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第31話 お出かけですか?


「そろそろじゃないかな、と思ってたところですよ」


「察しが良くて助かるよ、ジャス君」


ブルーノ大臣の執務室のソファに腰を沈めながらジャスは向かいに座る大臣に視線を向ける。

最後に彼から呼び出されたのはローラルダ達と出会うきっかけとなった竜の巣の調査依頼の時である。

数ヵ月程前の話であるが随分と昔のことのように感じながら日々の騒がしさについ頬が緩む。


「本題の前に、先日の魔人討伐本当に助かったよ。随分と遅れた上に言葉だけの礼で申し訳ないが本当に感謝している」


そう言い頭を下げるブルーノ。

現在、執務室にはジャスとブルーノの二人しかいないため他の者の目を気にする必要がないとはいえ、やはり大臣に頭を下げられるのは気持ちが良いものではない。


「やめてくださいブルーノさん。それに魔人を倒したのはほとんどリオンの奴ですよ。俺は付いていったに過ぎません」


「相変わらず君は謙虚だね」


ふっと口許に笑みを浮かべてソファの背もたれに体重を預けたブルーノであったが、しばしの沈黙の後に今度は重々しく口を開いた。


「もうわかっているかもしれないが、今日、君を呼んだのは調査して欲しいことがあるからなのだ。・・・よっと、これを見て欲しい」


ブルーノはセドール王国の地図を広げると王都ゼドラルより西方に位置するとある領地を指差す。

そこには「ブラームト領」と書かれていた。


「ここに魔人がいるかもしれない、と」


「かも、だ。正直に言うと可能性は低い」


「だから俺の出番ということですね」


ジャスの言葉にブルーノは深く頷く。

騎士団などの正規の人員を動かすにはある程度の根拠というものが必要になってくる。

怪しいと考える材料はあるが、人を動かせる程のものではないというところからジャスに声がかかったというわけだ。


「この辺りの町や村で若者が失踪している。不確かな情報だが。冒険者もここで消息を絶っているものがいるそうだ」


地図上のブラームト領土の範囲を指でなぞりながらブルーノは続ける。


「とはいえ、若者が失踪するのは都会や田舎を問わずよくあることだ。嘆かわしいがね。ただ、ブラームトからはそういった者が今まではあまり多くは出ていなかったのだよ。それが少し気になってね。魔人の事で過敏になっているだけだとは思うのだが」


ハァと深く息を吐きながら宙に目をやる。

なんとなく何処か引っ掛かるものがあるのだろう。

理由ではなく、長年大臣を勤めてきたブルーノ個人の勘。

当然、ただの杞憂の可能性も高いが。


「良いですよ。調査してきましょう。俺の友人にも勘が冴えている奴がいるんで、勘は馬鹿に出来ません」


「本当に君には助けられてばかりだ。是非正式に雇い入れたいのだがね」


「正式な雇用体系になっちゃうと今回のような仕事は出来ませんよ?」


「はぁ・・・そこが悩ましいところだな。こちらを立てればあちらが立たずだ」


やれやれと首を振るとブルーノはソファから立ち上がり懐から金貨を3枚取り出すとジャスの前に置いた。


「奮発しますね。これポケットマネーでしょ?」


「アタリだった時の危険度を考えたら安すぎるくらいだ。取っておいてくれ」


「そういうことなら遠慮なく。落ち着いたら一杯行きますか」


「ハッハッハ!是非とも一緒させてくれ。それを楽しみに老体に鞭打って仕事を頑張るとするよ」


そう言って豪快に笑うブルーノに一礼し、ジャスは部屋を後にした。





「あれ?店長お出かけですか?」


店に戻り鞄に軽食などを詰め込んでいるとサーナが後ろから覗き込んできた。

時刻は正午過ぎ。

ジャスが城から戻ってきた時に姿が見えなかったので昼食を取りに家に帰っていたのだろう。


「ちょっと依頼をもらってね。数日、もしかしたら10日程開けちゃうかも知れない」


「あらら、長いですね。わかりました。しっかり留守番してますね」


ハンガーにかけてあったエプロンを装着しながらサーナが胸を張る。


「毎日来なくても大丈夫だからね。どうせお客さん来ないと思うし」


言ってて悲しくなることを口にして苦笑する。

ただ、統計的に考えるとジャスの言葉は恐らく当たってしまうことになるだろう。


「ん〜でも私が居ないとシェロちゃん達が来た時に困りますよ?」


「あ〜・・・」


サーナの言葉にどんよりと納得する。


前にも今回と同様、数日間店を開けた事があった。

その時はたまたまサーナにも用事があり、何でも屋に数日間誰も居ない日が続いた。


そこに遊びに来たシェロとローラルダであったがジャスが留守とは知らず、彼を驚かそうと1日中店の隅っこに隠れていたらしい。

しかし夜になってもジャスは姿を現さず、結局二人はしぶしぶ龍の巣へと帰っていった。


ということを、依頼から帰ってきたジャスは長々とローラルダに愚痴られ、ついでに組手までさせられ、女王のストレス発散に付き合わされたのだった。


それが終わった後はふくれっ面のシェロのご機嫌取りが待っていた。


「やっぱり店番してくれる?」


「あはは、良いですよー」


「ホント、助かるよ。ありがとう」


「いえいえーお土産期待してますね!」


「ちゃっかりしてるなぁ」


そして二人で笑いあった。



ちょっと王都を離れ、今回から少し物語が動きます。

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