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ダンジョンマスターは現地で立ち尽くす  作者: 荒木空
世界(ダンジョン)創世記
6/19

やることなくて立ち尽くす


「待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って!!!??


え、え、え、え、えぇっ!!?

いやでも、えぇっ!!?」



 俺は脇目も降らず狼狽え取り乱す。こうやって内心、今の自分の状況を実況するかのように、他人行儀に自分について語ってるけど、正直理解が追い付いてないし、理解しようとしていない。


 だって……そうだろ!?俺以外生物が居ないなんて…。

俺を此処に送り込んだ自称神の確信犯の爺もそんな事は言ってなかった!言ってたのは……



「ちょっと君、君が居たところとは別の世界に行って、その世界の人柱になってちょ」

「世界の為にボロボロの牛乳臭いぼろ雑巾のようになるまで、向かった世界の人柱になって!というかなれ。うん今決めた。はい決定!」



 ………………………人柱って、まさか、こういうこと?

半不老不死の身となって、この世界の人柱として永遠にこの世界を見守って行け、と…?討伐されるまで見守り続けろと……?そういうことなの?


 ………………………。



「クソッタレェェエエエエエエエッ!!!!」


『!!?』


「ふざけんな!!ふざけんじゃねぇよ自称神の確信犯爺!!!!


この世界の人柱になれだ?こっちの質問に碌に答えず無理矢理送りやがって!!

それにモブキャラみたいな名前だと?!だったらモブキャラみたいな名前の奴に世界の人柱になれとか抜かすな!!!!


死んだ後の命だからって、なんでもして良い訳じゃないだろ!!

説明がめんどくさいからって、自分の都合を他人に押し付けてんじゃねぇよ!!!!


ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!!俺は物じゃねぇ!!俺はモブキャラでもねぇ!!俺は旧姓石泉太郎!現姓山田太郎だ!!モブキャラみたいな名前してるけどモブキャラじゃねぇ!!!!歴とした1人の人間、1人の俺という人間の物語の主人公だ!!!!俺という存在を蔑ろにしてんじゃねぇよ!!!!


第一、もし俺がモブキャラだったとして、そんなモブキャラが異世界で世界最初の生物だとか世界最初のダンジョンマスターとかしてる時点でモブキャラじゃねぇから!!!!」



 空に向かって叫びたいだけ叫んでやった。

俺の声が、あの自称神の確信犯爺に届いてようが届いてまいが関係なく、胸の内の鬱憤全てを空より遥か高見で今の俺を見ているかもしれない奴に向かって名一杯叫んだ。



「ハァ……、ハァ……、ハァ……、ハァ……、ハァ……、ハァ……。」


『お、落ち着かれましたか、マスター?』


「………………………ごめんダンジョンコアさん。いきなり叫んだりしたからビックリしたよね。ごめん。大丈夫だった?」


『あの、いえ、私は大丈夫なのですが、その……、マスターは……』


「……………気にしなくて良いよ。もう済んだ事だし、もうどうしようもない事だ。


それよりも大切なのはこれからの事。これからどうして行くかが大切じゃないかな?って思うんだけど、ダンジョンコアさんはどう思う?」


『あの、気にしなくて良いと言われましても……。


………。


そう、ですね。これからの事の方が大切ですね。

それでマスター、何か考えがお有りなのですか?』



 スッゴくダンジョンコアさんに心配されてるみたいだけど、触れない事にする。だって、触れたらまた色々話がややこしくなりそうだし。


 それより今は、本当に今後の事を話した方が現実的だ。



「うん。取り敢えずこの世界が俺とダンジョンコアさんの物だということはわかった」


『……………………はい?』


「だって俺達以外何も存在しないんでしょ?だったらこの世界は俺達の物って事と同義じゃない?」


『……………その発想は些か無理が有るかと思いますが…』


「いや、だからさ、現状この世界は俺達以外何も存在してない。つまり領域を拡がし放題って事でしょ?」


『……確かに見方によればそう言えなくもないですが…』


「だからさ、他の生物が生まれる前に、この世界の全てを俺達の領域にするんだよ」


『!?』


「そしたらLP問題も長い目で見れば解決するし、適当にダンジョンらしい構造物を作ったり、セーフエリアとして大きなエリアを確保しとけばいずれ国とかが出来ると思うんだよね。そうすればより一層LPが手に入る。


何より、そうやってダンジョンらしい構造物をいくつも作ったり、この世界全部を俺達のダンジョンの領域にしておけば、万が一ダンジョンコアさんが壊されそうになった時、さっさと逃げられるでしょ?何処でも、好きな所に。


だからさ、今の内にこの世界を完全に俺達の物にしてしまおうと思うんだけど、どうかな?」



 俺の提案が荒唐無稽過ぎたのか、ダンジョンコアさんからの返事はしばらくなかった。

 でも俺、この計画って結構理に適ってると思うんだよな……。


 ダンジョン内に普通の生物は湧かないとか自然発生しないとか、そういう知識は前世でも有ったけど、それって結局生物が生まれるだけの長い時間を確保出来てないって事じゃないの?って思うんだよね。


 それに何より、最悪このまま本当に生物が生まれないなら、セーフエリアにしようと思ってるエリアを増やして、ソコの領域を手放せば良いと思うんだよね。

まだ手放せるかはわかんないけど。


 そうやって、世界一のダンジョンを作り上げれば、俺の安全も確保出来るし、ダンジョンコアさんの"新世界の神"発言も有言実行出来そうだし、うん。悪くないんじゃないかなこの計画。


 何より最初は領域を拡げるだけで良くて、その邪魔をする存在なんて居ないんだから、LPを手に入れては領域拡大に全部使えばその内文字通りこの世界が手に入る。


 何より、あの自称神の確信犯爺の言う通りにするのは癪だけど、しっかりと人柱としての役割も正確に担える。我ながら完璧な計画じゃん!!


 …………………でもまずは、ダンジョンコアさんの意見を聞いてからかな。


 俺がそんな事を考えている内にダンジョンコアさんも整理がついたのか、俺に話し掛けてきた。



『マスターの提案はマスターにしては珍しくとても理に適っています。ですがいくつか問題が御座います。


手に入れたLPを全て領域の拡大に使うのはよろしいのですが、それが終わるまでの間、マスターや私は何をしていれば良いのでしょうか?

出来る事が有るとは思いますが、ですがそれはマスターがダンジョン最奥のダンジョンボスとして君臨する場合の戦力増強程度にしかなりません。それではただ時間を無作為に失うばかりです。


同じくモンスター作成や宝作成のスキルを使ってダンジョン内に変化を持たせる事も出来ますが、その場合EXPが溜まり、ダンジョン運営の際に今の段階の内にしておかなければならない事を蔑ろにしてしまう可能性が有ります。


以上の事を考慮し一言で纏めますと、この世界の全てを領域にするまで"やることがない多大な無駄な時間"が出来ます。

その事についてマスターは何か考えがお有りなのでしょうか?』



 ………流石ダンジョンコアさんかな。すぐに問題点を出してくれる。


 でも、確かに時間は膨大に掛かるだろうから、それだけの時間が余ってしまう。何か他にすることが有っても、結局は目の前の時間の問題が全部を無意味にしてしまう可能性が有る。


 そう考えるとあんまり俺の計画は賢い計画とは言い難いと思う。


 でもさ、



「俺やダンジョンコアさんの安全には替えられないんじゃない?もし俺の計画が失敗して、此処がただの俺達の箱庭になったのならその時に問題が出てくるけど、箱庭にならずちゃんと生物が生まれる可能性だって有るんじゃないかな。


だから俺は、この方法を試してみたい。

生物が生まれなければ最悪、それぞれの環境を整えてからソコを手放して、生物が生まれてからまた手に入れれば良いだけだしやりようはいくらでも有りそうじゃない?」



 ハッキリ言って、もう俺にはこの世界を全部俺達の領域にすることしか考えてない。


 勿論この世界を思い通りに出来るぐらい好きに出来る環境になったからっていうのも有るけど、何より流石のあの自称神の確信犯爺も世界全部をダンジョンにするとは思ってないだろうって打算が有る。

意趣返しというかね。


 少なくとも、世界の3分の2は必ず領域にする。後の事はそれからで良いでしょ。



「ねぇダンジョンコアさん、良いでしょ?実際何をするにしても時間は掛かるし、LPも掛かる。やることなんてそれこそ沢山有ると思う。


だったら出来ることの最大をやった方が良くない?」



 俺がそう問い掛けても尚も悩むように唸り声をあげるダンジョンコアさん。


 ………何がそんなに駄目なの?



「ねぇダンジョンコアさん。何が駄目でそんな悩んでるの?」



 だから直接聞いてみる事にした。



『……………マスター。現在マスターは、これまでのマスターとは全く違う、とても攻撃的と言える発言をしている自覚は有りますか?


現在のマスターの発言は完全に暴君のソレとなっています。

マスターの仰る通り、現在のこの世界の事を考えれば強欲で傲慢にやりたい放題したくなる気持ちも理解出来るものだと思います。そしてそれ等の感情を形成しているのは、マスター曰くの"自称神の確信犯爺"という方への怒りが原因なのだと考えられます。


ですがマスター、冷静になってよく考えてください。

本当に現在のマスターの状態でその決定をしてしまってよろしいのでしょうか?案としては賛成しますしとても良いと思います。ですが今のマスターの状態で決行するのは私は反対です』


「……………そんなに今の俺っておかしい?」


『少なくともマスターにこの世界の状況を説明する前と比べれば』


「………そっか」



 結構酷いことを言われた。

 そんなに今の俺は、知る前と比べておかしいの?


 ……………まぁ、確かにちょっと、何でも出来ると思って普段なら絶対に言わないような事を言ったり考えたりはしてるよ。その自覚は有る。

でもさ、それだけの環境が揃ってて、尚且つ理不尽な状況だったと知ったら、少なからず怒りを覚えて当たり散らしたくならない?発散したくならない?


 俺は別に、暴力に訴えるだとか人の物を奪うだとか、そういう事はしてない訳じゃん。あくまで"誰の物でもない物を自分の物にしよう"って言ってるだけじゃん。それが駄目なの?



「……ダンジョンコアさん、納得出来ない」


『…………………そうですか。では少しの間、其所で頭を冷やしてください。冷えるまでは一応、世界の半分ほどまでは全LPを消費して領域の拡大をし続けますので』



 ダンジョンコアさんにそんな事を言われて、思わず反論しようとした。


 でも何故か、口は動かないし、体も動かなくなった。

動くのは目だけ。



 …………ダンジョンコアさん、俺に何をした?



『そんなに睨まないでください。

…既にご自身の異常に気付かれたかと思いますのでご説明いたします。


現在、マスターは私の空間属性魔法の力で、マスターの周りの空間を固定し動けなくなっていただいています。


その状態から解放されるには、私の空間属性魔法スキルのレベルより上になっていただくか、私自らが解除するしか方法はありません。


……敢えて私の空間属性魔法のスキルレベルをお教えします。

私の空間属性魔法のスキルレベルは最高レベルです。ですので私が解除する以外にその状態から解放される事がないことをまずはご理解ください。


これを踏まえて解放条件をお教えします。

解放条件はただ1つ。私がこれまで見てきたマスターの眼と同じ眼になり、その上私がマスターが冷静になったと判断出来た場合のみ解放します。


………最初の内は、私への怒りを覚えるかもしれません。ですが、今のマスターは明らかに暴走気味です。

反省しろだなんて言いません。考えを改めろとも言いません。言いませんが、頭だけは冷やして冷静になってください。


現在のマスターには、クールダウンの時間が必要不可欠です』



 要らないお世話過ぎるだろ。そんなことは良いからさっさと俺を解放しろ。


 思わずそう思ってしまった。

その事に気付ける所に俺がまだ居れた事は、俺にとってとても良かった事だと思う。


 明らかに普段の俺ならダンジョンコアさんに対して考えない事だった。

いやまぁ、苗字が山田になってからは母親に対して色々思う事とか有って、全くダンジョンコアさんに対して思った事を思わなかったかと聞かれるとそんなことは絶対無いんだけど。

それに、ダンジョンコアさんとの心の距離が縮まったから普通に言えるようになったと言われれば、そうかもしれないんだけど。

でも、それにしたっていきなり過ぎるし、明らかに普段の俺なら思わない思考だった。


するとすれば、イライラしていたり、少し天狗になってる時ぐらい。


 こうやって自己分析して、今の自分がおかしいって事を自覚出来たのは本当に良かった。

確かにダンジョンコアさんの言う通り、今の俺は冷静じゃないな。

うん。ダンジョンコアさんの言う通り、少し頭冷やすか。



 ……………って言ってもなぁ…。正直、自己分析して自分の状態を自覚出来たから、ある意味もう冷静になったんだよなぁ……。でも流石に此処で"確かにおかしかった"とか言っても、解放されるためだけの嘘だと取られる可能性も有るし……。


ていうか喋れないか。


 うーん、じゃあ、ダンジョンコアさんから何かアクションがあるまで俺はこのままって訳なんだけど、どうしよっか?

体を動かせたらまだ、色々やれたんだろうけどなぁ……。



 ……………取り敢えずダンジョンコアさんからアクションがあるまで大人しくしてるかな。

時間を有効活用したいから魔法の練習でもしたいけど、体がしっかり動くときにやらないとなんだか恐いし、何より体が動くときにやりたいし。



 そこまで考えて、考えても仕方ないと思って、俺は立ったまま固定された体から力を抜いてぼぉーっとすることにした。



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