで君の望んでいた静かな生活は終わりだよ。先程の言葉を1つ訂正しよう」


「なんだよ」


「やはり復讐をすることにしよう。そして、これがワタシの復讐だ。地獄の底から君を見ているよ、英雄ジャス」


笑顔。

ジャスが見たヴァルディマの最期はボロボロと崩れ落ちながらも満面の笑顔だった。

塵となり風に飛ばされていくヴァルディマの欠片を見ながらジャスは大きくため息を吐いた。



「最後の最後で勝ち逃げしやがったな」



長い、長い一日が終わった。

ようやく死闘決着です。

残り3話、もう少しお付き合い下さいませ。

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