第63話 本当に八つ当たりだな
「何度も悪いな」
シェロとのやりとりの間も手を出さずにいた魔人に口だけの謝罪をする。
ヴァルディマは薄く笑顔を浮かべて空々しく拍手をすると、またも空間を開きそこから黒い長剣を取り出す。
「どうせ消されるトカゲのために残り少ない魔力を使って転送させるとはね。しかし悔しいことにジャス君の判断は正しい。君の目の前であのトカゲを切り刻んでやるつもりだったからね。いやはや、君の絶望する良い顔を見る予定が狂ってしまったよ」
溜息を吐きつつ軽く首を振る。
少しキザったらしいその動きもヴァルディマがすると何処かサマになっていた。
「それは悪いことをしたな。丁重に謝罪をするから今日のところはお引き取り願えないですかね?」
「ん〜残念ながらそれは不可能だ。君には何度も予定を狂わされているからこうやって取り立てに来ているわけだしね。あぁお代は言うまでもなく君が絶望に堕ちることだよ」
「何度もというほどお前の邪魔をした覚えはないんだが?」
ジャスのその言葉にぴくりと反応を示したヴァルディマだったが、表情を変えることなく抗議の声を上げる。
「よくもまぁそんな事を言えたものだね?三年前にしたことを忘れたとは言わせないよ」
「覚えてないな」
ジャスのその言葉は当然偽りである。
三年前、勇者リオン一行は長い旅の果てに魔王城までたどり着くことが出来た。
それまでに様々な苦難があったがそれを乗り越えた先にサラナル苦難が待ち構えていた。
三魔貴族<暴虐><冷徹><策略>との邂逅だ。
勇者たち一行はギリギリの死闘の末、<暴虐><冷徹>の二体の魔人を討伐することに成功する。
しかし二体を討伐し、そして<策略>との連闘に突入。
そこで勝利を目前として一瞬気が抜けた隙を<策略>に突かれ、勇者達4人は異空間へと閉じ込められた。
それはヴァルディマが用意していた罠であり、仮に魔王軍幹部の三魔貴族が直接の戦闘で負けることになったとしても、その戦いの舞台ごと勇者たちを異空間へと追放出来るように勇者たちを誘導していたものだった。
そしてそれは成功した。
二人の幹部、<冷徹>と<暴虐>は命を落とすこととなったが、世界から魔王軍の最大の怨敵である勇者達を排除。
これで魔王軍に対抗できるものが居なくなったと、世界は魔王様のモノになったと。
そうヴァルディマが多幸感に包まれていたその時。
ヴァルディマの首が胴から落ちた。
それに気が付いたのは、低くなってしまった視界に見覚えのない黒ずくめの人間の姿を認識してからだった。
人間の持つの刃物からは自分の血が滴っていた。
そしてその黒ずくめの男は、あろうことかヴァルディマがほとんどの魔力を消費して作り上げた異空間から勇者達4人を連れ出した。
ヴァルディマの意識はそこで途絶える。
最後にその黒ずくめの男が「ジャス」という名前で呼ばれているのを聞いて。
「正直な事を言うと驚いたよ。空間の魔法を扱えるものがワタシ以外に居たこと、しかも人間でありワタシよりも上位の使い手だ。ワタシは転移などという便利で高度なことは出来ないからね。もうプライドはズタズタさ。だから八つ当たりになるけど君に仕返しに来たってわけさ」
「本当に八つ当たりだな」
ジャスは両の短刀を強く握りしめる。
この会話の間にほんの僅かとはいえシェロにかけられた魔法により傷が回復していた。
回復したと言っても出血はまだ続いており、本格的な治療を施さないとそろそろ命に関わってきそうな気配を感じていた。
しかし痛みは僅かではあるがマシになっている。
なんとかもう少しだけ動ける。
動ける内に勝負を決める。
そう思い、再びヴァルディマとの距離を詰めようとした。
その時。
不意にヴァルディマが側方を指差した。
「というわけでジャス君、どのように君に仕返しをするか色々考えたのだよ。命を奪う?住んでいる街を破壊する?何か物足りない、とワタシは思ったのだよ」
指差した先の空間が捻じれる。
「やっぱりここはオーソドックスに大切な者を目の前で奪う、これで行こうと」
捻れた空間が元に戻る。
先程まで無かった、いや、居なかった者と共に。
「な!?」
「イレギュラーだったさっきのトカゲでも良かったんだが、逃げられたしね。当初の予定通り行くとしよう」
荒れ果てた大通りの真ん中。
ジャスとヴァルディマから少し離れた瓦礫の上に。
赤髪の少女が横たわっていた。
「・・・サーナちゃん!!」
「さぁ、楽しくなってきたねぇ」
ジャスの叫びを聞いて、赤い瞳は月のように笑った。




