LP問題で立ち尽くす
『マスター……』
消え去りそうなか細い声でダンジョンコアさんが俺を呼ぶ。
「なに?」
『見ていただいたらわかるかと思いますが、私のレベルが上がりました……』
言われてみると、確かに最初見た指で摘まむ小石程度だったサイズが片手に収まるぐらいまで大きくなっていた。
「おぉ!確かに!おめでとうダンジョンコアさん!これで安心安全へ一歩近付けたな!!」
『……………はい……』
せっかく成長出来たのにダンジョンコアさんに元気が無い。
あー、やっぱり俺のせいかな?なんだかんだダンジョンコアさんを本気で心配させてみたいだったし……。
これから一生を共にするパートナーなんだから、ここはしっかり謝っておいた方が良いよな……。
「ダンジョンコアさんごめんな。俺のせいでかなり心配掛けちゃったみたいで」
『…………………』
「でも俺、ダンジョンコアさんには結構感謝してるんだ。
ダンジョンコアさんがあの方法を思い付いてくれてなければ、俺はまだこの世界の事を何1つわかってなかっただろうし、覚悟も出来てなかったと思う。
まぁ死に続けるのは半分自棄だったけどね。
これから俺達は一緒に居るんだからさ、良かったら機嫌を直してくれると嬉しいかな。じゃないと、俺も気不味い」
謝る時って素直に気持ちを伝えるのが1番だって思う。ここで変な意地を張ったり、照れ隠しなんかしたらより関係が拗れたりするからな。まぁ互いが互いの事をわかってたら別だけど。
でも今回は会って間もない事もあるし、素直に謝って気持ちを伝えてみた。
俺に謝られたダンジョンコアさんはというと、なんだか藍色の光を放ってから薄ピンクに光って、
『しょ、しょうがないマスターですね。謝るなら最初からしないでいただきたいですが今回は不問とします。
その代わり!2度とこの方法を使わないと本当に誓ってくださいね!!』
なんて少し嬉しそうに言うもんだから、成功したように思う。
「機嫌が直ったみたいで良かったよダンジョンコアさん。
じゃあダンジョンコアさん、ダンジョンコアさんや俺がダンジョンコアさんのレベルアップで出来るようになったことを教えてよ」
仲直りも出来たし、ようやく次のステップだ!
『わかりました。では無知なマスターの為にお話させていただきます!』
機嫌良さそうにダンジョンコアさんが返事をしてくれた。
良かった。仲直りは成功したみたいだ。
………機嫌直ったって判断するのが、悪口の切れ味っていうのが問題だけど…。
『まずレベルアップ前の初期レベルで出来た事をご説明いたします。
初期時にダンジョンマスターに出来た事は主に5つです。
モンスターを召喚すること。宝物を設置すること。LPを使うこと。ダンジョンコアからダンジョンに関する基本的な情報を聞くこと。ダンジョンコアのレベルを上げることです。
マスターはこれ等全てを行い、一定以上のEXPを溜めたので次の段階へ進むことが出来るようになりました。
その次の段階へ進む条件が私のレベルアップです』
「その言い方だと、もし俺がレベルアップ前に出来たことを1つでも出来てなければレベルアップしなかったってことかな?」
『マスターにしては勘が冴えてますね。Exactly. その通りでございます』
……ゲーム的考え方をするなら、ダンジョンコアのレベルアップがチュートリアルって感じだったのかな?
求められている内容が十中八九どんな人でも聞いたりやったりしそうな事だし。
ってなると、此処からが本番ってことか……。
あれだけ死んで、死ぬ恐怖を味わったのにあれが前段階だったなんて、正直今すぐ出来ることなら日本に帰りたくなってきた……。
『話を続けます。ダンジョンコアがレベルアップするとダンジョンコアとダンジョンマスターの出来ることが増えます。
ダンジョンコアは龍脈からLPの回収を、ダンジョンマスターは物の製作が出来るようになります。』
「物の製作?」
『Exactly. その通りでございます。この物の製作というのはダンジョンマスターが作ったことのない物は作ることが出来ません。ダンジョンマスターが過去に作ったことのある物の材料をLPを消費することで用意し、ダンジョンマスターが用意した物に触れることで物の製作が出来ます』
「触れるだけ?」
『正確にはダンジョンマスターの保有する魔力を消費することになりますが、そう言っても差し支えはありません。
ですがマスターの場合魔力は皆無と呼べるほど少ないので、この力を使うことは非常に難しいと考えられます』
「……それじゃあその機能は使えないって事だね?」
『誰もそんな事は言っていませんよね?マスターの耳は詰まっているのですか?私はあくまでも"非常に難しい"と言いましたよね?使える事は使えますよ。LPを消費する事でですが』
……それは使えないのと一緒じゃないか?
『"同じじゃないか"とお考えですねマスター。全く別なので醜態を晒す勢いで悦んでください。
まぁ、その詳しい話は今は止めておきます。1度に説明してもマスターの小さい脳では1割も理解出来る筈がないですから。
次に私の話をします。
私の龍脈からのLPの回収は説明不要かと思いますので結論だけ話します。
マスター、現時点では少量ですがLPの定量定期獲得が出来るようになりました。腸をぶち撒ける勢いでお喜びください』
ダンジョンコアさんの暴言の数々はともかく、LPがただで手に入るようになったのは嬉しいな。詳しい説明はされてないけど、要するに龍脈って大きなエネルギー源からLPを一定量を定期的に手に入るようになったって事だろ?
ならもう、俺はあんな何度も死ぬような経験も恐怖もしなくて良いって事だ!!そう考えるだけでレベルアップしといて良かったと本当に思う。
……………じゃあ早速、色々試してみるか!
えっと、確か作ったことのある物だけなんだよな?
……………ショボいかもだけど、昔子供の頃に作った割箸鉄砲でも作ってみるか…。
用意するものは割箸と輪ゴム。
「良し!割箸と輪ゴム、出てこい!!」
男なら少なからず狡いとも言える強い力が使えるとなったら使ってみたいもんだよな!
俺は両腕を上げ、万歳状態で目の前に割箸と輪ゴムが出て来るのを待つ。
しかし5分、10分と待ってみるが、一向に現れる気配がない。
「あれ?」
何故現れないのか頭の中で四苦八苦していると、横からこの短期間に散々聞き慣れてしまったダンジョンコアさんの声が耳に届く。
『マスター、現在のマスターの位置から地下110メートルの辺りに【その他:割箸】?と【その他:輪ゴム】?が出現しました。そして地中の圧に耐えきれず、【その他:割箸】が壊れました】
「……………ダンジョンコアさん、もう1回割箸を今度は俺の目の前に出してくれないかな?ついでに輪ゴムもお願い」
『LPの無駄ではと進言させていただきます』
「いや、あのさ、俺が作った事のあるもので、尚且つ武器っぽい物だったら異世界であることで特別な効果が……」
『億が一にもそんなことはあり得ません。マスターが作れる物は正真正銘マスターの知る物と同じです』
「…………………」
俺の儚い希望(願い)は散り、ダンジョンコアさんに現実を叩き付けられた。
いや、そりゃさぁ、そりゃあれだけゴミを引き当てたような俺だからその可能性は考えてはいたけどさ…、ちょっとぐらい夢を見させてくれても良かったんじゃない?
触れるって行程があるけど、実質的な想像を創造なんて事が出来るかもしれなかったんだよ?そりゃ夢くらい見たいよ…。叶えたいよ………。
『……………なにやらマスターが憐れなので、次の説明へと移らせていただきます』
………俺の様子を見て空気を読んでくれたのかな?
でもダンジョンコアさん、今はその優しさが辛いです……。
『返事が無いですがお話しさせていただきます。
次の話というのはLPの事です。
現在のLP量はレベルアップによる特典で20200です。このLP、現在はマスターの無意味な行動のせいでこれだけですが、元々は25000ほどの余裕が有りました。同時に現時点でのマスターや私が自由に使えるLP量でもございます。ですのであまり無駄遣いはしないでいただきたいです。死にたいのなら別ですが』
言葉に棘が有るけど……、要するに現時点でのLPは20200あるわけね。そしてLPは俺とダンジョンコアさんの共有財産と……。
「じゃあ現時点ではどうやったらLPを増やすことが出来るの?それと次のダンジョンコアさんのレベルアップに必要なEXPってどのくらいなの?」
『人の話を聞いてから口を開いてください早漏マスター。ちゃんと話せる部分は話しますので』
「ダンジョンコアさんは別に人じゃないし俺は早漏とか言われるような事してないんだけど!?どっから出て来たそのセクハラ発言!!ダンジョンコアさん、急に成長してませたんですか!!?」
『揚げ足を取らないでください。それにませてもいませんし、私のマスターに関する基本情報の中に、マスターは早漏だと記録しておいたのでそう申し上げました』
「なんだよその基本情報!しかも記録しておいたって!!
悪意100%じゃん!ダンジョンコアさん、ホント俺を苛めるのが好きだね!!」
『マスターが魅力的なのが悪いと申し上げます』
「どういう意味で魅力的なの?!そこハッキリして!!?」
『マスターがうるさく、いちいちツッコミを入れられると話が進まなそうなのでこのまま無視して話させていただきます』
「せめてツッコミぐらいさせてくれよダンジョンコア」
『続きを話します。
まずマスターのご質問である現時点でのLPの増やし方についてお話しします。
現時点でのLPの増やし方は複数有ります。まず領域内に侵入した生物から漏れ出すLPを吸収すること。それとその生物を殺す事です。マスターが召喚したモンスターでもLPへと還元出来ますが、召喚に使用したLPの10分の1しか回収されないのでこの策は効果的とは言えません。そして生物についてですが、この荒野には現在生物が存在しませんので、領域内の生物からの回収は不可能でございます。
他にも方法はございますが、現時点ではその情報の開示が出来ないのと現状では効果的とは言えない方法なので、龍脈からの回収以外は有効とは言えません。
次のレベルアップに必要なEXP量についてですが、これについては情報の開示が出来ません。ですが少なくとも、初期レベルアップの為に獲得したEXP以上は必要だと申し上げておきます』
話している途中に遮る形でダンジョンコアさんに説明されて、俺の中でモヤモヤとしたものが胸に残る。
ホント容赦なく無視してくれたねダンジョンコアさん…。
それにしても、そうか…。龍脈からの回収以外、現時点では良いLP回収方法は無いのか……。それに俺の作った事のある物しか作れなくて、材料も出せないんだよな……。
俺が今までに作った事のあるものってなんだっけ……?
割箸鉄砲だろ?それに小学校の授業で作った和紙や木のキーホルダー。それと…あぁ、確か鑢や彫刻刀なんかで木のナイフを作ったな。布ぐらいまでならなんとか裂けるやつ。それから……あとはティッシュの空箱なんかで作った自作のロボットとかか?
こうやって思い出してみると、俺ってあんまり役に立つの作ってなかったんだな。もう少し色々作ってれば良かった……。
この中でマトモに使えそうなのは……木のナイフぐらいか?
……いや、今さっきダンジョンコアさんに説教されたばっかりだったな。1度相談でもしてみるか。
「ダンジョンコアさん、ちょっと相談が有るんだけど良いかな?」
『急になんですかマスター。まさか私の声に欲情したとか言い出さないでくださいよ?気持ち悪いとかの次元ではなく、普通にドン引きしますので』
「妄想逞しいねダンジョンコアさん。心配しなくてもそんな"絶対にあり得ないこと"じゃなくて、俺の武器に関する話だよ」
『………武器のこと…ですか?……………マスター?!まさか武器を作った事が有ったのですか!!?』
うん。俺の話に合いの手を入れてくれるのは素直に嬉しいけど、言ってる事がちょっと頭おかしい。釘を刺す意味も込めて、"絶対にあり得ないこと"の部分を強調して言ってみて良かった。おかしな合いの手が1回で無くなった。
あ、でも、なんだか嬉しそうな声で武器を作った事が有るとか驚きながら聞かれると、罪悪感を覚えるな……。
無能なマスターでごめんなさい……。
「あ、いや、そうじゃないんだけど……、昔木で出来た、紙を切るようのナイフを作った事が有るんだ。モンスターとか相手には意味を為さないかもしれないけど、無いよりかはマシかなって思って。
それを作ってみたいんだけど、ほら。さっきLPを無駄遣いしないようにってダンジョンコアさん、俺に注意したじゃん?だから作った方が良いのか、作ってみて良いのか相談したくって」
『……なるほどそういうことでしたか…。
私としましてはマスターの仰ったように、やはり無いよりかはマシ程度でもマスターには身を守る為の物を持っていていただきたいので、作成には賛成します。
ただ、やはりLPの問題がございますので、その辺を考慮して他に方法がないかなども考えていただきたいです』
他の方法ねぇ……。
「じゃあ、此処から1番近い木の生えてる所が何処だかわかる?」
『お答えすることは出来ません。ダンジョンコア及びダンジョンマスターは基本的に外の情報を掴む事は、ダンジョン内に侵入した知的生命体からしか入手出来ません。
知的生命体のモンスターを召喚するのも手では有りますが、LPが膨大になりますのでオススメすることは出来ません』
「そっか……」
あー、木の場所さえわかれば、その木を伐採して、そこから木の枝とかでも良いから武器にしようと思ったんだけどな……。そんなに甘くはないか。
それから、あれやこれやと案を出してはダンジョンコアさんに相談し、否定されては次を考える。否定されなければ取り敢えず案の1つとして保留という形をとって、現在の状況からどうすれば良いかをダンジョンコアさんと話し合った。
こういうの、確かブレインストーミングって言うんだっけか?いや、アレは集団だった筈だからこの場合違うのかな?
閑話休題
さて、そんな事はさておき、出た案で現実的に実現可能な物をダンジョンコアさんと詰めて行った結果、やはり現実問題として、圧倒的にLPが足りないという結論になった。
何をするにしてもそれを行うためのエネルギー源が乏しい状況は一向に変わらず、またダンジョンの領域も狭ければ俺の身を隠すような場所もない。
ダンジョンマスターである俺が何かを作れればまた少し状況が変わるのだろうけど、一介の高校生の作れる物など高が知れている。材料が有ってもそれを加工するには魔力かLPが必要だけど、その両方ともが俺には無い。
本当に為す術の無い現状に、俺は最終的に頭の中が真っ白となり、ダンジョンコアさんを抱き抱えながらその場で立ち尽くした。




