第4話 その話、詳しく!!
「あのぅ?ちょっとお尋ねしたいんですが~?」
「「「!?」」」
そっと声をかけたジャスに血走った百を越える瞳が向けられる。
刺激を与えないように、敵意がない事を示すように、穏やかな気持ちで群れに近づいた結果、彼は誰からも知覚できないほどに気配を殺すことに成功してしまっていた。
声をかけられて初めてジャスの存在に気が付いたドラゴン達に臨戦態勢に入られ、「ああ!違います違います!怪しいものじゃないです」と慌てて戦意がないことを主張。
全力で刺激しないことに注力した結果、完全な隠密行動になってしまうというなんとも間の抜けた話である。
[何用ですか?ヒトの子よ]
ざわつくドラゴン達の中から一際大きな体の古代竜が声をかけてきた。
いや、声というより頭に直接響く思念波と表した方が正解に近い。
とりあえず敵意がないことだけはわかってもらえているようだ。
そうでなければ既に戦闘に入っている。
そのことにほっと安堵しながらジャスは龍に返答した。
「驚かせてしまい申し訳ありません。用というのは、皆さんここで何をしておられるのかなぁ?とそれを聞きたくてですね」
[何故それを人間に教えねばならんのだ!]
目の前の古代竜ではなく、別の白竜がジャスの質問に被せるように怒鳴り付けてきた。
その白竜の意見に他の多数の者も同意らしく、苛立ちを隠すことなく眼光を更に鋭くする。
並みの人間ではそれだけでショック死してしまいそうな雰囲気の中、ジャスは愛想笑いを浮かべて、
「いや、実は皆さんの集まっているお姿が人間にはちょっと刺激が強いというか、単刀直入に言うと王国内が大混乱になっていると言いますか」
あはは、と低姿勢を崩さないまま古代竜に人間界の現状を告げた。
ジャスの言葉に先程怒鳴り付けてきた白竜が更に強い口調で思念波を飛ばしてくる。
[人間どもの事情など我らが知ったことではない!貴様、我らを愚弄しに来たのか?今すぐ貴様を・・・]
[少し黙りなさい]
ジャスに飛び掛かりそうな勢いで捲し立ててくる白竜を古代竜が一喝する。
いや、一喝というよりは静かに、しかし有無を言わさない声音で命じた。
激昂寸前であった白竜は[し、失礼しました]と冷や汗を流し(少なくともジャスにはそう見えた)、後ろに下がる。
[見苦しいところを見せましたね]
古代竜が少し頭を下げて謝罪をすると周囲をぐるりと見回し、
[確かに我らの同胞がこれだけ集まっている姿は人間にとっては脅威でしょうね。結界を張らなかった我らの配慮が欠けていたと言わざるを得ません。迷惑をかけました]
またも頭を下げようとする古代竜に「いえいえ!とんでもない」と、腰の低いというか穏やかなドラゴンの態度に内心で狼狽える。
正直もっと上からガツガツと罵詈雑言なりを吐かれるとジャスは思っていた。
[では早速結界を張りましょう。ダリウス、頼めますか?]
[はいよ]
古代竜が背後にいる二体の古代竜の片方に声をかけると、軽い口調の返答が返ってきた。
と、同時に辺り一体、具体的には竜の巣のある山から麓の村が入らない範囲に結界が張られる気配がした。
効果は恐らく、内と外との遮断。
[これで我らの姿は外から認識することは出来ません]
「ありがとうございます。これで王都の者も安心します」
これで任務完了。
さて帰るかとジャスが思った矢先に結界を張った古代竜が話しかけてきた。
[なぁ人間。お前何て名だ?]
「あぁ、名乗っていませんでしたね。俺、いや私の名はジャスと申しますダリウス様」
[ジャスか。多分良い名前だな。オレの事はダリウスでいいぜ。様付けされるほど偉くねぇしな]
ガッハッハと豪快に笑う古代竜のダリウス。
生物の上位種族であるドラゴンの中の最上位種が偉くないのであれば一体誰が偉いのか。
[で、ジャスよ。お前よくこんな強面の連中しかいねぇ所に一人で来ることが出来たな。普通近付くことも出来んだろうに]
強面代表みたいな見た目の龍の言葉に、お前が言うなよ的な空気が流れた気がした。
「いやいや、皆さんピリピリしてますし怒らせちゃったらどうしようかなぁって怖かったですよ」
[そう!そうそう!それだよジャス!聞いてくれるか?実はな]
[そこまでですダリウス]
飲み屋の酔っぱらいのごとくジャスに愚痴を吐こうとしたダリウスを鋭い口調で1体目の古代竜が制止する。
その思念波に[ああ?]と不愉快さを隠すことなく、
[なんだ、ルルエンティ?お前まさか散々迷惑かけといて人間には関係ないってさっきの馬鹿みたいなこと言うんじゃないだろうな?]
ダリウスの言葉に白竜の一体が震えながら小さくなる。
ルルエンティと呼ばれた古代竜は[ふぅ]と呆れたように嘆息する。
[それとこれとは別問題です。我らの事情に人間が関わる必要はありません]
[何が我らの事情だよ。女王に追い出されたのだって元はといえばお前が悪いんだろうが!]
[な!?聞き捨てなりませんよ!取り消しなさい!]
[取り消す?なんで?事実なのにか?女王が構うなって仰ってるのにお前がウロウロウロウロ!四六時中ずっと女王様女王様女王様だ!誰でも嫌になるっての!]
[ち、違っ!私は女王様達が心配で・・・]
[程度ってもんがあるだろうが!女王は優しいからさりげない言葉で構うなって言ってるのにお前と来たら毎日、いや毎時間毎分毎秒!取り憑いた悪霊か!]
[悪霊は言い過ぎ・・・]
[言い過ぎじゃねーよ!周りの奴等見てみろよ!オレと同じ意見だぞ]
[そ、そんなことは、ないでしょ]
縋るような目で周りの龍達に視線を向けるルルエンティだが、彼女と目があいそうになるとどの龍達も申し訳なさそうに目をそらしてしまう。
何度も視線を巡らせるが、どの龍とも視線が交錯することはなかった。最後の古代竜に至ってはそもそも背を向けている始末である。
[嘘・・・]
ガクっと頭を垂れ絶望したように呟く。
その姿は生物の頂点に立つものとは思えないほど悲壮感が漂っていた。
ルルエンティの姿に[フン]と鼻を鳴らすとダリウスはジャス向き直った。
[見苦しいところを見せたな。大体の事情はわかったかもしれんが、実はうちの女王の産んだ玉子様がそろそろ孵るんだわ。人間でも動物でもあるだろ?赤子が産まれる前後ってのは母親が不安定になる。まぁそこをあそこの悪霊が刺激しまくって大噴火ってわけだ。正直に言うとオレらも浮き足立っててあいつほどじゃないにしろ女王に迷惑をかけちまった]
「それで皆さん追い出されて今に至る、というわけですか」
[そういうことだ。思ったよりしょうもない事情で驚いたか?]
しょうもない事情でというより、思った以上にドラゴンの思考が人間に近くてジャスは驚いていた。
王都でも似たような話を聞くことがある。
大体そういうときは時間が解決するか、第三者が仲裁するかだ。
どちらにしても本人、今回で言えば女王に当事者達が誠心誠意謝る必要があるが。
「何処にでも同じような話があるものですね。俺も依頼で旦那さんと奥さんの仲裁に入ったことがありますよ。あの時は大変だっ・・・」
言葉を最後まで言い終わる前に、ジャスの右手を両手で握りしめる女性が居た。
腰の辺りまで届く輝く白金の髪に金色の瞳。
その姿は人間が想像出来る美よりも更に美しいものであった。
金色を潤ませながら女性は古代竜ルルエンティの声でこう言った。
「その話、詳しく!!」
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