第17話 店長、私、死にます
前回からの続きになります。
サーナは落ち着きを取り戻すと先程の醜態を誤魔化すためにパンと手を胸の前で叩いて場を仕切り直す。
「さ、さて、ここまで手がかりがなかったことだし、調査方法を変えようと思います。誰か意見はありますか?」
まだ赤い顔で仮の親子の二人を見比べる。
実はジャスには猫を探す方法があった。
それは探知魔法を駆使し、建物の屋根から屋根へ移動するという彼単独でしか動けない方法のため、この場では提案をせずに動向を見守ることにした。
今日はシェロが手伝いたいと言っているのである。
彼女が行える調査方法でないと意味がない。
一日探してダメならその手法をとるつもりだが、今はその時ではなかった。
「はい、サーナ!聞き込みは人にしかしちゃダメなんですかっ?」
ぴっと手をまっすぐに挙げて隊長に質問をするシェロ隊員。
まだその設定は生きていたらしい。
一方のサーナ隊長は質問の意味がわからずジャスの方を窺うが、同じく意味がわからなかったジャスも首をかしげていた。
自分の言葉が伝わっていないと理解したシェロは具体的な方法を二人に告げる。
「その辺にいる猫さんに白い猫さんを見なかったか聞いてみるね」
言葉が終わるや否や通りから外れ、路地裏の方へ駆け出していく。
置いていかれる形になった二人が慌てて彼女の後を追うと、路地裏に入ってすぐのところで屈んでいるシェロの姿があった。
その彼女の足元には腹を見せ服従のポーズを取っている1匹のトラ柄の野良猫が情けない声でふにゃぁと鳴いていた。
「あ、あれ?その野良猫って結構気性が荒いって有名な子なのに」
シェロの足元の野良猫は、この周辺の住民からすぐに食べ物を奪って逃げていくことで有名な猫で、捕まえようとしたら容赦なく噛むし、遠慮なく引っ掻いてくる乱暴者であった。
それが今は幼女の下で借りてきた猫よりも更に大人しく情けない姿をさらしていた。
「やっぱり野生の動物はすごいね。シェロが絶対に敵わないドラゴンってすぐ見抜くんだな」
「あぁなるほど、だからですか。ところでシェロちゃんここからどうするの?」
腹を見せている野良猫の腹部を楽しそうに軽くつついているシェロに問う。
猫の方は楽しいどころか小刻みに震えていたが。
「だからね、直接聞くの」
「え?それってどういう・・・」
サーナが疑問を完全に口にする前に答えが目の前に広がった。
「にゃぁ、にゃーにゃーぁ、にゃぁにゃにゃにゃああにゃあ?」
「にゃ?にゃーにゃにゃみゃあおにゃぁ」
「「!?」」
突然のシェロと猫による猫語の会話に絶句する二人。
適当に話しているわけではなく、どうも本当に意思疏通が取れているらしく、時々ふんふんとシェロは頷いていた。
「て、店長?」
「なに?」
ゆっくりと振り返るサーナの鼻から赤い一筋が流れ落ちた。
何処からどう見ても鼻血である。
「猫語をしゃべるシェロちゃんとかヤバくないですか!?というか天使ですよ!猫天使ですよ!あ、これだめだ。さっきよりダメだ」
真っ赤になった顔に手を当てふらりとよろめく彼女をジャスは慌てて抱き止める。
そんな普段なら思考停止するような事態にも動じず、ふらりとシェロの方に近付くと、
「ほら、これをつけてもう一回猫さんと会話してみて?」
サーナが何かゴソゴソといじった後にその場を離れるとシェロの頭には白くてもふもふの大きな猫耳が生えていた。
頭に猫耳カチューシャを勝手につけられて一瞬不思議そうな顔をしていたシェロだったが、気を取り直して再びトラネコと話し始める。
「にゃぁあ?にゃにゃなあぁにゃーにゃんにゃ?」
「ふっぐぅぅ・・・店長、私、死にます」
「いやいやいやいや!確かにメチャクチャ可愛いけど、ちゃんと生きてよ!というか猫耳は何処から出したの!?」
腕の中で鼻血を垂らして目をつむるサーナを焦ったように揺する。
その表情は安らかで穏やかな、幸せ一杯のそれであった。
鼻血以外は。
そこに猫との会話が終わった猫耳シェロが不機嫌な顔で戻ってきた。
「サーナもパパもうるさいにゃ!ちゃんと真面目にして!」
微妙に猫語が戻らないまま不平をのべるが、今のサーナにはそれは逆効果。
「うへへ」と気持ち悪い笑みを浮かべながらジャスの腕の中で気を失ってしまった。
その安らかな寝顔(鼻血付)に大きなため息をついて、ジャスはシェロに尋ねる。
「結構長い時間話してたみたいだけど、その野良猫は迷い猫の情報を何か持ってたのか?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに小さな胸をえへんと張るとシェロは得意気に、
「情報どころかミーちゃんの居る場所も知ってるって!しかもすぐそこだって!」
そう言って野良猫と一緒に路地裏へと駆け出していく。
「あ、ちょっと待てって!なぁサーナちゃん起きろって!あーもう!おい!シェロ待て!」
腕の中で相変わらず幸せそうな顔をして眠る看板娘を背中に背負い直し、急いで後を追う。
その背中で「うふふ、役得」と呟く声はジャスには届かなかった。
その後、5分ほど路地裏を進んだ先の薄暗い行き止まりで怯えるように小さくなっていた白猫をシェロが保護。
突然現れた人影に怯えて逃げようとした白猫であったが、シェロの姿を見た途端にその場から動けなくなり、いとも簡単に捕まえられることとなった。
結局、蓋を開けてみればジャスもサーナも何の役にも立たず、最初から最後までシェロ一人で解決した依頼であった。
「はい、もう逃げられたらだめだよ?」
「ミーちゃん!よかったー!」
白猫のミーちゃんを捕まえたその足で依頼主の女の子の家に寄り、依頼を無事完了させる。
シェロの腕から返された白猫も嬉しそうに飼い主の小さな手をぺろぺろとなめ、まるで「心配かけてごめんなさい」と言っているかのようだった。
「おねーちゃんありがとう!これ、みつけてくれたお礼!わたしの宝物だよ!」
依頼主の女の子は白猫を抱いたまま、頭を飾っていた可愛らしいリボンを器用に外してシェロの手の上に置いた。
そしてシェロの顔をジーッと見つめると、にこっと満面の笑顔を輝かせた。
「大切にしてね!」
手の中のリボンと笑顔の女の子、そして安心したのが腕の中で丸くなっている白猫を交互に見たあと、シェロも負けないくらい満面の笑顔で、
「うん、大切にするね!」
と元気よく答えた。
この日からシェロの天使にような美しい髪に可愛いリボンが揺れることが多くなった。
その姿は母親達にも好評で、誉められる度に「パパの仕事で一番あたしが役に立ったんだよ!」と自慢話に花が咲くこととなるのであった。
余談だが、シェロの猫耳姿はローラルダにも多大なダメージ(鼻血)を与えることとなり、しばらく封印されたことをここに記しておく。




