第16話 聞き込みであります!隊長!
「あたし、パパのお手伝いする!」
カウンターに乗りぐいっと顔を近づけてそう宣言する子竜のシェロ。
その瞳は燃え上がり、覚悟の強さが見てとれるようだ。
ジャスは助けを求めるようにシェロの後方に控えるお団子頭の古代竜の方に視線を向ける。
ララミーナは視線に気付くと相変わらずの無表情で疑問に答える。
「お嬢様、貴方の仕事、手伝いたい」
「今それ本人から聞いたよな!」
抗議の言葉にララミーナは無表情のまま若干首をかしげて、
「それ以外、何か理由いる?」
「いる?」
竜の二人で逆に疑問を投げ掛けてきた。
「・・・いりません」
きらきらとした燃える瞳と、感情の読めない瞳に結局押しきられる形となる。
ジャスとしても別に嫌なわけではなく、どうして急にそんなことを言い出したのか気になった程度でしかなかったので特段問題はない。
お行儀悪くカウンターに上がってしまったシェロを、わかったわかったと床に下ろすと出掛ける準備にとりかかる。
店内を掃除していたサーナも掃除道具とエプロンを仕舞い、外行きの格好になり3人の元へやって来て確認をとる。
「今朝貰ったばかりの依頼に行くんですよね?」
「そういうこと。流石サーナちゃんよくわかってるね」
頭にかるく手をポンと置いて良くできましたとばかりにサーナを誉める。
誉められた彼女はジャスに見えないように口許をだらしなく緩め頬を赤く染めていたのであった。
その様子を冷めた目で見ていたララミーナの「あれが、たらし」という呟きは誰の耳にも届かなかった。
「パパ、その依頼ってどんなの?」
ジャスの袖口をくいくいと引っ張りながら依頼内容の確認をする。
好奇心の方が大きく勝っているが、手伝いとはいえ初仕事、少しだけ緊張した面持ちでジャスを見上げる。
「今回の依頼は逃げた猫探しだ。家で飼ってた猫が誤って逃げてしまったらしい。家から出たことがない猫だから何処かで迷子になっていると思うので見つけだしてほしい。とのことだ」
依頼主はシェロより少し小さい4、5歳くらいの女の子。
昨日一日探し回って見つからず、たまたま見かけたこの店に依頼を持ってきたというわけだ。
「じゃああたしもその猫さん探す!サーナも行こ!」
「よーし、じゃあ頑張って探そうね!」
おー!と気合いを入れる二人を横目にララミーナがぼそりと話しかける。
「でも、よかった。ダメなら、どうしようかと」
「ダメなわけないだろ。かわいい娘が頼ってくれてるんだ、これくらい・・・」
「ちがう」
言葉を遮り、ララミーナは不自然なほど整った顔をジャスの方に向け、
「仕事があって、よかった。いつも、ないから」
無表情で言われたその無慈悲な台詞に全く何の反論も出来ない店の主であった。
「では、捜査の基本は何かわかるかな?シェロ君!」
「はい!聞き込みであります!隊長!」
「ん~よろしい!シェロちゃんはかわいいなぁ」
「サーナくるしいよ」
店を出てすぐの場所で始まった二人の小芝居に苦笑しながらジャスは依頼について考え込む。
(猫が脱走したのが一昨日の昼。飼い猫が野良の環境で2日間無事でいられるかどうか、か。幸いなのはこの辺りはまだ野良猫が少ないってことだな)
猫はなわばり意識が強い生き物だ。
当然この辺りも野良猫がそれぞれのテリトリーを主張している。
そこにふらふらと見たことがない猫が現れたとしたら。
(怪我くらいなら治してやれるから、まぁ大丈夫でしょ)
「んじゃ、とりあえず聞き込みに行こうか。サーナちゃん、猫の特徴は?」
「はい、白くて長い毛並みの女の子で名前はミーちゃんです。性格は臆病な子らしいですよ」
サーナの言葉一つ一つにうんうんと頷きながらシェロは真剣に特徴を覚える。
といってもそんなに情報量はないのだが。
「ちゃんと覚えた。白い猫さんの聞き込みをして猫さんを見つける!」
「よーしじゃあ行こうー!」
再びおーっと片腕を天に突き上げ、楽しそうに歩き出す二人。
その後ろをやれやれと保護者のジャスが着いていく形で出発する。
ちなみにララミーナは留守番をするらしい。
シェロの護衛については、「王都内なら、ずっと探知してる。余裕」とのことである。
当然、普通は余裕ではない。というか出来ない。
規格外の彼女だからこそ出来る芸当である。
こうして3人の仕事が開始されたのであった。
捜索開始から2時間。
路地裏を覗いたり、通りかかる人に白猫の事を聞いて捜索していたのだが、今のところ有力な情報はない。
手に入った情報と言えば、
「あら?サーナちゃん今日は可愛らしい子と一緒なのね?」
「お!サーナちゃん!今日もかわいいね~いい肉が入荷されたんだけどどうだい?」
「サーナおねーちゃん!わたしとも遊んで~」
「よ、よぉサーナ。今日も元気そうじゃん」
等々。
聞き込みをするつもりが逆に相手から先に声をかけられること多数。
捜査が進行していない理由の一因となっていた。
(知ってはいたけど、ご近所の人気はすさまじいな)
依頼で街を一緒に歩くことはあっても、あまり店の周辺でご一緒することはなかったため、今回、改めてサーナの近所での評価を知ることになった。
中にはジャスの事を物凄い目で睨んでくる男連中が居たが、恐らく、いや確実にそういうことなのであろう、と納得する。
「う~ん見つからないどころか、情報もないね」
その彼女が難しい顔で腕組みをして唸る。
流石に2時間全くの成果なしというは予想していなかったのだろう。
「サーナが人気者ってことしかわからなかったね」
「ん~?そんなことないよ~シェロちゃんが可愛いからみんな気になったんだよ」
そんなことあるのだが、確かにそれも声をかけられた要因でもあった。
神秘的な雰囲気を持ち、現実離れをした容姿のシェロは、絵本や絵画の世界から飛び出してきた妖精や天使のようであり、彼女が通りを歩くとつい誰もが振り返えらずにはいられない、そんな空気を醸し出していた。
そしてやはりジャスが不審者として疑われているのか、睨まれてしまうのであった。
(ロロイ婆さんに誘拐を疑われたのは流石に堪えたけどな。そこそこ長い付き合いなのに薄情な婆さんだ)
知人の薬師の老婆から警ら隊に突き出されそうになったところを、慌てたサーナとシェロに止めてもらうという苦い記憶を思い出し眉を潜める。
(今度依頼があったら少し報酬を高くしてもらわんと気がすまないな)
そんなことを考えるが、いざその時になったら言い負かされるだけだということに思い当たり、情けなくため息をつく。
その姿をめざとく見つけたサーナが不機嫌そうにジャスの方へと寄っていく。
「こら、店長。最近ため息増えてますよ~?幸せが逃げちゃうから吸って吸って!」
すぅすぅと小刻みに息を吸い込み同じようにするよう求めてくるサーナ。
その様子をじぃと見ていたシェロがおもむろに口を開く。
「サーナがパパの幸せ吸ってるの?」
「そうだよ~このままだと店長の分の幸せは全部私が貰っちゃうかもね!」
にやりと笑い更に大きく息を吸い込むサーナにシェロが一言。
「それ、プロポーズ?」
「ぶぅぅ~~~!!げっほえっほえほげほ!」
限界まで吸い込まれていた空気を一気に吐き出す羽目になり、堪らずむせるサーナ。
その原因であるシェロは「サーナ汚い!」と目をつり上げながら彼女から距離をとるが、今はそれどころではなかった。
「さ、サーナちゃん、大丈夫か?」
体を丸め、胸をとんとんと叩きながら苦しんでいるサーナの背中を優しくさする。
当然それは今の彼女にとって逆効果になるのは明らかであった。
「だ、だ、だ、だい、大丈夫です!げほ・・・。大丈夫ですよ~えっへっへ、や、やだなぁ~もう!げっほげほ!シェロちゃんったら、ね、ねえ!店長!」
「いや、本当大丈夫?顔真っ赤だしすごい苦しそうなんだけど」
「ほ、本当大丈夫!うん、元気です!元気!」
ほらほら!とその場で跳び跳ねるサーナ。
言葉とは裏腹にジャスの顔を見ていると更に顔が熱くなっていくのが自分でもわかった。
サーナが落ち着くまでしばらく時間がかかったのは言うまでもない。
次回に続きます。




