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第23話 性根が腐ったジャスさんみたいだよ


「やぁ、ジャス君じゃあないか。その節はお世話になったね」


通路を5分ほど進んだ後の小さな広場の真ん中。

そこに洞窟内には不釣り合いな豪華なテーブルにティーポットを置き優雅に紅茶を飲む異様に背の高い男の姿があった。


座っている姿勢のためわかりづらいが、身長は3メートル近くあるように見える。

黒いタキシードのような服装にオールバックにした濃い灰色の髪。

それに加え優雅な動きから何処か執事のような雰囲気を感じさせた。

その男の姿が目に入った瞬間、ジャスは弾かれるように後方へと距離を取った。

背筋に冷たい汗が流れ落ちる。


(バカな!何故あいつがこんなところに!!魔力の反応はなかったぞ!!)


極限まで緊張するジャスとは正反対に落ち着いたゆったりした動きで男がカップをテーブルに置く。


「無視するなんてツレないじゃあないか?殺し合った仲だろ?ま、死んだのはワタシの方なんだけどね~アッハッハッハ!」


旧友との再会を懐かしむような気さくさで笑った瞬間、唐突に背後からジャスの胸を貫く。

致命の一撃を受けたかと思われたジャスであったが、その輪郭がぼやけ、弾けて消えた。


「あらら、やっぱり偽物じゃあないか。相変わらず抜け目ないことこの上ないね」


やれやれと首を振る長身の男。

その10メートル程離れた場所にジャスの姿が揺らめき出現した。


「いきなり乱暴なご挨拶だなヴァルディマ。そんなんだと女性に嫌われるぞ」


精一杯強がって皮肉を言うが、ジャスの額からは冷や汗が幾筋も滴り落ちた。


三魔貴族が一人。

<策略>のヴァルディマ。


それが目の前の男が呼ばれていた名であり、3年前にジャスが殺したはずの魔人である。

その魔人はハァ~と長いため息をつくと、心底呆れたような口調で抗議する。


「それを君が言うのかい?ジャス君。ヒトのおうちに飛び込んできたかと思ったら

いきなりの大虐殺。これじゃあどっちが魔人かわからないねぇ?」


ゆっくりとテーブルまで戻るとカップを手に取り再び紅茶を楽しむ。

ヴァルディマはテーブルを挟んで向かいの椅子を顎でしゃくると親しげに、


「立ち話もなんだ、とりあえず座って話そうじゃあないか。貴族サマの誘いは断るもんじゃあないよ」


「何を企んでいる?」


下手に刺激するより言うことを聞いた方が幾分かマシと判断し、魔人の向かいの椅子に腰かける。

当然、罠がないか素早く確認した上でだ。


「企むなんてまさかまさか。ここで紅茶を楽しんでいたら君達が急に来たんじゃあないか。ワタシは君にやられた傷を癒しているだけだというのに、ね」


ヴァルディマがすいっと指を動かすと、ジャスの前のカップにティーポットがひとりでに紅茶を注いでいく。

ふわっと広がる花のような香りから裏庭の花壇が脳裏に浮かんだ。


「よく言うよ<策略>。わざわざこんなところに呼び出しやがって」


「おや、おやおや。流石ジャス君。いつから気が付いていたのかね?」


ジャスの言葉に嬉しそうに手を叩いて尋ねる。

弧を描いた黒目の見えない真っ赤な目が細められる。


「お前の姿を見てようやくさ。とはいえ最初から何かおかしいとは思っていたんだ。これだけ巧妙に隠れている連中がただの一般人に姿を見られるはずがない。となると一番考えられるのは、あえて勇者に情報を与えて誘い込む罠なんだが、それにしては魔人共が無警戒すぎた。そしてアジトを進むとそれぞれ一人ずつしか通れない分岐路があり、向こうの通路に残りの魔人3体の気配。こっちには気配がない。となると普通に考えてリオンが魔人のいる方に行くよな。そうしたらこの状況だ」


赤い波紋を揺らしながらカップを掲げ、それを一口含む。

この男がここで毒を盛るようなそんな下らない真似をしないことをジャスは知っていた。


「どうやったかは知らないが、上手くリオンの勘をくすぐったもんだ。さて、もう一度聞く。何を企んでいる?」


心を乱したままでは有事の際に対応出来ない、と無理矢理に自分を落ち着かせて睨む。

ジャスの鋭い視線を受けると魔人の男は突然立ち上がり愉快そうに顔を隠して語り出す。


「まさか紅茶を飲んでくれるとは、ワタシも信用されているものだねぇ。では、その信用に応えようじゃあないか。ワタシはね、君に会いたかった。それだけなんだよ」


テーブルに手を付き、人間では考えられない高さからジャスを見下ろす。

その表情は心底楽しそうに見えた。


「ただ、君が何処にいるかわからなかったからねぇ、所在が分かりやすい勇者に目をつけたわけさ。今日から君たち人間はお休みなのだろう?勇者殿は忙しい身のようだからね。軽く餌を巻いたら懐いている君を連れて今日辺りに来ると思ったって訳さ」


餌が大きすぎると軍や勇者パーティが来ていただろう。

絶妙なさじ加減でヴァルディマはジャスをここに引き寄せたということになる。


(おいおいリオン。お前完全に手の平の上で転がされてるぞ)


しかしこれで目の前の魔人が今のところ害意を持っていないことがわかった。

そんなものがあればこんなすぐ傍まで来てリオンの勘がそれを見逃すわけがない。

あくまでも今のところ、ではあるが。


そう考えたジャスはとりあえずヴァルディマの言葉を信用する。


「そうなるとわからんことがある。こんな回りくどいことまでして俺に会う理由はなんだ?」


その言葉を聞いた途端、ヴァルディマの表情が消えた。

そして椅子に座るジャスの顔を覗き込むと、


「本当はわかっているんじゃあないか?・・・・・・復讐だよ」


突如、背筋に虫が這ったような不快な寒気を感じ、その場から大きく跳ね退く。

同時に三体の分身と複数の氷の槍がジャスの周辺に出現する。

ヴァルディマはその様子を無表情でしばらく眺めていたが不意に笑顔を作ると、


「う・そ♪さっきからピョンピョン跳ねてウサギのようじゃあないか」


腹を抱えてジャスを指差す。

そこに先程の心臓を握りしめられるような不快なプレッシャーはなかった。


「とりあえず目的は果たせたしワタシはお暇するとしようじゃあないか。邪魔者も来たようだしね」


その言葉が終わろうかというタイミングでジャスが入ってきた通路から蒼い炎が地面を引き裂きながらヴァルディマに襲いかかった。

それを空中に逃れることで避け、炎が出現したのと反対側の通路の前に降り立つ。


「ジャスさん!大丈夫みたいだね。良かった」


部屋に駆け込みすぐさまジャスの状態を確認すると部屋の反対側へ視線を向けるリオン。

その顔はいつもの気の抜けたものではなく、鋭く冷たい表情をしていた。


「おかげさまでな。こんなことならお前の方の通路が良かったよ」


その場合、強めの魔人3体と戦うことになっただろうが、目の前の魔人の貴族より100倍以上マシであっただろう。

ジャスの言葉にヴァルディマは悲しそうな声音で抗議の声をあげた。


「冷たいことをいうじゃあないか。流石のワタシも傷付いちゃうかもねぇ?さてさてジャス君の元気な姿も見ることが出来たし、この辺で失礼するよ。では、また会おうじゃあないか」


「逃がすと思ってるの?」


声だけをその場に残してリオンが斬りかかり、部屋の真反対に居た両者の距離が一瞬で無になる。


刹那、足元から斬り上げられた刃をヴァルディマは後ろに半歩下がることで避けるが、蒼い炎により燕尾服に斜めの焦げた直線が入る。

そのまま返す刃で上段から斬り下ろそうとしたリオンであったが、魔人の薙ぐような打撃を見て急停止をし聖剣を縦に構えることで防御の姿勢をとる。

と、突如ヴァルディマが薙いだ箇所の空間が裂け、そこから無数の赤い槍がリオンに襲いかかった。

その全てを叩き切ったときには、既にヴァルディマの姿はそこにはなかった。


「またお茶でも飲もうじゃあないか、ジャス君」


声だけが広場に反響し、やがて静寂が戻ってくる。

しばらく無言の時間が続いたが不意にリオンが口を開いた。


「あいつ、生きてたんだね。ジャスさんが倒したはずなのに」


そうなのだ。

ジャスは確かにヴァルディマを殺した。

胸を一突きし、首も落とした。

それでも生きていたのだ。

魔力が消失したのを確認していたのだがどうやら甘かったらしい。


「またやっかいなのが生きてたもんだな・・・。お前あいつ苦手だろ?」


リオンの方を見ると珍しく苦々しい顔でヴァルディマが消えていった通路の方を見ていた。

そしてこれもまた珍しく吐き捨てるような声音で、


「ボクあいつ嫌いだ。意地の悪い攻撃や作戦ばっかりだし、人を小バカにしたように翻弄してくるし。性根が腐ったジャスさんみたいだよ」


イライラしたように聖剣を地面に突き刺した。

ジャスはご機嫌斜めのリオンの肩にポンと手を置くと告げた。


「お前、ホテルに戻ったら覚えてろよ」

少し話が動き出した感じですね。

しばらくお付き合い頂ければ幸いです。

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