第46話 へぇ、似合いませんね
ガターン!
先程まで静かだった何でも屋の店内に大きな音が響く。
それの発生源は、この店としては意外と良い質の木製の椅子であり、そもそもその椅子が大きな音を出す原因となった赤毛の少女は口を開けたまま声を出せずに居た。
数秒間硬直していたサーナだが、おもむろに倒れた椅子を元に戻して、スゥ、ハァと大きく深呼吸を3回。
意を決したように視線を目の前の絶世の美女に戻すと、恐る恐る口を開いた。
「もう一度良いですか?」
「妾は無の神ノエルメントじゃ」
「あぁ・・・やっぱり聞き間違いじゃなかった」
そのまま流れるような動きで店の床に這いつくばるように平身低頭。
祈るような体勢でサーナはローラルダに許しを乞う。
「し、知らなかったとはいえ、今までの無礼の数々、申し訳ありませんでした!」
「面を上げるのじゃ。妾は気にしておらぬがどうしてもと言うのであれば頼みを聞いてはくれぬか?」
「な、なんなりと!」
神罰を免れることが出来たことに安堵の表情を浮かべるが、しかし一体何をさせられてしまうのかという不安からサーナの背中には冷や汗がとめどなく流れてきてしまっていた。
それを見てローラルダはにやりと悪い笑顔に。
「そうじゃな、まずは汝の作ったパイが美味であったからまた作って欲しいの。他にはおすすめの漫画を教えてくれんか?出来れば感想を言い合えれば最高じゃな。後はシェロとこれからも仲良くしてやって欲しい」
言葉が続くにつれてキョトンとしていたサーナの顔に徐々に本物の笑顔が咲いていく。
そしてそれを見たローラルダは最後にウィンクをしながら、
「後はそうじゃな、ジャスの奴に悪戯でもして慌てさせてやるのを手伝ってくれんか?」
と、こっそりと耳元で囁いた。
それに対してサーナも口元の笑みを隠しながら返答する。
「かなり難題ですがきっと成功させましょう」
「流石じゃ。妾が見込んだだけのことはーー痛っ!?」
ローラルダが頭に痛みを感じ、慌てて振り返るとそこにはいつから居たのかジャスが仏頂面で腕組みをしていた。
その手には先程まで掃除をしていたのだろうか、ハタキが握られており、間違いなく痛みの発生源がそれであるとローラルダは確信する。
「何をやってんだお前は」
「ジャス・・・貴様、神である妾の頭部をそのような掃除道具ではたきおったな!」
「偉い偉い神様ですからね、汚れがあってはいけないと思って掃除させていただきました。ほ〜らほら」
「や、やめんか!埃が飛ぶじゃろうが!・・・ええい!先程のサーナを見ておらんのか!あれこそが妾の正体を知ったときの正しい反応じゃぞ?汝のようなしょーもない反応とは雲泥の差じゃ!見習うが良いぞ!」
「はいはいそうだね。サーナちゃんもほら、そんなところに膝をついてないで。こいつらにはいつも通り接してあげたらいいからさ。結局それが一番嬉しいみたいだし」
ローラルダの言葉を軽く受け流し、まだ店の床に正座をするように座っているサーナの腕を取って立たせてあげる。
その際にエプロンについてしまった埃を軽く叩くと何か喚いているローラルダの後ろに控える二人のうち、女性の方に視線を向ける。
「ルルエンティ。主が一般人をからかって遊んでいるのは止めるべきだと俺は思うけど?」
そう嗜められるとルルエンティはきめ細やかな金髪を優雅にかきあげてそれに対して微笑で応えた。
あぁ、とジャスはその反応で納得する。
(放っておいても俺が止めるし、その方がより「いつも」らしくなるってことね)
なんだかルルエンティの手のひらで転がされたようで面白くないが、言わんとすることはよくわかるので納得する。
少々仏頂面になるジャスを見て満足そうな顔でルルエンティはサーナに話しかける。
「ちなみにサーナさん。女王様が神様ということはその従者である私はさしずめ天使ということになるみたいよ」
「ええええ!?ルルさん天使なんですか!と、ということはララさんも?天使の姉妹・・・お二人ならあまりにもしっくり来てしまいますよ!」
あぁ天使・・・とルルエンティを見つめてうっとりとトリップするサーナ。
真面目なルルエンティまで悪ノリする事態にジャスはため息を付きながら最後の一人に目を向ける。
その視線に気付くと今まで一言も言葉を発していなかったダリウスがニヤっと笑いサーナに声をかける。
「サーナちゃん、実はその理論で行くとオレも天使なんだぜ?」
「へぇ、似合いませんね」
一蹴。
あまりにも見事な一蹴にジャスは呆然とするダリウスにすぐに声をかけることが出来なかった。
そんな静かになる男性陣を他所に女性陣の3人は楽しそうに「サーナも天使じゃ」「私なんてそんなそんな!」と歓談を続けるのであった。
盛り上がる彼女らを横目に、ジャスは立ちすくんでいる美丈夫の肩にポンと手を置いて親指を建てる。
「俺はダリウスも天使っぽく見えるぞ?」
「変なフォロー入れるな!余計に惨めだ!」
いつもと変わらぬ何でも屋の光景に、ローラルダはこっそりと胸を撫で下ろしたのであった。
続きます。




