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第45話 何拗ねてんのアンタ?


「えぇ、わかったわ。そう、えぇ。まぁ仕方ないわね。予想通りでしょ。・・・えぇ、はい?・・・うるさいわね!じゃあ切るわよ・・・って先に切ってるし!!」


部屋の隅で透き通った水晶玉に手を当てて独り言を繰り返していたチェルロッテが怒声を上げたか思ったら、それで何やら区切りが付いたらしく眉間にシワを寄せたまま3人が座る部屋の真ん中のテーブルまで戻ってきた。


「ジャスさんは何って?」


その内の一人、空のような爽やかな青色の髪をした青年が興味が抑えられないとばかりに質問をする。

今日も相変わらず少し大きめのシャツにズボンというラフな格好をしたリオンの姿は世界を救った勇者には見えなかった。


「やっぱり古代竜は中立だって。まぁわかってたことだけれどね」


やれやれと椅子を引き座る。

背の低い彼女が椅子に座ると足が浮いてしまい、幼い見た目と相まって少し微笑ましい事になってしまっていた。


「あぁ、何を壁に向かってブツブツ言ってんのかと思ったら念話か何かしてたのか」


ハスキーな声でチェルロッテに話しかける4人の内の3人目。

紫のツンツンとした髪を大雑把に後ろで結んだ女性は、美人であるだろうにそれよりも先に勇ましさを感じる鋭い眼光をしていた。

その体躯は筋肉質で、身長もリオンより10cm以上高く彼よりもよっぽど男らしい印象を受ける。

しかし彼女が着ている黒のタンクトップからチラチラと見える胸元やお腹周りが女性であることを雄弁に語っていた。

剣聖ナルナリア。

魔王討伐パーティの3人目だ。


「ナルナリアさん、貴女もたまには魔道具に触れたほうが良いですよ。非常に便利なものもたくさんありますから」


「いーよ、面倒くさい」


片手を上げ言葉通りの表情をした剣聖の反応に、やれやれと困ったような顔で首を振る優しげな好青年。

剣聖ナルナリアとは逆にしっかりと着込んだ法衣の色は白で、金糸で模様が描かれていた。

姿勢良く背筋を伸ばしている姿は見る者に優雅さを感じさせる。

深い緑の髪に更に深い緑の瞳が特徴的な彼は大神官キルトその人であり、リオンのパーティ最後の4人目である。

全員が揃うのは、魔王討伐後の祭典以来のことであった。


「で、チェルロッテよ。アタシらを集めた理由ってのを教えてもらおうじゃない。一応こう見えて忙しい身なのよ。勇者様程じゃないにしてもね」


「そうね。時間もないし単刀直入に言うわ。魔王の復活を魔人達が目論んでいるっていうのは連休の時に連絡を入れたわね?」


連休のときというのはジャスとリオンにより魔人のアジトを潰した時の話である。

そこで巨大魔法陣を見つけて捜索のために各方面に連絡を入れていた。

勿論、剣聖と大神官の二人にもである。


「その話は聞いた。でお前さんが魔人共のアジトを捜索するための道具を作ってんだろ?お、わかったぞ!道具が出来たって話だな?」


「違うわ」


身を乗り出していたナルナリアがガクッと肩を落として「違うのかよ」と少し恥ずかしそうに呟いた。

それを見て苦笑したキルトがチェルロッテに向かい、視線で続きを促した。

チェルロッテはその視線に頷いて返すと重々しい口調で続けた、


「今回呼んだのは魔王復活のリミットがわかったからよ。リミットは、1ヶ月後よ」


ガタッ!!


大きな音を立てて椅子が床に倒れた。

音の発生源であるナルナリアはテーブルに手をついてチェルロッテに顔を寄せる。

その表情は飛びかかる直前の猛獣のようでもあり、並の人間であればそれだけで失神は免れないであろう。

しかし、そこは共に死線をくぐり抜けてきたチェルロッテ。

口を開こうとしたナルナリアの額を慣れたように指で軽く押すと、


「落ち着きなさい。言っておくけど嘘でも冗談でもないわよ。そんな下らないことのためにわざわざ貴女達を集めると思う?」


と静かに制した。

一瞬何かを言いかけたナルナリアであったが、「ワリィ」と一言謝罪すると椅子を直してもう一度座った。


「その悪夢のような刻限が本当だとして、チェルロッテさんはどうやってそれを知ったのですか?あぁいや、疑っているのではありません。恥ずかしい話ですが我ら七神教でさえもその話はつかめておりませんので」


大神官キルトの疑問は最もであった。

七神教はこの世界ティルムンドの最大宗派であり、その関係者は世界各地に存在している。

すなわち、世界各地の様々な情報が七神教の本部に集結するようになっており、その中心人物の一人であるキルトはそれを知ることが出来る数少ない人物である。

にも関わらず、その彼が掴んでいない情報を目の前の小さな賢者が口にした。

キルトとは別の方向に情報のネットワークが広い彼女なので、納得しないでもないが情報源が気になるというのがキルトの本音であった。


「まぁ普通は疑問に思うわよね。この情報を持ってきたのは貴方達も知ってるあの何でも屋よ」


「あぁなるほど」


「アイツか」


少々懐疑的であった二人の態度が明らかに変わった。

自分の言葉では完全な信用は得られなかったのに、ジャスの名を出すだけで納得する二人にほんの僅かにだが不満を覚えるチェルロッテ。

それを表に出すことなく続ける。


「それにこの話を聞いた時にリオンも「なんとなく」そんな気がするって言ってるのよ」


3人の視線が集まり「いやぁ」と照れたように頭をかくリオンを見てナルナリアはドカっと椅子の背もたれに倒れ込むように座る。


「なんだ、確定じゃねぇかソレ」


体を逸らして天井を見上げると呆れたように吐き捨てた。

そんな剣聖から賢者の方へ視線を戻すとキルトは合点がいったとばかりに口を開く。


「なるほど。ルクトウという町で魔人が討伐されたという話を聞きましたが彼でしたか。しかもその事件では魔人が力を得るために人間を生贄にしていたとか。・・・魔王の復活までの時間に猶予がないというのは、まさか」


「貴方の予想通りよキルト。一ヶ月後に4つの都市でそれが行われようとしているわ。一箇所でもそれを許すと数万人、いえそれ以上が犠牲になる大惨事ね」


しばらく重い沈黙が部屋を支配していたが、やはりというかナルナリアが勢いよく立ち上がりそれを破った。


「ウダウダしてても始まらん。アタシが全部ぶっ潰してやるよ」


そう宣言すると机に立て掛けていた大剣を手にとって部屋を出ていこうとする。

そんな彼女にチェルロッテはため息を一つ吐くと呆れた声で呼び止めた。


「何処に行くのよ?」


「決まってるだろうが!奴らのアジトにだよ」


「何処にあるのよ?」


ピタリと部屋のドアノブに手をかけたナルナリアの動きが止まった。

そして顔だけ三人の方に振り返ると目を泳がせる。


「何処って・・・その辺にだよ!」


「魔人のアジトなんてものがその辺にある方が困るわよ。良いから座りなさい戦バカ、今後の話をするわよ」


チッと舌打ちを一つ。

不貞腐れながらも素直に席に戻りリオンの方にこっそりと話しかける。


「頭の良い連中ってのは回りくどいんだよな。もっとアタシらバカにもわかりやすいように簡潔に話せないのかねぇ?」


「どうせボクはただのバカだよ!」


「は?何拗ねてんのアンタ?」


その後の話し合いにより、それぞれがそれぞれの所属を率いたほうが統率が取りやすいということと、協力の要請を行いやすいということから以下のように方針が固まった。


魔法大国ルーフェンの首都ウォーツのアジトへは、賢者チェルロッテが魔術師組合員をメインとした魔術師軍団を率いて対応。

軍事国家ウェルザードの中心都市ウェルホルンのアジトへは、剣聖ナルナリアが軍隊を率いて対応する。

セリヴァン神聖王国の聖地イルメジのアジトに対するのは七神教の聖騎士や神官を率いる大神官キルトが。

最後に、ゼカン国の首都マネルには消去法として勇者リオンが冒険者等に声を駆けて対応をすることに。


まずは半月以内に魔人達のアジトの正確な位置を探し当てると同時に、秘密裏に戦力を集めていく。

そして20日後の同日同時刻に4箇所を同時に急襲。

これは魔人同士で連絡を取合っていた場合、魔人側に対策を取られることや、予定を早めて都市を襲われることを防ぐためである。


今回の作戦の勝利条件は、全アジトの壊滅。

敗北条件は、一箇所でも都市が襲われることである。



忙しい20日間が始まった。

お読み頂きありがとうございます。

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