+++ めぐり逢い +++(7)
「………っし。じゃあ、また来週な。せいぜいそれまでくたばるなよ。婆さん」
「はっ! 半人前が生意気言うんじゃないよ。私ゃ脚が悪いだけで他はピンピンしてんだ。あと五十年は死にゃしないよ」
「こっから五十年も生きたらもうバケモンだろ……」
陽も落ちかけた夕暮れ時。
シオンは『町回り』の最後に訪れた家の主人である老婆に、帰りの挨拶をしていた。
「ふん。フィナとリーンが嫁に行くのを見届けなきゃ、死んでも死に切れないね。レンもあんたに似て頑固な男になりそうだし、知り合いにでも嫁を見繕わせんと」
「そりゃ随分と大きなお世話だな」
車椅子の上で皺だらけの顔に更に深い皺を刻むように眉根を寄せる老婆に、シオンは肩を竦める。
「他人事じゃないよ。アンタだってもう良い歳だろ。こんな片田舎で売れ残る前に、王都にでも行って嫁探ししたらどうだい?」
「……それこそ大きなお世話だ。俺は女の相手なんて面倒臭ぇとしか思わん。ガキ共の世話だけで十分だよ」
王都、と言う言葉に一瞬、昨日から居座っているポンコツ娘を想起したが、シオンはすぐにかぶりを振る。
「よく言うよ。本当にアンタが面倒臭がりなら、わざわざ牧師になって子供達の面倒を見ることも、毎週毎週口の悪い年寄りの様子を見に来ることも無いさね。腕っ節は立つんだ。気ままな冒険者や金持ちの用心棒にでもなりゃ、よっぽど楽に生きれたろうに」
「あ〜うるせぇうるせぇ。神職なら死ぬまで食いっぱぐれねぇから選んだだけだ。ガキ共の世話や年寄りの話し相手してるだけでおまんま食えるんだから、神様バンザイってな」
「まったく……。シスターだって、アンタに全部押し付ける気なんて無かったんだよ。いざとなりゃ、子供達の面倒はアタシら町の連中でしっかり見てやる。皆、それくらいの恩はシスターやアンタに感じてんだ」
老婆が浮かべた、寂しさと懐かしさが混ざり合ったような儚い微笑みに、シオンも釣られて口の端を僅かに上げる。
「そりゃお互い様だろ。居場所の無かった俺たちが普通に暮らせてるのも、あいつが静かに眠れたのも、この町あってこそだ。恩なんざ着せる気はねぇよ」
そう言うと、シオンは老婆に背を向け、玄関の扉を開け放つ。
「じゃあな。次はガキ共も連れて来てやるから、ピンピンしてんなら美味い菓子でも焼いといてくれ」
皮肉げに笑ってそう言うと、老婆の返事も待たずに外に出て、扉を閉める。
「………嫁探し、ね。まあ俺はともかく、ガキ共がデカくなってからの事は確かに考えとかねぇとな」
沈み行く夕陽を眺めながら歩き出し、シオンはそんな風に独り言を溢す。
「一番下のリーンがデカくなるまで、あと十年ちょいってとこか……まあ、それくらいまでは何とか保つだろ」
先ほど老婆が浮かべた笑みと似たような、それでいてどこか諦観を滲ませる彼の儚い笑みは、誰も見ていない。誰にも、見せるつもりは無い。
「……ん? そう言や、あの自称勇者のポンコツ、そこそこデカい家の貴族とか言ってたな。頭はアレだが、恩を売っときゃ使い道もあるか……?」
一転して何かを思いついたような顔で、老婆には恩を着せるつもりなど無いと言った舌の根も乾かぬうちに悪どい独り言を呟くシオン。
やはり彼は、ナマグサ牧師の誹りを免れないかもしれない。
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