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第24話 そこに正座


「そこに正座」


ホテルの一室。

ジャスとリオンの部屋の真ん中で桃色髪の賢者が腕を組んでおり、その正面には二人の男が気まずそうに視線をあさっての方向に向けていた。


「正座」


声に温度があったと仮定したならば、先程より5度は確実に下がっているであろう声を受け、ジャスは堪らず隣に立つリオンに話しかける。


「ほら、チェル嬢が正座って言って・・・」


「あなたもよ」


「はい」


すごすごと二人揃って大人しく足を折り曲げ床に直接座る。

高級ホテルだけあり、カーペットが柔らかく足が痛くないのは幸いだった。

チェルロッテが二人を冷たい瞳で睨み、重い空気がしばらくの間流れる。

そしてふんっと荒く息を吐くと指を三本立てて突き出した。


「私から言いたいことが3つあるわ」


そこから指を二本折り、人差し指だけを立てた状態で続ける。


「1つ目。何故黙って魔人のアジトに乗り込んだのか」


おずおずとリオンが挙手し発言しても良いか窺う。

この状態のチェルロッテは本当に怒っている事を経験上よく知っているのでリオンも素直に答えようとする。


「えっと、まずは勝手な行動をとってゴメン。黙って行った理由は魔人が本当にいるかなんてわからなかったからなんだ。だから休みの日にプライベートで見に行こうと思ったんだけど、まさか本当にいるなんてね」


あはは、まいったね。と照れたように頭をかく。

要は、確証がないのに他の人間を連れて行くなんて出来ないということなんだろう。

ジャスが「俺は良いのかよ」とぼそりと呟くが、チェルロッテに睨まれて再び沈黙する。


「リオン、貴方は自分を過小評価しているわ。貴方がそうなると思ったことはそうなるの。危ないと思ったことは危ないの。魔人がいると思ったら魔人はいるのよ」


「・・・」


「私は貴方の仲間じゃないの?危険かもしれないところに黙って行かれると悲しいわ」


「ごめん」


再び部屋に沈黙が訪れる。


確かに魔王を倒してから気が抜けていたかもしれない。

本当に魔人が居たとしても余裕だとジャスと二人で突入したが、下手をしたらジャスは死んでいたかも知れなかった。

チェルロッテの言う通り、彼女が居たら状況はもっと楽だったことは間違いないだろう。

脳裏に色々な考えが過り、リオンは謝罪に続く言葉が出なかった。


「次に2つ目よ」


チェルロッテは俯いたままのリオンからジャスに視線を移す。

今度は先ほどと違い、明らかに表情は怒りで満ちていた。


「<策略>のヴァルディマが生きていたことも許せないけど、何あいつにみすみす逃げられてるのよ!」


「いやいや、チェル嬢無茶言うなよ」


「うるさい!!あいつがどれだけ厄介な相手か知っているでしょ!!」


堪らず床を怒りに任せて踏みつける。

彼女の軽い体重に柔らかい毛足の長いカーペットのおかげで音はほとんど鳴らなかったが。


「知ってるよ。勇者パーティが出し抜かれて危うく全滅するところだったもんな」


チェルロッテはぐっと悔しそうに声を詰まらせるが、事実であるために辛うじて怒鳴るのを我慢する。

ちなみにその全滅の危機を救ったのがジャスであり、その際にヴァルディマの首をはねて倒したはずであった。


「そ、そうよ。私達がやられそうになるくらいに厄介な相手よ。それなのに!退治するチャンスだったというのに!あなたは!」


やはり我慢ならず座っているジャスの胸ぐらを掴み前後に揺らす。

魔力を込めていない素の状態ではただの非力な少女と変わらないため、相変わらずその姿は駄々っ子のようであったが。


「だから無茶だって。リオンならともかく俺があいつと正面からせーので戦ったら99%負けるぞ。それにあいつは最初から戦う気なんてなかったからな。そんな相手を倒すのは正直言って難しい」


「ボクもそう思う。それに責任は最後に戦ったボクにあるよ」


リオンもジャスの言葉に賛同する。

実際、あの場でヴァルディマに戦闘の意思があれば結果は変わっていたかもしれない。

ただ、<策略>と呼ばれるあの魔人が無策で戦うとは考えられないが。


「あ~もう!わかったわよ!結局私を連れて行ってないのが悪いんじゃない!で、最後の3つ目・・・だけど、え~っと、その」


先程までの勢いが嘘のように途端に歯切れが悪くなるチェルロッテ。

その顔は真っ赤に染まり、視線も落ち着かない。

そしてなにやら言葉を発したようだが声が小さすぎて二人の耳には届かなかった。


「チェル?聞こえないよ」


「あ、いやその、つまり」


小さな声を拾うためにリオンが近寄るが、同じ距離を後ずさるため相変わらず何を言っているのかよく聞こえない。

そんな彼女の小さな両肩に今まで部屋の隅で静かにしていたサーナが手を置いた。

これ以上後ろに下がれなくなったチェルロッテが振り返り見上げる。


「サ、サーナぁ」


「ほら、チェルちゃん。最初に怒っちゃったから言いにくいのはわかるけど、ちゃんと言わないとね」


妹をあやす姉のようにチェルロッテをリオンの方に向き直させる。

そんな二人のやりとりに今度は男二人が絶句した。


(あのプライドの高いチェルロッテになんて口の聞き方を!サーナちゃん消されるぞ・・・)


大変失礼なことをジャスが考えていると、チェルロッテがおずおずとリオンに向かって、


「色々言ったけど、その、心配した。すごく心配した。あいつの魔力を感じて罠にはまったとき思い出して。帰ってきて良かった。その、キツいこと言ってゴメンね」


と俯いて本音を呟いた。

リオンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑む。

そして目の前の桃色の髪を静かに撫でた。


「こっちこそゴメン。ありがとねチェル」


「・・・うん」


そんな英雄の二人を何でも屋の二人が暖かい眼差しで見守っていた。


しばらく後に冷静になったチェルロッテが見たのは、にやにやとしたジャスの悪い笑顔であった。


勿論、その後に悲鳴を上げることになってしまったのだが。

次で一段落です。

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