第18話 お友達、います?
「私は家族で旅行に行くんですよーお土産期待しててくださいね」
「いいねぇ。俺は予定もないしゴロゴロ三昧かな」
6月最終日。
今日が終われば1年もようやく折り返しとなる日の夕方。
ジャスとサーナは店仕舞いの作業をしながら明日から始まる10日間の連休の話題で盛り上がっていた。
ティルムンドの暦は、1年を12の月で分けられている。
更に1つの月は4週、1つの週は7つの曜日からなり、曜日は「光」「闇」「火」「風」「土」「水」「無」というティルムンドの世界にある「属性」そのままとなっている。
一般的に、「光」「闇」の週の始めの2日間が休日扱いだが、ジャスの何でも屋は不定休での営業だ。
これは、依頼によって暦通りにいかないことも多々あるのでそれを踏まえての営業形態となっている。
余談になるが、それぞれの曜日の属性に神がいると教えているのが、勇者パーティの神官が所属しているティルムンド最大宗教の「七神教」である。
暦の話に戻るが、6月と7月の間に10日間の休息期間があり、12月と1月の間に14日間の休息期間がある。
1年の半分過ぎと1年の終わりに神様たちも休息をとられるということから、このような暦となっている。
年に2回のこの期間は神様がお休みのため、曜日という概念がなくなる特別な日程になっていた。
そして、冒頭の通り明日から10日間のお休み期間が始まるというわけだ。
「え~ゴロゴロして過ごすとか勿体なさ過ぎですよ?」
店の通り側の窓の施錠を確認し、カーテンを引く。
窓辺の植木たちは一旦中庭の方へお引っ越ししてもらう。
休みが開けたらまたお店を彩るために頑張ってもらうことになるだろう。
「おじさんになったらそんなもんさ。で、サーナちゃんはアルーマには明日から行くのかい?」
アルーマ。
王都ゼドラルから東へ馬車で1日のところにある温泉街である。
その町では様々な場所から温泉が湧いており、カリコ川の水を引き込むことでちょうど良い温度にしている。
元々、セドール王国には温泉という概念がなかったが、遥か東にある異国の文化を取り入れたところ、それが大当たり。
集団で1つの風呂に入るというこの国の人にとっては中々恥ずかしい思いをしなければならないが、温泉というのは「そういうもの」と受け入れられている。
「5日目出発で向こうに3日間、帰ってくるのは9日目ですね~。最終日は家でゆっくりします」
「後半にいくんだね。じゃあ前半は俺と一緒でゴロゴロですなぁ?」
「私は店長と違って家の掃除とか手伝いで忙しいんです~」
いーっと抗議するサーナ。
実際明日は母親と一緒に旅行に行くための服を見に行く予定だった。
父と弟はお留守番。
男連中と一緒に行くと早く帰りたいと駄々をコネだし、ゆっくり買い物ができないからと母親と決めていた。
「ローラ達もなんか予定があるみたいだし、暇なのは俺だけみたいだね」
先日休息日の予定を古代竜達に聞いたところ、シェロの誕生祝いを兼ねた顔見せのようなものがあるらしく10日間丸々留守にするとのことだ。
他の6人が顔を出せと煩いでのぅ。とは女王の言葉。
よくわからないが親戚みたいなものだろうか、とジャスは深く考えず「気を付けて」とだけ声をかけていた。
シェロがむすっとしていたのは言うまでもない。
「それならお友達と遊ぶとか。・・・あれ?そういえば店長・・・」
はた、と何かに気付いたのか少し気まずそうにジャスの方を見ると、
「お友達、います?」
と失礼なことを口にする。
聞かれたジャスも「いや、いるよ?」と言いつつも具体的に誰かの名前が浮かんできたわけではない。
仕事上の付き合いがある人はたくさんいるが、友人と言われると少し疑問符が浮かぶ。
最近であれば竜の彼が一番友人といえる間柄ではなかろうか。
「ダリウス、とか?」
「すっごく最近出来た友達ですね」
「いや、他にもいるよ。えっとね・・・」
え~と唸りながら天井の方へ視線を向けるジャスを見てなんだか可愛そうになってきたサーナはふと視線を店の入り口へ向ける。
何か、人の気配がしたような気がした彼女がそっと店の扉を開けると、そこにはフードを目深に被った華奢な雰囲気の人物が、まさに今、店の扉に手をかけようとしていたところであった。
その人物は急に扉を開けたサーナのことをキョトンと見つめていたかと思うと、にかっと花が咲くような笑顔で、
「こんにちは、あ~時間的にはこんばんは!かな」
と明るく挨拶をしてきた。
目元がフードで隠れているのに何故か怪しさを感じない不思議な人、というのがサーナがこの人物に抱いた第一印象であった。
「あ、こんばんは。どのようなご用件でしょうか?」
扉を開けようとしていたということは店の客であろうと、判断した彼女は目の前の人物に用件を尋ねる。
客人はその質問に「えっとね~」と呟きながらサーナの後方、店内を覗き込もうとつま先立ちになる。
無視された形になり、サーナは少しだけ語気を強めてもう一度同じ質問をする。
「どのようなご用件でしょうか?何も用事がないのなら今日はもう閉店の時間なのですが」
その言葉に焦ったように謎の人物は謝罪をしてくる。
「まってまって、ごめんね。人に会いに来たんだけどここで合ってるのか自信がなくって」
一瞬、ジャスと待ち合わせだろうか、という思いが頭をよぎったが先程の会話からそのような様子はなかったとサーナは判断。
ということは、アポなしで会いに来たのか、もしくは依頼か。
どちらにせよジャスに出てきてもらうしかない。
「どうしたのサーナちゃん、お客さん?」
等とサーナが考えていたら当の本人が店先に現れた。
それと同時に一陣の風が吹いた。
正確には、風のような速さでフードの人物がジャスの首に腕を回して抱きついてた。
「ジャスさん!会いたかったよ!」
「お前、もしかしてリオンか!」
顔が見えないが、いきなりこんな行動を取る、中性的な声の持ち主をジャスは一人しか知らない。
抱きついた勢いで、謎の人物のフードが外れ、爽やかな青い髪が風に揺れた。
フードの中の素顔を見て、サーナは思わず硬直し、絶句した。
最近色々とイレギュラーに慣れてきたと思ったが、まだまだ甘かったようだ。
目の前でジャスに抱きついている青髪の人物。
セドール王国で、いやこの世界、ティルムンドで知らない者は居ないと思われる彼は。
魔王討伐の第一人者。
勇者リオン、その人であった。
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