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第54話 代償は高くつくぞ

銀の鎧に身を包んだ王国騎士団。

その中から一人、大柄な男が一歩前へ出て大声で叫んだ。


「私は王都騎士団副団長のイェーハル!何処の者かはわからぬが我らに代わり民をよくぞ守ってくれた!後は我らに任せて下がってくれ!」


(騎士団か。助っ人はありがたいが・・・副団長か)


お言葉に甘えて一旦戦線から引き、物陰に隠れる。

訓練された騎士団の連携に、他人が入って邪魔をしないための配慮だ。

そしてジャスは素早く自身の傷の手当をしながら思案する。


王都セドラルにとって未曾有の危機であるにも関わらず、魔人の元に駆けつけたのは団長ではなく副団長。

王都騎士団の団長といえば、危険を顧みず先頭を突き進むタイプで有名である。

常識的に考えればその行動は褒められたものではないのであろうが、その姿に勇気づけられる者は多い。


しかしその団長がここには居ない。


(あぁクソ、これもコイツの策か)


ジャスはある事実に思い当たり、忌々しげに舌打ちをする。

ずっと心の奥底で引っかかっていたことがあった。


今回の魔王復活の騒ぎについてだが、何故儀式の対象に選ばれた都市が「勇者以外の英雄と縁の深い都市」ばかりだったのか。

当然、それぞれの都市の人口が全世界の中でも最上位クラスのために対象となってしまったということも一因だろう。

ヴァルディマの言葉を信じるのであれば、そもそも魔王復活の儀式自体が英雄達をおびき寄せ、ジャスに対する復讐の邪魔をされないための囮でしか無い。


だからわざと対処しやすい都市を選んだ、とジャスは考えていた。

しかしそれだけではなかった。

勇者リオンをセドール王国の隣国である「ゼカン」に派遣させるのが目的だったのだ。


「魔法大国ルーフェン」「軍事国家ウェルザード」「セリヴァン神聖王国」の三国はそれぞれ賢者チェルロッテ、剣聖ナルナリア、大神官キルトと馴染みが深い。

そのため各国の魔人のアジトへはその彼らが対処に向かうのは想像に難くないし、実際にそうなっている。

となれば残り一つのアジトへは消去法で勇者リオンが行くことになる。


しかしそれこそがヴァルディマの狙いだった。


隣国ゼカンはルーフェンやウェルザード等がある西大陸からセドールやセリヴァンがある中央大陸に入る時の玄関口となる商業国家である。

先の4国と違って国の持つ軍事力は高くなく、有事の際にはセドール王国が助力をしていた。

セドール王国には勇者がおり、屈強な騎士団がいる。

何より過去に打ち破られたことがない結界で守られていた。

隣国で魔王復活の危機と聞いて戦力が派遣されないわけがない。

そして先程の英雄達が何処に向かうかという話から、勇者と騎士団の一部がゼカンに遠征する、つまり王都から居なくなる。


ジャスを標的とするのならば、誰でも思いつく、簡単な罠だ。


(嫌な手を打ちやがる。しかし何よりも一番の誤算は結界があんなに簡単に破られたことだな)


ジャスも含めた誰もが王都の結界に過大な評価をしていた。

ただ単に魔人達が今まで結界を破壊する理由が無かっただけで、破壊できないわけではない、ただそれだけだったというのに。

魔王軍との戦争ではここセドール王国は前線ではなかったため大きな戦力が王都を襲うこともなかった。


(反省は後だ。今はアイツをどうにしかしないと)


物陰から傷と魔力を回復させながら騎士団の戦いに目を向ける。

状況は正直芳しくない。


そもそも騎士団の戦い方は多数を想定したものであり、今回のような一体の強敵との戦闘はイレギュラーだ。

しかし通常時であれば強大な戦闘力を持つ騎士団長が突出し、周りの者がそれをサポートする形で戦うことも出来るのだが、副団長ではそれも役者不足のようで徐々に騎士団は追い詰められていく。


「どうしたんだい?騎士団の諸君。これでは先程まで一人で戦っていたジャス君の方が歯ごたえがあるじゃあないか。情けないとは思わないのかね!」


大上段から振り下ろされた副団長イェーハルの大剣による一撃を片手で掴むと、ヴァルディマは逆の手から燃え盛る火球を生み出し、それを副団長に向けて放った。


「ぐ、ぐあああ!!」


至近距離で高火力の火球の直撃を受けたイェーハルは、距離を取り支援やヴァルディマの広範囲魔法が周囲に影響を与えないように防御に徹していた騎士団の隊列の半ばまで吹き飛ばされてしまう。

彼の上半身は聖なる加護が付いた鎧や多数の支援魔法で守られていたにも関わらず焼けただれて悲惨なことになっていた。


「副団長!すぐに手当を!」


上司の状態に一瞬眉を潜めたヒーラーの騎士達が慌てて処置に入ろうとした時、すぐ近く、正確には上から声が聞こえた。


「頑張ったとは思うけど火力不足だね。じゃあそろそろ飽きてきたからサヨウナラ」


騎士達が上を見上げたと同時に、三日月のような笑みを浮かべたヴァルディマから無数の球体が放出された。

それは一つ一つがジジジといった不気味な音を立てており、それが何かと理解するより早く防御の姿勢に入った騎士団員達は流石であるといえた。


ドオオオォッォォオン!!!


凄まじい爆音と衝撃が北の城門付近を襲った。


それは先程ジャスが使った爆裂魔法よりも遥かに規模が大きく、爆発による砂塵が晴れたそこには大きなクレーターが出来ていた。

周囲の建物も崩壊したものや火災が発生していたりなど、普段、賑やかな北大通りは無残な姿へと変わり果てていた。

そのクレーターの真ん中付近で空中に浮かびながらヴァルディマは周囲を見回す。

瓦礫に埋もれる者、地面に横たわる者。


そんな彼らを見渡してヴァルディマは溜息を一つ吐くと恨みがましく呟く。


「ほとんどの者が生き残ってしまったじゃあないか。別れの言葉を言ったのに決まらないったらありゃしない。それに・・・」


ヴァルディマが視線を送った先。

クレーターの真ん中には外套の殆どを焦がし、自身も火傷を負いながら短刀を構えるジャスが睨み、見上げていた。

その彼のすぐ横には黒い布に覆われた何かが落ちている。


「それに?」


油断無く身構えながらジャスは煽るようにフっと笑みを浮かべる。

それを見てヴァルディマは初めて怒りという感情を見せてきた。


「それに、こんな事をしてくれて・・・代償は高くつくぞ!」


ヴァルディマが叫ぶと周囲に暴風が吹き荒れた。


飛ばされないように姿勢を低くするジャスの横で、先程の黒いものが転がり布が取れてその正体が白日に晒された。



それは、切り落とされた腕。


魔人ヴァルディマの腕だった。

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