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第39話 絶対ライバル多いぞ


「えーーー!!おにーさんもう行っちゃうの!?」


早朝、あんな事件に巻き込まれた直後だというのに、開店準備をする父親を手伝っていたミミが抗議の大声を上げる。


あまりの声のボリュームにジャスは思わず両耳を塞いでしまった。


そのミミはというと、昨晩はぐっすりと眠ることが出来たのか、顔色はかなり良くなっている。

完全回復までもう少しといったところだろう。


ちなみに先程の大声は店の奥の住居から出てきたジャスがすっかり旅支度を終えているのを視界に入れたからであった。


「ちょっと急ぎの用があってね。それにいつまでもお邪魔するわけにはいかないよ」


テーブルを拭いていた布巾を脇に置いて駆け寄ってくるミミに笑いかける。

本当は深夜の内にお暇するつもりであったが、何も言わずに去るのも憚れたために親子が朝の支度を始めたこの時間に出立することにした。


忙しい時間帯なのは承知の上だが、逆にその方がジャスの相手をする暇もないだろうとの読みだった。

あまり気を遣われるのはかえって申し訳ないとジャスは考えたのだ。


「いつまでもってまだ一日じゃん。それとも私の命は一宿一飯で返せるだけの価値しかないって言いたいの?」


「あはは、そういう意味じゃないんだけどね」


膨れっ面でわがままを言うミミに思わず苦笑する。

本気で言っているわけではないことはジャスにも当然わかってはいるが、無碍にするのも忍びない。


(さてさてどうしたものか。あんな事があった後だし、不安になるのもよくわかるんだけどな)


などとジャスが思案すること数秒、唐突にそれは解決した。

トラネコ亭おなじみの店主による愛のあるゲンコツによって。


ガツンと痛そうな音が今日もまた店に響いた。


「このバカ娘が!ジャスさんが困ってるだろう!」


「ぅ〜〜!!イッタイなぁ!!そんなボカボカ頭叩いたら馬鹿になるでしょ!!」


「はん!一周回って少しはマシになるんじゃねぇか!?あーあー、昨日のしおらしい可愛い娘は何処に行っちまったんだろうな〜」


「!!・・・くっ・・・この!バカ親父!忘れろ!忘れてしまえ!!」


「痛え!!このバカ娘本気で殴りやがったな!!」


ギャアギャア。

話の発端であるジャスをそっちのけで名物である親子ゲンカが勃発。

お互い殴る蹴るの暴力に時折暴言まで聞こえてくるが、親子の表情は怒り顔なのに晴れやかだった。


「まぁまぁ二人共その辺で」


微笑ましい光景であったが放っておいたらいつまでも終わらなさそうだったので二人を仲裁する。

そこでようやくジャスの存在を思い出した二人が照れくさそうに同じ動作で振り上げていた拳を引っ込めるさまを見て思わず吹き出してしまう。


「あー・・・おにーさん笑ったぁ」


「ごめんごめん、余りにも仲が良さそうだからついね」


「見苦しいところを見せちまった。本当にジャスさんには迷惑かけてばかりで申し訳ねぇ」


「全然気にしなくていいですよ。仲睦まじい姿を楽しませてもらいましたから」


そう言うとちらりとミミの方に目を向ける。

視線に気付いたミミは「ぅ〜」と小さくなりながら照れくさそうに赤い顔を背けた。


「さて、じゃあ俺は行きますね。美味しいご飯に宿までお世話になりました」


「世話になったのはこっちだ。またルクトウに来た時は絶対に顔を出してくれ!目一杯ごちそうさせてもらうからよ!」


「絶対また来てね!来なかったら私から王都に行くからね!」


「約束するよ。ミミちゃんも王都に来た時は何でも屋に顔を出してね」


それじゃ、とジャスは片手を上げるとそのまま振り返ることなくまだ人通りが少ない大通りの方へと消えていった。

店主はいつまでも見送り続ける娘の頭に今度は優しく手を置くとそっと声をかけた。


「絶対ライバル多いぞ」


父親の言葉にビクっと跳ねて「な、な、なんのこと?」と答えるもすぐに耳と尻尾を情けなく垂れさせて呟いた。


「だよね・・・。あ〜私にもっと魅力があればなぁ」


店内に消えていくこの親子は知らなかった。

そのライバルが多いと予想したその男には現在のところ彼女と呼ばれる相手が居ないということに。




◇ ◇ ◇




「それじゃあちょっと行ってくるね」


ミミは荷物を持つと父親に向かってそう告げた。

大きな身体に厳つい顔をしたトラネコ亭の店主である父親が珍しく情けない顔をしている。


それを見てミミは堪らず吹き出して父親の背中をバシバシと叩く。


「とーちゃん何を情けない顔してるの!ちょっと王都のお店を見に行ってくるだけじゃん!」


「まぁそうなんだがな。変な男につかまらんかと心配でなぁ。お前馬鹿だし」


「な、なんだとー!とーちゃんの子だから仕方ないじゃん!」


またも喧嘩を始めそうになるが乗合馬車の時間もあるのでぐっと堪える。


今回ミミが王都に行くのは、居酒屋やレストランでどのようなメニューが出されているのかを視察するためである。

人の動きが激しい王都。

そこの流行を掴んでおくのはとても大事なことである。


とそのように店主である父親を説得して短期間だけ王都に行くことを許されたのだった。


(ま、まぁついでに?ついでにおにーさんに会えたら良いなぁってのもあったりなかったりするんだけどね)


ちょっと頬を赤く染める娘を見て店主は小さくため息を吐く。

当然、娘の魂胆などお見通しというわけだ。


「まぁいい。とりあえず行くからにはしっかりリサーチしてこい。その代わり色々と気を付けろよ!」


「わかってるよ!本当いつも口うるさいんだから。おっと、そろそろ時間だから行くね!とーちゃんも無理し過ぎて身体壊さないようにね!」


いってきまーす!と大きく手を振りながらミミは大通りへと走っていった。


それを小さく微笑みながら見送ると店主はトラネコ亭へと戻っていく。

今日から少しの間は一人で切り盛りをしなくてはならない。

帰ってきた時に娘が驚くぐらいの売上をだしてやる。

そう気合を入れて仕込みの準備に取り掛かるのであった。



これは今から少し後。

季節がいくつか変わった後の話である。


とりあえず一段落です。

次から王都へと話が戻ります。


最近、読んで頂いてる方が増えてきており身が引き締まる思いです。

引き続き頑張っていきますので、もうしばしお付き合い下さいませ。

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