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第19話 もう、か・わ・い・い


「いや~ホント久しぶりだね」


店内のテーブルで紅茶を飲みながらリオンは笑いかけた。

この紅茶はローラルダが置いていった彼女のお気に入りの茶葉であり、サーナ曰く「すっごく良い葉」だそうだ。


「久しぶりってこの前王城で会っただろ?」


この前というのは古代竜の事件解決の報告にジャスがルルエンティと二人で行ったときの話だ。

一応王国側は万が一、古代竜であるルルエンティが牙を向いたときに備えてリオンを待機させていた。

ジャスのその言葉に不満げな顔をして、


「会ったって言うけど、一言二言交わしただけじゃないか。ゆっくりしていけば良かったのに」


「古代竜が一緒に居ただろ。そんな状態でゆっくりなんか出来るか」


「それはそうだけどさ~」


伝説級のドラゴンが城にいる状況は、王城の者にとっては気が気でなかっただろう。

仮に敵対してしまった場合、勇者が居ても勝てたかどうか。

礼儀として歓待の誘いをしていたが、ルルエンティが断ってくれて内心ほっとした者がほとんどであったのは間違いない。


「で?結局何しに来たんだ?」


「あ~そんな嫌そうに言わないでよ~流石のボクも傷つくなぁ」


頬を膨らませながら上目使いに睨むリオン。

そんなあざとい仕草も中性的な美形である彼がやると様になってしまう辺り、ジャスは悔しいというか負けたような気持ちにいつもなってしまう。

また、リオンのジャスに対してだけ距離の取り方が近過ぎることも、ジャスが彼のことを邪険に扱ってしまう要因のひとつであった。


「まぁいいや。今日来たのはね~。じゃん!シーマ海岸が一望出来る高級ホテルのペアチケット!明日から連休だし一緒に行こうよ!」


リオンが取り出した豪華なデザインのチケットには超豪華有名ホテルの名前と「2名様ご招待」と確かに書かれていた。

そのチケットをマジマジと見るとジャスは大きくため息をつき、聞き間違いがないようにゆっくりとリオンに確認を取る。


「誰と、誰が、何処に行くって?」


負けじとリオンも言い間違いがないようにゆっくりとジャスに告げる。


「ボクと、ジャスさんが、シーマ海岸の高級ホテルに、行く」


無表情のジャスとにこにこ顔のリオンが見つめあう。

その様子を横からドキドキと真っ赤になった顔をお盆で隠しながらサーナが見守っていた。


「却下。俺は明日から忙しい」


ぺいっと突きつけられたチケットをリオンの方に投げ返す。

それを空中でキャッチしながらリオンはにまっと悪い笑みを浮かべる。


「それは嘘だね。本当に用事があって断らないとダメな場合、ジャスさんは大なり小なり申し訳なさそうに断るんだよ」


にししと口許に手を当て「ホント相変わらず優しいね~」と煽る。

ジャスの方はというと、図星を言い当てられてバツが悪かったのか、誤魔化すように大きな声で反論する。


「仮に用事がなかったとしてだ。何で野郎同士で海の見えるホテルに旅行に行くんだよ!お前、モテるんだからどっかの貴族のお嬢様とでも行ってきたらいいだろ!」


ジャスの反論にちっちっちと指を振ると「わかってないなぁ」とばかりに嘆息して、


「そんなの仕事の延長みたいなもんじゃないか。そういうのじゃなくて、ボクは大親友と気兼ねなく旅行に行きたいんだよ」


「じゃあその大親友さんと行けば良いだろ」


「だから誘ってるんじゃないかー」


「大親友って俺かよ!」


「何を当たり前のことを。あ、照れてるんだね!もう、か・わ・い・い・・・ってまってまって!転移で飛ばそうとしないで!」


慌ててリオンが後ろ跳びで大きく距離を取る。

青筋を浮かべながら伸ばされたジャスの右手の先には魔方陣が形成されており、いつでも効果が発揮できる状態となっていた。


「で、結局お前は何がしたいの?」


魔方陣を光の粒子にして消し、椅子に乱暴に座り直す。

避難していたリオンもジャスが座るのを見てから後頭部を掻きつつ、元の席に腰かける。


「さっきから言ってる通り一緒に旅行に行きたいんだって。ボクと二人っきりが恥ずかしいなら、ほら、チケットはもう一枚あるしあと二人誘ってもいいよ」


腰のポーチから二つに折り畳まれていたチケットを取り出してテーブルに置く。

テーブルから少し離れた場所に立っていたサーナは、重なった二枚のチケットに視線が釘付けになっていた。

ジャスは横目に看板娘の物欲しげな視線を確認すると優しく問いかけた。


「サーナちゃん興味あるなら休みの前半だけ一緒にどう?」


店主の言葉の意味がわからずしばらく呆けていた彼女だったが、脳が遅れて意味を理解すると「え?えぇ!?」と狼狽した。

持っていたお盆を取り落としそうだったのをすんでのところで回避し、おずおずと口を開く。


「私なんかが一緒に行っても良いんですか?」


場違いなのでは、と続け不安気な顔で勇者の方を見る。

当のリオンはきょとんと不思議そうにしながらジャスに「そうなの?」と尋ねている。

自分が原因だとは全く考えていないようだった。


「全然気にしなくていいよ。こいつ世間で言われてるほど偉い奴じゃないから」


「あはは、酷い言いようだね!でもジャスさんの言う通り、用事がないならおいでよ」


相変わらずの軽口でじゃれ合う二人。

そこにいるのは世界を救った勇者ではなく、ジャスの友人であるリオンという一人の華奢な男性だった。

サーナはガバっと二人に向かって頭を下げると、


「ではお言葉に甘えて私も一緒に行かせてください!」


と満面の笑みでおねだりをしたのであった。

それに対しリオンが「喜んで」と答えると、ジャスは今発生した問題点を口にした。


「じゃあ最後の一人を誰にするかだよな。誰か心当たり・・・」


その瞬間、店のドアが唐突に大きな音をたてて開かれた。

3人が驚きながら店の出入り口の方を見ると、そこにはつば広の大きな魔女帽を被った小柄な少女が立っていた。

そして少女は勝ち気そうな大きなつり目で3人を見回すと、可愛らしい声で自信満々に言い放った。


「お困りのようだから助けてあげるわ!」


と。

勇者君たちの登場です。

ここから少し話が続きます。

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