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第49話 ありったけブチ込んでやれ


魔人討伐作戦、当日。

ジャスは日が昇る前の夜と朝の境界が曖昧な空を眺めていた。

何でも屋の屋根から見える黒とも青とも白とも赤とも言える、ある意味で中途半端な空。

目を瞑って再び開くと先程までの色合いはなく、既に違った空模様に変わっていた。

少し前とは全く違った景色。

まるで自分みたいではないか。

ジャスは空と自分を重ねて呆れたように軽く笑った。


「俺にもロマンティストなところがあるんだな」


呟くような、囁くような声を漏らしながらジャスは屋根にバタリと横になる。

王都セドールに張られた退魔の大結界が薄っすらと視認できた。

日没前後もしくは日の出前後には光の加減で王都を包む結界が見えることがある。

この結界は名前の通り魔人や魔獣等から王都を守っている。

魔獣や魔人はこの結界がある限り王都に入ることは出来ず、また仮に無理矢理入ろうとしたら警報がなる仕組みだ。

王城内にある国宝の魔道具がこの結界を生み出しているのは周知の事実だ。


「あ〜涼しい〜」


朝のこの時間は吹いてくる風も心地よく、昼間の暑さを何処かへ忘れてきているようだ。

出来れば来年の夏まで忘れたままで居て欲しいとジャスはしみじみ望むが、きっと後一度くらいは暑い日が来るだろう。

それが過ぎれば本格的に秋の到来だ。


(食欲の秋、だったな)


師匠が言っていた異国の言葉を思い出す。

確かに言われてみれば秋は美味しいものであふれる季節である。

きっと美味しい匂いにつられて色々な連中が店にやってくるだろう。


(この一件が終わったら慰労会を開いても良いかもな)


ジャスの脳裏に無邪気に笑う勇者の姿やその横で面倒臭そうに、しかししっかりと楽しむ賢者の姿が浮かんだ。

剣聖や大神官まで呼んだ方が良いだろうか、と考えた所でジャスは慌てて首を振った。


(英雄4人勢揃いとか。何処かに情報が漏れたら大混乱だ)


リオンやチェルロッテが来る時でさえ認識阻害の魔法で誤魔化しているのに、4人が揃ってしまうと印象が強すぎて阻害できる自信がない。

しかも一人、剣聖という名のじっとしていられない者が居るので余計に目立つ。

酒を飲んでは戦いを挑む剣聖が店内を滅茶苦茶にする情景がいやに鮮明に浮かぶ。

そのリアルな想像に頭痛がしたのか、眉間を摘むように揉みながらポツリと呟く。


「まぁ、きっと英雄達は色々なイベントごとで忙しいだろうからこの話はなかったことにしよう」


ジャスは自分の身が可愛かった。

そんなことをぼーっと考えている内に空が白んで朝がやってくる。

人類の存亡をかけた一日が始まったと言っても過言ではなかった。





ドォォン


「なんだ?」


小さな爆発音のようなものが聞こえてジャスは上半身を起こす。

音がした北門の方に目を向けると黒煙が立ち上っているのが確認出来た。

距離があるため確実なことは言えないが、どうやら煙の発生源は門のすぐ外のようであった。

ジャスは猛烈に嫌な予感を感じて店内に戻り、外套と短刀を引っ掴むと北門の方へと駆ける。

通りの家々からジャスと同じ音を聞いたのだろう人々が何事かと顔を出していた。

北門の付近には朝早いと言うのに通りの近くに居たであろう人が野次馬となって大勢押しかけてきており、門から外の様子が全く見えない。

仕方なく野次馬をかき分けて前に出たジャスの目に飛び込んできたのは、横倒しになった黒煙をあげる馬車の荷台と、馬車の持ち主であろう商人風の人々や門番達の倒れた姿。

そして、悠々と佇む一体の男性。


「あいつ・・・」


ひょろりとした背丈は3メートルはあるだろうか。

燕尾服を着こなす優雅さは何処か執事にような雰囲気を感じさせる。

しかしその真っ赤な目がその男が人類の敵である魔人であることを証明していた。

ヴァルディマ。

魔王軍元幹部の魔人であるこの男の名前である。


「皆様おはようございます。朝早くからお集まりいただきまして恐縮の至りでございます」


城壁の外、門の向こう側で恭しく一礼。

拡声の魔法でも使っているのか、叫んでいるわけでもないのにヴァルディマの声は一語一語正確に聞き取ることが出来た。

ざわざわと野次馬が一層騒ぎ始める。



ーなんだあいつ?ー


ー門の前で馬車が倒れてたら通れないじゃんー


ーえ?人倒れてない?ー


ーなに?!なにがあったの!?ー


ーちょっと!立ち止まらないでよ!通れないでしょ!ー


ーなぁ、あいつ魔人じゃない?ー


ー魔人?はっはっは!朝から冗談キツいぜ!ー


ーさっきの声あの人?なにしてんの?ー


ーお前のために集まったんじゃねぇよ!ばーか!ー



など、聞こえてくるのは面白半分のものと、人混みに対する不満のもの、後は状況が飲み込めていないものの、おおよそ3つに分かれていた。


(まずい!早くここから避難をさせないと!)


ジャスが野次馬達を避難させるために声をあげようとしたその瞬間、キィィィィンと甲高い音が北門周囲に響く。

慌てて周囲の一般人に向けていた視線を音の発生源、北門の方へと移すと真っ黒な魔力で出来た数十の槍を自身の周囲に浮かべたヴァルディマが苦笑いをしていた。

ヴァルディマは恥ずかしそうに頬をかくと、


「おやおや、思った以上にこの都の結界は頑丈ですね。これは想定外でした」


と笑いながら次々に浮かべていた槍を放ってきた。

魔法が放たれる度に、甲高い音共に闇で出来た槍は消滅していいく。

しかし、そんな事は意に介さずヴァルディマは「いやいやまいった」と笑顔のまま次々に槍を撃ち込み続けた。


「ぼーっとするな!!アイツは魔人だ!!早く逃げろ!!」


先程までざわついていた野次馬達も目の前で起こっている異常事態に、思考が追いつかず水を打ったように静まり返っていた。

その中でジャスの叫び声が大きく響く。

数秒間、誰も動かず妙な静寂が続いたが、誰かが悲鳴を上げた途端、堰を切ったかのように北門前の大通りは大混乱に陥った。

大半の者は我先にと悲鳴や怒鳴り声を上げながら北門から逃げ惑うが、中には恐れを知らないのかプライドが邪魔をするのか、少数の冒険者が結界を挟んでヴァルディマの前に立ち塞がった。

その姿を捉えるとヴァルディマは笑顔を崩さないまま驚いたように冒険者達に声をかける。


「おや?貴方達は逃げないのですか?惨めにお家で膝を抱えて震えていたほうが身のためだと思いますが」


ヴァルディマの言葉に十数名の冒険者達が殺気立つ。

その冒険者の中で一番年上であろう剣士が一歩前に出てツバを散らしながら叫ぶ。


「ほざけ!魔人ごときに逃げたとあっちゃ冒険者なんかやってられねぇんだよ!」


「その通りだ!それにお前こそ逃げ帰るなら今の内だぜ!ここにいるのはBランクとCランクの冒険者だ!魔人一人ぐらいに後れをとるかよ!」


「そもそもどうやって結界内に入るつもりだこのバカが!!」


結界と人数がもたらす安心感からか口々に冒険者達が叫ぶ。

実際、彼らは過去に魔人との戦いで勝利したことがあった。

仲間の尊い犠牲の上で辛くも掴んだ勝利ではあったが魔人を討伐したことに違いはない。

ただしその魔人は低級の、ヴァルディマとは比べ物にならないほどの小物だったが彼らにそんな事は知る由もなく、今の状況で逃亡という選択肢を取らないのも仕方がないといえた。


「早くあんたらも逃げるんだ!相手が悪すぎる!」


今にもヴァルディマに向かっていきそうなリーダー格の剣士の肩をジャスが掴む。

しかし男は煩わしそうに掴まれた手を振り解くと逆にジャスの胸ぐらを掴みあげて怒鳴った。


「うるせえ!逃げたきゃ勝手に逃げやがれ!!俺らが逃げたら仮に結界を破られた時に誰が街を守るんだ!?騎士団の到着までまだまだ時間はかかる!それまで時間を稼ぐやつが必要なんだよ!!」


だからお前ぇも早く逃げな、剣士の男はそう言ってジャスの肩を押すと十数人の仲間と共にヴァルディマの方へと駆けていく。

それを見て魔法を撃つのをやめてヴァルディマが不思議そうに冒険者集団に問いかけた。


「これはこれは勇敢な方たちだ。先程の彼の忠告どおり逃げたほうが身のためだとワタシは思うのですがね?」


結界を挟み、魔人と冒険者達の視線が交錯する。


「黙れクソ魔人。結界で何も出来ん癖に粋がってるんじゃねえ!おい!お前ら!遠慮はいらねぇ!ありったけブチ込んでやれ!!」


おおおおおお!!

リーダーの号令に答え咆哮が上がり、それから魔導士は詠唱を始め、戦士は闘気を練り、弓師は矢をつがえて同じく闘気を纏いその時を待つ。

練りに練った力が最高潮を迎え、暴発しそうなほど高まる。

そして。


「撃てぇええ!!!」


号令とともに一斉に攻撃が放たれる。

全ての攻撃が結界の外に居るヴァルディマに迫り、直撃しようとした瞬間。

冒険者達は見てしまった。

魔人が彼らの全力の攻撃を迎え入れるように両手を広げて、無防備に笑っている姿を。


ドゴオオオオオン!!


大きな爆発音が響き、北門周辺の建物が小さく揺れる。

全員が防御を考えず全力で放った一撃だったが、誰一人笑顔の者はいなかった。

今の一撃は中位のドラゴンであっても仕留めることが出来たかもしれない。

それ程までに完璧な手応えであった。

しかし、先程の魔人の笑顔、それに爆発音が薄れていくにつれてハッキリと聞こえてくるこの拍手の音が彼らに大きな不安と恐怖の影を落としていた。


「思ったより良い威力じゃあないですか。少し、痛かったですよ」


徐々に砂塵が薄れていき、無傷のヴァルディマが感心したように拍手をする姿をそこに居る全員が目にすることとなった。


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