第14話 ベッドに良い匂いがつくだろ
前回からの続きになります。
「ジャス、良いか?」
王都で作られたイチャイチャデートをしたその日の夜。
自室で本を読んで寛いでいたジャスに廊下から声がかかる。
何でも屋の2階にある4部屋の内、階段から一番遠い部屋がジャスの自室であり、他の3部屋は現在使用されていない。
といっても物置程度には利用はしているが。
「どうぞ」
応えると静かにローラルダが入室してきた。
彼女の格好はレースやリボンがあしらわれた彼女のイメージからすると可愛らしい寝巻き姿であった。
「夜分遅くにすまぬの」
「どうしたんだ?夜這いのひとつでもしに来たのか?」
後ろ手に扉を閉めるローラルダに意地の悪い笑みを浮かべながら問う。
その言葉にムっとした顔でベッドの上に腰を下ろしながら不平を口にする。
「それは初めて会うた時の意趣返しか?意地の悪い奴じゃ」
そのままベッドに背中から倒れる。
ローラルダの美しく長い髪が部屋の明かりでキラキラと輝きふわりとベッドに広がった。
「やめろ。ベッドに良い匂いがつくだろ」
「ふっふっふ。妾の高貴で優美で官能的な香りで悶々とするが良いわ」
不適な笑みを浮かべるとジャスのベッドの上を右へ左へと転がり回る。
その勢いで寝巻きが捲れて中々危険な状態になっていた。
しばらくゴロゴロと転がっていたローラルダだったが不意にぴたりと動きを止めると、
「ヒトの親というのは難しいのぅ」
と呟いた。
ジャスからは横になっている彼女の表情は見えない。
「本来、妾達古代竜の子というのは産まれてから数年は親以外と触れる機会がない。よって別の個体であるにも関わらず、思念が強く結ばれた、まさに一心同体のようになるのじゃ。元々自分の分身のようなものじゃからな。しかしシェロは違う。汝を最初に見たからか、汝の魔力の影響を受けたからか、産まれてすぐの内から我儘を言う。考えておることがわからぬ。これではまるで・・・」
しばしの沈黙。
「話に聞いたことのある人間の子のようじゃ。竜の子らしくない」
「それが不満、なのか?」
ジャスからの質問を受けて寝そべった格好のまま彼の方を向いたローラルダは優しげな穏やかな顔をしていた。
「何を言っておる。逆じゃ。本音でぶつかる我儘なシェロは竜の子らしくないかもしれん。しかし妾はそれが心地よい。何故かわかるか?」
わからない。
我儘は苦労させられるもので心地よいものとは程遠いものではないのか。
そう疑問に思いジャスは唸りながら1つの答えを口にする。
「心の距離が近い・・・から?」
「半分正解じゃ。汝にはルル達の距離感の話もしておったな。最近はアヤツらとも良い感じじゃ。礼を言うぞ」
「ルルエンティからも礼を言われたよ。で、もう半分は?」
部屋の棚の上に置いてある双子の妹から貰った対の短刀に目をやりながら尋ねる。
わからんのかとローラルダはベッドから身を起こすと椅子に座るジャスの前に立つ。
月の光を受けて何処か妖艶な雰囲気を纏う彼女にドキっと心臓が大きく脈打つ。
「汝の影響だからじゃ。他でもないジャスの影響だから妾は嬉しいのじゃ」
そう言って微笑むローラルダは今までで最も美しかった。
ジャスは早鐘のように鼓動する心臓をどうにか落ち着かせようとするが、残念ながらそれは全く上手くいかない。
「そ、それはどういう意味だ?」
「そんなこと決まっておるであろう?」
恥ずかしそうに視線を逸らす美女の姿からジャスは視線を外すことが出来ないでいた。
(え?これってまさか?ローラルダが、俺を?)
ついに春到来?
季節はそろそろ夏になりそうだけど春到来?
相手は異種族だけど、超美人。
これは、やっぱり春到来?
「汝は、妾の・・・」
あ、違うわこの流れ。
察しの良いジャスはローラルダの言葉が発せられるより先に悟った。
「妾の最高の友じゃからな!」
(ほーーらね!!そういうのだと思った!!)
「気に入った汝の影響で距離が近いとか最高じゃ!我儘?可愛いのじゃ!あの膨れっ面とか、我儘聞いてやったときの笑顔とか最高じゃ!ヒトの親というのは難しくも楽しいものよな!」
脱力し、「そっすね」と呟くジャスをパシパシと叩きながら親バカっぷりを発揮する。
さっきまでの物憂げな態度はこの高鳴る感情を一生懸命に抑えていたためであった。
流石に臣下の3人にこんなふにゃふにゃな親バカっぷりを見せることは出来ないのだろう。
「あ~汝に話をしたらすっきりした。これからも妾のシェロ話に付き合ってくれ。パパなのじゃしな?」
にししと笑うとローラルダはそのままベッドに飛び込むとごそごそと毛布の中に潜り込んでいく。
「ちょっと!何してんの!」
「うるさいのぅ、寝るに決まっておろうが」
毛布から顔を出さずに答え、もぞもぞと落ち着く体勢を探す彼女に慌てて駆け寄る。
「決まってねぇよ!帰れって!なんでここで寝る必要が・・・うわ!」
不用意に近付いたジャスの手を取ってベッドに引きずり込むとすかさず長い手足で絡み付く。
ジャスの全身を絹よりも肌触りが良く、例えがたい柔らかなものが包み込む。
同じ人間の肌の感触とは思えなかった。
そもそも人間ではないが。
「ほれほれ、妾が特別に同衾してやろう。光栄に思うが良いぞ」
「なんで間接キスであんなに真っ赤になるくせに同衾は大丈夫なんだよ!」
ジャスのもっともな質問に、ん~と考え込む声が耳元で聞こえた。
本人にもどうやらわからないらしい。
「まぁ細かいことは良いではないか。ほれ、寝るぞ」
ローラルダがぱちんと指を鳴らすと机の上のランプの火が消え、部屋は月明かりだけとなる。
「え?本当にこのまま?っておい!放せ!おい!おーい!全く身動き出来ん!生殺し過ぎるだろー!!」
ジャスが本気で暴れるがそんなことを全く気にせずローラルダは深い眠りへと落ちていく。
ここ数百年で最も心地好い寝入りかもしれない。
(コヤツと寝るのはあり、じゃな)
未だに暴れる腕の中の抱き枕に頬擦りしながら彼女の意識は途切れた。
それはそれは幸せそうな寝顔をして。
「パパ〜、お母さん知らない?」
翌朝の早い時間、シェロがジャスの部屋にひょっこりと顔を出した。
今朝目を覚ましたら神殿の何処にも母親の姿がなく、もしかしたらこっち来ているのでは、と思い訪ねてみたがどうやらそれは見事に大正解のようであった。
ジャスのベッドには笑顔で眠る母と苦しそうな顔で眠る父が仲睦まじく寄り添っているではないか。
そぉっとベッドに近付き二人の寝顔を間近で見るとシェロは笑顔で一言。
「もう、パパとお母さんはしょうがないんだから」
その台詞と表情は練習していたものと少し違っていたが、とても幸せそうだった。




