第一章 【スーパーマーケット】チートと大間産マグロ無双
『主婦の買い物スキル』と追放された三男坊、実は氷魔法剣士の超一流
「ケント! 貴様のような『主婦の買い物ごっこ』しかできん無能など、我がバレンタイン伯爵家に不要だ! 今すぐ荷物をまとめてこの屋敷から出て行け!」
大理石が敷き詰められた豪奢なエントランスに、長男の金切り声が響き渡った。
彼の足元には、くしゃくしゃに丸められた一枚の羊皮紙――事実上の『追放処分通知書』が転がっている。その後ろでは、恰幅の良い父が腕を組み、冷ややかな蔑みの視線を俺に向けていた。
「……分かりました。本日付で退職、いえ、除籍ということで承知いたしました。これまでお世話になりました」
怒鳴り散らす父と兄を前に、俺――ケント・バレンタイン(25歳)は、深々と一礼した。
取り乱す理由など、微塵もない。
俺は前世、現代日本で馬車馬のように働く社畜サラリーマンだった。過労の末に赤ん坊としてこのアナステシア世界に転生したわけだが、前世で徹夜残業と理不尽な上司のパワハラに鍛え上げられた俺の鋼鉄メンタルは、この程度の嫌がらせではミリも揺らがなかった。
むしろ、退職金(手切れ金)が出ないのは少々ブラック企業じみているが、晴れてこの息苦しい実家から自由の身になれるのだ。心境としては有給消化に突入したような、清々しい気分ですらある。
俺が追放される原因となったのは、3歳のスキル検査で発現したユニークスキル【スーパーマーケット】だ。
鑑定士からは「どこかからパンや野菜を取り出すだけの、主婦の買い物のような生活雑用スキル」と鼻で笑われ、戦闘力こそ正義の伯爵家において、俺は早々に家を継ぐ資格なしと見なされた。
だが、あいつらは分かっていない。
このアナステシア世界において、『現代日本のスーパーマーケットにある品物を無尽蔵に召喚できる』ということが、どれほどの兵站チートであるかを。
それに、俺は5歳の魔力検査の際、あえて自らの才能を隠蔽していた。
無駄に期待されて激務(家督争いや軍役)を押し付けられるのを避けるためだ。日々の気ままな冒険者稼業の裏で密かに鍛え上げた『氷魔法』と、身体能力を爆発的に引き上げる『闘気』の練度は、すでに大陸でも超一流の領域に達していると自負している。
「ふん、強がりおって。そのみすぼらしい背中で、野垂れ死ぬがいい!」
兄の罵声を背中で受け流しながら、俺は手早くまとめた荷物を背負い、屋敷の重厚な門扉へ向かって歩き出した。
――その時だった。
『グオォォォォォォォォッ!!』
突如として、屋敷を囲む鉄柵をへし折り、巨大な影が前庭に乱入してきた。
体長3メートルはあろうかという巨体。全身を鋼鉄のような硬い毛と外殻で覆われた凶暴な魔獣、『アイアンボア(鋼鉄猪)』だ。
迷い込んだのだろうか。血走った瞳が、庭にいた父と兄をギロリと睨みつける。
「ひっ……!? な、なぜこんな街中に魔獣が!?」
「お、おい! 護衛の者ども、早くこいつを殺せ!」
父と兄が腰を抜かして悲鳴を上げる。
しかし、周囲にいた私兵たちは、アイアンボアの放つプレッシャーと分厚い鋼鉄の装甲を前に、武器を取り落として逃げ惑うばかりだった。
この世界の人間は闘気を纏うことで100mを8秒で走り、10mの跳躍を可能とするが、それでもあのアイアンボアの突進をまともに受ければ、ただのミンチと化す。
『ブグルルルルッ!!』
アイアンボアが狙いを定め、地響きを立てて長男へ向かって猛突進を開始した。
このままでは、俺の退職手続きが身内の不幸で有耶無耶になってしまう。それは非常に面倒だ。
「……仕方ない、最後にひと仕事していくか」
俺はため息をつき、腰の剣……ではなく、虚空へと手を伸ばした。
発動するのはユニークスキル【スーパーマーケット】。
脳内に展開される見慣れた陳列棚の中から『鮮魚コーナー』を視覚で選択し、目当ての品を引き抜く。
虚空から現れたのは、銀色にギラリと光る、カチカチに冷凍された5尾の『飛び魚』だった。
俺は指先に高密度の闘気を練り込み、手に持った冷凍飛び魚へと一気に流し込む。
俺の闘気と氷魔法の残滓を纏った飛び魚は、もはやただの魚ではなく、絶対零度の硬度を誇る凶悪な暗器へと変貌していた。
「行くぞ。――必殺、飛び魚手裏剣」
腕を振るう。
シュバババババッ!!
空気を切り裂く鋭い破擦音。超音速で射出された5尾の冷凍飛び魚は、一条の閃光と化し、突進してくるアイアンボアの眉間、両目、そして喉元を寸分の狂いもなく貫通した。
ドスッ! ズドォォォォンッ!!
鋼鉄の装甲を紙切れのように撃ち抜かれた魔獣は、断末魔を上げる間もなく即死し、兄の目の前でズザザザッと土煙を上げて滑り、完全に沈黙した。
額に『飛び魚』を突き立てたまま。
「…………は?」
静まり返る前庭。
腰を抜かしたままの兄と父が、アイアンボアの死体に突き刺さった銀色の魚と、俺の顔を交互に見て、限界まで目を見開いていた。
「ば、バカな……! なんだ今のは!? 貴様、魚を投げたのか!? なぜ魚が鋼鉄の魔獣を貫く! 一体何をした!?」
震える声で叫ぶ兄に対し、俺は肩をすくめて涼しい顔で答えた。
「何って……飛び魚ですからね。よく飛ぶのは当たり前でしょう?」
「納得できるかァァァッ!!」
血を吐くような兄のツッコミを背中で聞き流しながら、俺は今度こそ屋敷の門をくぐった。
これで心置きなく、未練ゼロで実家と縁を切ることができる。
「それでは父上、兄上。今まで大変お世話になりました。これからの我が家の食糧自給、どうぞ頑張ってください」
彼らはまだ気づいていない。
バレンタイン伯爵家の食卓に並んでいた極上の肉や、見たこともない美味な調味料、肌触りの良い最高級の衣服や日用品の数々……そのすべてが、無自覚に俺の【スーパーマーケット】から補填されていたという事実に。
俺という絶対的な兵站を失った実家が、これからどれほどの窮乏と没落を味わうことになるのか。それはもう、俺の知ったことではない。
「さて……向かうは三大国の緩衝地帯、『ポポロ村』だな」
ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国。
三大国の兵士たちが入り乱れる世界一危険で、そして世界一自由な村。
あそこなら、俺のスキルと魔法剣士としての腕前を使って、誰にも縛られない最高の「辺境スローライフ」が送れるはずだ。
空を見上げると、抜けるような青空が広がっていた。
俺の第二の人生(気ままなスーパーの店長ライフ)が、今ここから始まる。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「飛び魚ってそういう飛び方するっけ!?」「大真面目にふざけてる主人公が好き!」「実家がこれからどう没落するのか楽しみ!」と少しでも思っていただけましたら、
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次回、第2話「多国籍の吹き溜まり『ポポロ村』と、ゲロオムレツの悲劇」。
兵士たちの絶望的なメシ事情を、ケントの現代物資が胃袋から掌握していきます! お楽しみに!




