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第27話 限界に達しました


寒い寒い寒い・・・。

凍える。死ぬ。


ここはティルムンド最北端の大陸の更に北の島「最果ての島」。

年中氷に閉ざされた死の大地である。

そんな過酷な環境のもと、ジャスは魔力で発生させた火の玉で暖を取りながら睨み合う二人の女性に視線をやる。

かれこれ5分はあの状態のままである。


女性の一人は賢者チェルロッテ。

眼光鋭く正面の女性を睨み付ける彼女からは怒りの炎が立ち上っているように見える。

いや、本当に炎を纏っていた。


対する女性は古代竜ララミーナ。

いつも眠たげな目をしている彼女は今も同じような表情をしているが、よく見るとこめかみの辺りがひくついており、額にはうっすらと青筋が。

その彼女からも幻ではなく燃え盛る炎が立ち上っている。

ついでに交わる視線はこれまた比喩ではなく雷光を伴っていた。


(何で俺がこんな目に・・・)


凍てつく暴力的な風に晒されながらジャスの思考は1時間ほど前へと遡っていった。



「最強の魔法使い?」


裏庭の花壇の水やりを終えたサーナから唐突に質問された。

世界で一番強い魔法使いって誰なんですか?と。 

水やりをしていたらジャスがバケツに水魔法で絶えず給水をしてくれるのを見てふと気になったらしい。


「そうです!店長もすごいと思うんですけど、やっぱりチェルちゃんですか?」


「俺なんかチェル嬢の足許にも及ばないよ。質問の答えだけど、俺の知る限りでは候補は二人かな」


意外な回答にサーナは一瞬キョトンとする。

てっきりチェルロッテで決まりだと思っていたからだ。


「え、二人って・・・あ!わかった!ドラゴンの誰かですね!」


「お~正解。ローラルダは魔法使ったところ見たことないから除外として、ララミーナの知識と魔法はすごいよ。本気出してる様子がないのに全然底が見えない」


初めて出会ったときには転移で竜の巣付近まで行ったにも関わらず、ジャスが王都から来たことを突き止めるほど探査能力が高い。

それにこれが大きいが、ジャス以外に空間転移を使える唯一の人物である。

しかもより高性能。

ジャスではどんなに頑張っても転移ゲートを維持するどころか、作成すら出来る気がしない。

それを彼女はずっと開きっぱなしで維持しているのである。

更に通ることが出来る人物を制限できるセキュリティ付。

恐ろしい話である。


「ララミーナは魔力の扱いがうまい。魔力量が巨大な割に扱いが丁寧で惚れ惚れするーー」


「そんなに褒めると、惚れる」


「うおおお!びっくりした!」


慌てて振り返ると「イェイ」とピースをしているララミーナの姿があった。

そしてその後ろからヒョコっとチェロが顔を出し「パパ、サーナ来たよー」とジャスに抱き付いた。


「店長が驚かされるの初めて見た気がします」


何度か驚かそうと背後から忍び寄ったことがあるサーナだが、一度も成功したことがない。

逆に急に振り返られて驚かされたり、背中を軽く叩こうと思ったら避けられたりであった。


「ふふ。もっと褒めてもいい」


「ララさんは天才です!」


「ララはてんさいー!」


「前から思ってた。サーナは良い子。お嬢様も。ここにいる女子は、天使と言っても、過言ない」


「さらっと自分も含めやがった」


ジャスのツッコミをスルーし盛り上がる3人。

やれやれとカウンターの定位置に腰を下ろしたジャスの膝にすかさずシェロが飛び乗る。


「それで、ララの名前を出して、何話してたの?」


「あぁ、大したことじゃないんだけどな。実はーー」


ジャスが質問に答えようとしたその時、店のドアが勢いよく開かれ桃色の少女が勢いよく入店してきた。


「ジャスいるわね。ちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・って!あなた何してんのよ!」


桃色の賢者チェルロッテはジャスの膝の上に座る幼女を見て血相を変える。

そして慌ててジャスに駆け寄るとキョトンとするシェロを引き剥がして自分の背後に庇うように隠す。


  《ララミーナに1ポイント》


「前から性悪だと思ってたけど、まさか幼女趣味まで、キャッ!」


突然ララミーナが、ジャスに向かって吠えていたチェルロッテの手から無理矢理シェロを奪い返す。

その際、運の悪いことに勢い余って小柄なチェルロッテは床に尻餅をつく形となってしまった。


  《チェルロッテに1ポイント》


「お嬢様に、触るな」


聞いたことがないララミーナの鋭い口調にジャスは一瞬呆気にとられる。

その一瞬が決定的な遅れとなり、二人の間で戦いの火蓋が切って落とされた。


「何、あなた?いきなり人を突き飛ばしておいて結構な言い分じゃない?」


チェルロッテはゆらりと身を起こすと眉間に深いシワを寄せながら不機嫌を全く隠さずララミーナを睨みあげる。

ジャスが慌てて間に入ろうとするが、ララミーナは無言で手のひらを向けてそれを制止させると、睨んでくるエルフの少女に向かってふんと鼻で笑う。


「いきなり、お嬢様に触るから。変態行為は、余所でやって」


  《チェルロッテに1ポイント》


「な!?誰が変態よ!あなたその子の保護者なんでしょ!?ならちゃんと見ておきなさいよ!そんな寝てるか起きてるかわからない目してないでさ!」


  《ララミーナに1ポイント》


売り言葉に買い言葉。

周りの雰囲気からどうやら自分が何か勘違いしていたことは察したが、プライドの高いチェルロッテは変態扱いされたことにより後には退けなくなってしまった。

そして不思議な雰囲気をした目の前の美女の目についたことにいちゃもんをつけるという子供のような行為に出てしまった。


しかしそれは思いの外、効果的だった。

勿論悪い意味で。


「ララは、ちゃんと起きてる。そっちこそ、幼女の癖に幼女趣味とか、救えない」


  《チェルロッテに1ポイント》


「だ、だ、誰が幼女趣味よ!!というか誰が幼女なの!!見たところあなた竜か何かでしょうけど、こんな近くにいてもこれだけしか魔力を感じられないなんてよっぽどショボいのね!」


  《ララミーナに1ポイント》


「かっちーん。ララの見事な制御、気が付かないとは。とんだ愚者、やっぱり救えない」


  《チェルロッテに1ポイント》


「ぐ、愚者!?賢者である私を捕まえて言うに事欠いて愚者って言った!?このバカトカゲ!」


  《ララミーナに1ポイント》


「失礼が、過ぎる。貴女が賢者?ふふ。人の悪口ばかり。「陰険じゃ」って名乗ると、良い」


  《チェルロッテに1ポイント。限界に達しました》


「どっちが失礼よ!あなたも魔法使いなんでしょ?それなら魔法でケリつけるわよ!どうせ私の足許にも及ばないんでしょうけど!この賢・者・様のね!」


  《ララミーナに1ポイント。限界に達しました》


「ぷっちーん。受けて立つ。吠え面かくがいい。変態幼女では、ララに勝てない」


子供のような言い合いを続ける二人からそーっと離れてサーナとシェロの二人を2階へと逃がす。

そして自身も2階へと避難しようとしていたジャスの右腕をララミーナが、左腕をチェルロッテが万力のような力で掴む。


「「何処へ行こうと?」」


二人の声が見事にハモる。

本当は仲良しなんじゃない?という言葉を飲み込みジャスは辛うじて笑みを浮かべることが出来た。


「あ~いや。取り込み中みたいだから邪魔しないように退散しようかな~ってな」


正直こんな人外のような者と、正真正銘の人外の者との争いに関わっていては命が幾つあっても足りない。

しかも<小さな大災害>の異名を持つチェルロッテだ。

近くにいるだけで被災するのは間違いない。


なので早々に退散しようとしていたのだが。


「待ちなさい。この寝惚け眼をコテンパンにするところをちゃんと見届けなさい」


「変態幼女に、お灸を据える。一人だと、イジメになる。だから着いてきて」


「さっきからあなたの悪口の方が酷くない!?それに誰がイジメられるって?」


「口論は既に、ララの勝ち。大丈夫。魔法も、手加減してあげる」


「・・・言わせておけば・・・!!」


チェルロッテの魔力が高まるのに比例して店内の気温が急速に冷えていく。

その様子にジャスが店を、街を壊されてなるものかと慌てて口を挟む。


「頼むから余所でやれって!ホントお前ら洒落にならんから!・・・って寒っ!!」


ジャスの言葉が終わる前に景色が歪んだかと思ったら、3人は暴風が吹き荒れる白一色の世界に立っていた。

戸惑う二人にララミーナはいつもの無表情で告げた。


「ここは、最果ての島。ここなら、迷惑はかからない」

あと1話この喧嘩は続きます。

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