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第53話 速攻で嘘をつくな


1時間経ったか。

いや10分か。

流石に5分は経っているだろ。


迫りくる氷弾と炎弾の全てを叩き落としながらうっすらとそんな事がジャスの脳裏をよぎる。


出来る限り体力も魔力も節約しながらヴァルディマの猛攻をしのいでいるが、時間の経過とともに体のあちらこちらに傷が増えてきていた。

それというのも、王都に向かって放たれた魔法を撃墜することによって生じた隙をヴァルディマに絶妙に嫌なタイミングで突かれているからだった。

それをなんとか凌いでいたジャスであったが、幾度目かの攻防でついにそのバランスが崩れることになる。


「ぐっ!!」


王都に落とされる無数の岩石を爆裂魔法で砕いた際に、ヴァルディマの異様に長い蹴りがジャスの腹部に深々と突き刺さった。

直撃の間際、防壁を張る余裕がないと悟ったジャスは腹部に魔力を集めてクッションのようにしながら、更に自ら後方に飛ぶことによって内蔵を破壊されることを辛うじて防いだ。


しかし、それでも尚その威力は凄まじく、ジャスは閉じられていた東門を轟音と共になぎ倒して王都の北大通りを転がる。

逃げ遅れたのか、他の地区から逃げてきたのか、大通りの周囲には怯えたように震える人達が通りに倒れるジャスを見て悲鳴をあげた。


「だ、大丈夫だから。早く逃げてくれ」


ジャスは素早く腹部に回復魔法を施すと周りの人達を安心させるためにわざと勢いよく立ち上がった。

激痛により全身から汗が吹き出すが表情には出さない。


(もうちょいゆっくり回復したいけど、まぁ無理だよなぁ)


自分が突き破った城門の方に視線を向けながら治療を続ける。

視線の先の砂塵からヴァルディマが悠々とした足取りで姿を現した。

そしてジャスの視線に気が付くと笑みを浮かべる。


「いやぁ正直驚いたよジャス君。まさかこんなに王都に入るのに苦労するとは思わなかった。元魔王軍幹部のワタシ相手に大したものだ」


そう述べると拍手をする。

その渇いた破裂音がいやに耳についた。

対峙する二人の周囲で怯えていた民衆が先程のヴァルディマの言葉にざわめき出す。


ーま、魔王軍だって?ー


ー幹部って言ったわよ!もうおしまいじゃない!ー


ーに、にげろ!早く逃げるぞ!ー


ー魔王軍は勇者様が全て倒したはずじゃー


ヴァルディマは聞こえきた声にぴくりと反応するとジャスから視線を切り、周囲に視線を巡らせた。

そして両手を広げると大仰に声を上げる。


「これは人間の皆様、ご挨拶が遅れました。ワタシは元魔王軍幹部<策略>のヴァルディマ。貴方達が英雄と呼ぶ勇者御一行に辛酸をなめさせられた者です。では、名残惜しいですがサヨウナラ」


「させるか!」


挨拶が終わるとともに住民達に襲いかかった鋭利な風の刃をジャスは同じく斬撃による刃で一つ残らず相殺する。

そしてすかさずヴァルディマの懐に潜り込むと、腰を落としてまるで格闘技の掌底のような動きで魔力の塊をその腹部に叩き込む。


「おおっとっと」


ズゥゥンと重く低い衝撃音が辺りに響くが、ヴァルディマは2,3歩たたらを踏むだけでそれに耐えた。

その結果にジャスは苦虫をかみ潰したかのような表情を隠さずに次の行動に移る。

よろめいて不安定になっているヴァルディマの足元に素早く鞘から抜いた左の短刀を一閃。


フッと浮くような軽い跳躍で回避される。


が、そこに今度は地面から1メートル四方の土の塊が飛び出して宙に浮いているヴァルディマを襲う。

しかしそれも空中で最小限の動きだけで回避。


空中でくるりと宙返りをして体勢を整え、顔を上げたヴァルディマのすぐ目の前に、いつの間にやら手のひらをこちらに向けたジャスの姿あった。

その開かれた手が強く光り輝く。


「吹っ飛べ!!」


ドォォォォン


近距離から放たれた爆裂魔法がヴァルディマの上半身に直撃。

激しい爆音とともに北大通りに衝撃波が駆け抜けた。

まだ避難していない者や、通り沿いの建物の心配も多少はあったが、そこまでジャスには気を回す余裕がなかった。

爆発音の余韻が残る中、巻き上がる砂塵を注視するジャスの頭に不意にポンと手が置かれた。


「これは良くないなジャス君。ワタシをこの街の外へ出したいという魂胆が見え見えだよ。先程の一連の攻撃全てが門の外を向いていた。狙いがある攻撃というのは大変読みやすい、よって躱すのもそう苦労するものではない」


そこまで言ってヴァルディマは違和感を覚えて手元に視線を落とす。

右腕の先に視線を向けると、同じタイミングでジャスも顔を上げた。

そして底意地に悪そうな笑顔になると、


「仰るとおり。狙いがある行動は読みやすいな」


と言ってジャス自身が大爆発した。

爆心地から少し離れた所にジャスは着地すると一部建物が崩落してしまった周囲を見渡す。


(咄嗟に結界を張ったけど抑えきれなかったか)


魔力を存分に込めた分身体の爆発だ、威力は申し分ない。

しかもヴァルディマに悟られないようにギリギリまで結界を張るわけにはいかなかったため、十分な強度を出すことが出来なかった。


「やって・・・はないだろうな。少しは手傷を負っていてほしいものだけど」


苦笑いしながら呟くジャスの言葉が合図であったかのように、爆発の影響で舞い上がっていた砂塵が一斉に空へと吹き飛ばされた。

そしてジャスの願い通り僅かに手傷を負ったヴァルディマがこちらも僅かに笑みを浮かべながら現れた。


「いやはや、見事にやられてしまったじゃあないか。ワタシが君をからかうところまで計算に入れるとは。しかしジャス君は謙虚だね?見事な不意打ちだったのにあの程度の爆発で抑えてくれるなんてね」


ヴァルディマは額から流れる血を拭うと全身を軽く叩いて埃を払う。


「割と本気で撃ったつもりなんだけどな。もう少しダメージを負ってくれないと可愛げがないぞ。嘘でももっと効いたふりをしろ」


「あっはっは!ワタシは嘘をつけない体質でね」


「速攻で嘘をつくな」


「いやぁ素早いツッコミだ。さて、もう少しジャス君と遊んでいたいのだけど、どうやらお客さんのようだ」



対峙するヴァルディマの視線の先を追うと、そこには隊列を組む銀の鎧の集団、王都騎士団の姿があった。


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