第44話 妾は神様じゃからな!
「それは妾が、神だからじゃ」
静かに告げたローラルダのその声が寝所としては大きすぎる部屋に響き、彼女の純白のローブや虹色を彷彿とさせる宝石のような髪が静かに風がないのに揺れた。
そんな気がした。
大きな秘め事を明かしたローラルダは足元に落としていた視線を恐る恐る上げてジャスの表情を伺い、そして絶句する。
もしかしたら今までのような心地よい関係性が崩れるかもしれない。
神である自分に恐れ、そして利用しようとするかもしれない。
そのような恐怖に似た気持ちを抱いた事は、少なくとも1000年は身に覚えの無い話であった。
それぐらい覚悟を決めて告げた言葉であったのに。
「な、なん、なんじゃその顔は!!?」
いつもの調子でローラルダはジャスの顔を指差し叫んだ。
それもそのはずで、ジャスの表情は「はぁ?」とも「はぁ・・・」とも「はぁ」ともとれる、なんとも微妙な、少なくとも彼女の覚悟と釣り合いが取れるようなものではなかったからだ。
「いや、何って言われてもなぁ?」
困ったように頬をかくジャスの普段と変わらない様子がローラルダの怒りの炎に油を注ぐ。
とはいえその怒りも理不尽なものではあるのだが。
「もっと驚かんか!神じゃぞ!神様じゃぞ?もっとこう!ほれ!あるじゃろリアクションというものが!」
「ちゃんと驚いてるって」
「嘘じゃ!信じとらんくせに適当なことをぬかすでないわ!」
先程までの神秘的とも言える雰囲気は何処へやら。
王都の何でも屋でじゃれ合ういつもの二人になっていた。
怒りで状況が見えていないローラルダはその事自体の有り難さに気が付いていないようではあったが。
「近い近い!とりあえず落ち着け」
肩でフゥフゥと獣のように息をするローラルダを一旦椅子に座らせる。
すると駄々っ子をあやすように扱われたことに羞恥を覚えて徐々に顔を赤くした。
「一応言っておくけどな。結構驚いてるぞ」
「抜かせ」
じっとりと怒気と言うよりかはイジケた視線。
そんなローラルダの様子にジャスは苦笑する。
「嘘じゃないって。そもそも俺みたいな普通の人間からしたら伝説の古代竜、しかもその女王といったらもう神様みたいなものなんだよ。それが本当に神様だって話だから、あぁやっぱり、というかそんな風に何か納得しちゃってさ」
拗ねた顔が娘のシェロのように見え、つい女王である彼女の頭をぽんぽんと軽く撫でる。
ローラルダは一瞬、驚いたように目を丸くしたがすぐに恥ずかしそうに目を逸らして小さく呟く。
「神に対して何たる無礼。天罰が下るぞ」
「今更。やり返してやるさ」
「くっくっく。妾にかなうとでも思っておるのか?」
「いや、シェロに頼むし」
「それはズルじゃぁ・・・」
そしてどちらからとなく吹き出して笑う。
こうしてローラルダが抱えていた悩みはなんとも呆気なく、最高の形で解決を迎えたのであった。
「しかし、神をも恐れぬとは汝のためにある言葉じゃな、ジャスよ」
再び椅子に座り直すとローラルダは可笑しそうに皮肉った。
友人が友人のままで居てくれたことで大変機嫌が良い。
「まぁローラだしな」
「くくっ照れおって。汝も可愛いところがあるのぅ」
目を細めてカラカラと快活に笑うとローラルダは足を組み直した。
真っ白なローブのスリットから、眩しい脚線美がちらりと顔を見せる。
「さてさて、大きく話が逸れてしまったが続きといくかの。先程も言ったが妾は神じゃ。正確には七神の一柱、無の神「ノエルメント」である」
こほんとひとつ咳払いをして改めて古代竜の女王ではない方の肩書を述べるローラルダ。
真っ白なローブ、腰まで伸びる煌めく金とも銀とも虹色とも取れる長い髪がはためき神秘的な空気をより強調していた。
とジャスが思ったのも束の間で、ローラルダはニッと笑うとテーブルに肘をついて顎を乗せた。
「まぁそういうわけじゃ。神である妾やその眷属である3人、それに娘のシェロは人と魔の諍いに関わってはならんという決まり事があってな。それを破ると・・・まぁ良くないことになる」
勿論他の六神についても同様じゃ。
そう告げるローラルダの表情からしてペナルティは結構重いということが窺える。
「他の神から神罰を食らうとかそういう感じか?」
「正確とは言えんが、まぁそのように捉えてもらっても構わん」
(よくわからないが、神々の世界で取り決められていることがあるってことか。確かにそういうものがないと世界のバランスが簡単に崩れそうだしな)
古代竜の面々の強さを思い出しながらジャスは一人納得する。
そのジャスが知っている強さでさえも、まず間違いなく全力から程遠いということも理解していた。
そんな者たちが人と魔人のどちらかの陣営に与し、また、相手側にも同様の者たちが付いた場合、それはもう神同士の戦争と言っても過言ではないだろう。
(争いが終わった後に地上が残ってないかもな)
自身の恐ろしい想像に冷や汗を流すと同時に納得した。
だから、関われない。
その様子を見てローラルダはフっと軽く笑うと立ち上がり背筋を伸ばした。
「理解したようじゃな。だがな、妾達は手を出すことは出来ぬが応援はしておるぞ。漫画や美味な食べ物は人間たちが生み出した文化じゃからな!無くなってもらっては困る」
「ものすごい自分勝手だな」
心底呆れたように呟くジャスにローラルダは満面の笑みで答えた。
「ふふん、妾は神様じゃからな!」
お読み頂きありがとうございます。
なんと2件目のレビューを頂いてしまいました。
素敵なレビューをありがとうございます!
身が引き締まりながらも、嬉しくて小躍りしそうな程テンションが上がっております!
これからも頑張って行きますので、お付き合いよろしくお願いします。
ひゃっほい。




