第26話
今日は王の間ではなく、豪華な大会議室の立派で大きなテーブルに着席して会談を行った。
この日の為に作った手作りクッキーを持参したところ、王は毒見をさせずに躊躇なく食べた直後に目を大きく見開いたので側近達は腰を浮かしかけたが、これ程美味しい焼き菓子を食べたのは初めてだと言ってとても喜んだ様子だった。
もちろん私も私の付き人であるジャンヌ達も皆の前で食べて見せて、いつものトウモロコシクッキーも美味しいが、小麦で焼いたクッキーもとても美味しいと言って喜んでくれた。
「ホウ、トウモロコシクッキーというのもあるのですな?」
「はい、我等の大地には小麦がないので、その代わりに自然に群生しているトウモロコシを使って焼き菓子などを作っています」
「なるほど……、新生魔王陛下は交易をしたいとの事ですが、それには小麦も含まれるということですな」
「はい、こちらからは肉や毛皮や丈夫な糸などを提供出来ます、他にも色々と貴国に気に入っていただけるものがあれば良いと考えています」
「なるほど、しかし正直打ち明けますと我が国は他国と比べてそれ程良質な小麦はないのです」
ここで正直に打ち明けてくれる王に対して私は好感が持てた。
「我が大地はイモやカボチャは多くとれるのですが、小麦はそれらに比べると多くなく味も東の隣国に比べると落ちます」
「そうでしたか……、ではライ麦を育ててみてはどうでしょうか?」
「ライ麦……、ですか?」
「はい、ライ麦は質が低い土壌や厳しい自然環境でも育ちます、それとこちらで収穫したイモとカボチャを是非見てみたいです」
早速王は側近の顔を見て、側近は席を立って別の者に料理長に言ってイモとカボチャを持って来させるように指示した。
そうして料理長が持参してきたのは、かなり期待出来るジャガイモとカボチャだった。
「コレはいいイモとカボチャです! 出来れば今日この後これらを使って料理を作りたいと思うのですがよろしいでしょうか!?」
「おお!なんと! 本当に魔王陛下は御自ら料理をなされるのですね!」
「はい、まぁ趣味というか私の唯一の楽しみなのです」
「ホウ! アルカンからお聞きしました、魔王陛下がお作りになられる料理は絶品で、王室料理人にも勝る腕前だと!」
「いやぁ……、恐縮です」
「これは今宵の夕食会がとても楽しみです!」
「期待に応えられるよう努力致します」
その後、今回の救援に関しての正式な感謝表明をもらったが、物質的な謝礼に関しては現在この国が置かれている厳しい状況では今すぐに渡せるものがないと、かなり申し訳なさそうな表情で王達は頭を下げた。
「頭をお上げ下さい、私が今最も欲しているのは信頼です、私達は皆さん方人間からの信頼を何よりも欲しています、信頼というのは我々だけでなく人間社会においてもとても大事で貴重なものであると私は考えています、そしてそれを得るためには並大抵の事では手に入りませんし、手に入れるには長い時間をかけて互いに築いていく必要があります」
「……、魔王陛下……」
「私達はこの先の未来の生き残りをかけて、それこそ命がけで皆さんからの信頼を得るために努力を惜しみません」
フェルペ王は立ち上がってテーブルの上に覆いかぶさるようにして背と手を伸ばしてきたので私も手を伸ばしたが、私はまだ身体が小さくて背と手を伸ばしても届かなかったので、一言失礼と言って飛行して王の元に行ってから握手をした。
その後、アルカン達の領地奪還を目指した打ち合わせが続き、王からも軍を派兵すると言ってくれたのだが、ジャンヌは十分勝算があるので我々だけで奪還してみせると力強く宣言した。
アルカン達の領地はここから西に100キロ程離れた場所にあり、途中に行く手を遮るような山々や大河や深い森などもなく行きやすい場所にあったが、逆に言えばそれだけ侵攻もされやすい場所でもあった。
その後私は厨房に行って今日の夕食を作る事にした、我々の拠点から運んできた食材に加えて、この土地で採れたジャガイモとカボチャがなかなかに良い物だったのでこれも使う事にしたが、ジャガイモは片栗粉を作る原材料にもなって、これがあると唐揚げなど色々な料理に使えて料理の幅が増えるので交易で沢山欲しいところだ。
かぼちゃについては早速濃厚なカボチャスープを作って前菜として出す事にし、ジャガイモもマッシュポテトにして他の野菜と燻製肉を少量加えたポテトサラダを作って前菜に出す事にした。
メインディッシュはマンモスの最上級部位のステーキだが、特製ソースには手作りソースに加えて手作りワインや最近敵野営地から手に入れたスパイスもブレンドしてなんとか私が勤務していたホテルのディナーで出せる最低限のラインまで持って行くことが出来た。
また、敵野営地から手に入れた硬パンを細かく砕いて粉にしたパン粉を作ったので、ナマズの肉やエビを使ったフライを作りタルタルソースを添えて出した。
王室料理人は私が作る数千年先を行く料理の数々に目を大きく見開いて驚き、試食してさらに驚いていた。
もちろんそれは王と側近達も同様で、カルチャーショックとジェネレーションギャップに言葉を失う程に驚いていたが、料理はそれこそ相手が人間じゃない限りどんな世界でも共通なので、美味しい物は例え異世界の数千年前の文明であろうとも人の心にダイレクトに届くものだった。
「私は生まれて初めて料理で言葉を失う程の衝撃を受けた、何と美味しい料理なのだ、見た目、食感、多種多様な複雑で芳醇な味、これはもう料理という域を遥かに超えている……、これはもう芸術だ」
「王の仰る通りです……、大変失礼な物言いではありますが、これを魔物の長である魔王陛下が御自らお作りになられたとは……」
「これは我等は考えを改めねばならんな」
「はい……、このような繊細で美しく美味な料理を作り出す新たな魔王陛下はこれまでとは全く異なる存在です、大変理知的で品のある人格です、私もこれまでの考えを改めます」
その後私も食卓につき、私は王室料理人が作るこの国の郷土料理を頂くことにした。
王室料理人はかなり恐縮していたが、それでもひとたびナイフを手に取るとさすが時代と世界は変われどプロの料理人、それも王室専属の料理人という事で、真剣に魂を込めて調理した。
出てきたのはカモに似た鶏の香草の包焼きで、丸ごと石窯で焼かれた鶏肉の腹の中には様々な野菜とスパイスが入っていて、表面の皮のパリッとした食感と腹の中に入っていた各種具材やスパイスの旨味がしみ込んだ柔らかい肉が現代でも十分通じる程に美味しいものだった。
また、ソラマメやエンドウに似た数種類の豆の添え物もとても美味しくて、こちらの黒糖で煮込んでみたらどんな味になるだろうなどと考え、これも交易で沢山手に入れたいと思った。
このように互いの料理という食の文化交流を行う事でかなり打ち解ける事が出来で、今は戦時下のため物資が乏しい状況ではあるが、いつか戦争が終結し平時が訪れた際は、交易を行おうと言ってくれた。また、あらかじめ通達してくれれば国内の移動も許可してもらえる事になった。
ジャンヌとしては想定以上に上々の結果を得られたという事で大いに満足し、無事会談を終えて拠点に戻るとすぐに第二段階の領地奪還作戦の立案に取り掛かった。




