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+++ 過ぎゆく面影 +++(10)


「むぅ〜、おかしいですね? そろそろ美味しい魔物さんが出てきても良い頃なんですが?」


 町からほど近い山の中腹、木々が生い茂る森の中で、ルピナは首を捻っていた。

 つい先日の『ブルズボア』の前例もあるし、自分は“引きが強い”と信じて疑わない彼女は、客観的な根拠など何も無いと言うのに、夕食を豊かにしてくれる魔物と遭遇出来ると本気で思っているのだ。……まあ、姿をくらました元勇者を見つけ出し、最近は無自覚にお忍び魔王様とも仲良くしている彼女の引きは、ある意味で確かに強い。


「もう諦めて帰ろうぜ? ルピーちゃん。この辺の魔物は、兄貴にビビって滅多に出て来ねぇんだ。あんまり遅くなると、兄貴……はともかく、姉御達が心配するぞ?」


 因みにルピナは、一人ではなかった。

 明らかに軽装、と言うかいつも通りの格好でろくに荷物も持たず山に入ろうとしたルピナに、たまたま巡回していた『自警団』の者達が声を掛けたのだ。

 何だかんだで人の良い彼らは、魔物が出る可能性が低いと分かっていても、可憐な少女(見た目だけはね笑)が一人で山に入ろうとするのを見過ごせなかった。


「ですが、ここでおめおめと帰っては、またシオンさんに『ハッ。最初から期待してねぇよ。穀潰しは大人しく庭の草むしりでもしてろ』と、鼻で笑われてしまいます」

「そこまで兄貴の解像度が高ぇのに、よくもまあ毎度毎度あんだけ怒らせられるなぁ」

「その点については、あなた方も同じでは? 特にフィナさんとか」

「「「うっ!?」」」


 特大のブーメランを喰らった『自警団』の男達は、揃って気不味そうに目を逸す。


「し、仕方ねぇんだよ! 姉御には俺達皆、本当に世話になってんだ! うんと年上の俺らに下から来られるのがやり辛ぇってのは分かってるが、あの人を軽んじるような事は、絶対出来ねぇ!」


 リーダー格のスキンヘッドの男がそう言うと、『自警団』の皆もまた深々と頷いた。


「どうしてそこまで……いえまあ、ある程度想像は出来ますが。どうせシオンさんにボコボコにされた後、いっぱい優しくして貰ったのでしょう? かく言う私も、彼女には頭が上がらないので、良くわかります」

「そうなんだよ。あの頃の兄貴はそれはもうおっかなくて……って! それもそうだけど、それだけじゃねぇんだ! フィナの姉御は……」



『グルォォォォォオッッッ!!』



「「「っっ!?」」」


 その咆哮は、耳にした者全ての身を竦ませる圧倒的な“強者”の覇気を撒き散らしていた。


「こ、この咆哮は!?」

「ルピーちゃん! 逃げるぞ! こいつは多分っ」

「でっかいモンスターですね!? 流石は私! 引きが強い! 行きますよ皆さん! 豪華な晩ごはんはすぐそこです!」

「くそったれぇ!? 知ってたけどやっぱイカれてるぜこの嬢ちゃん!」


 本能に恐怖を刻み付けるような猛々しい咆哮を耳にして、撤退を促そうとした『自警団』の皆を他所に、ルピナは寧ろ歓喜の声を上げて咆哮の聞こえた方角へ駆け出す。ルピナさんはただの穀潰しではない。行動的な穀潰しなのだ!(それやっぱイナゴじゃね?)

 そして人の良い『自警団』の皆は、彼女を一人で凶悪なモンスターの元へ行かせる事など出来ず、泣く泣く追いかけるしかない。シオンさんの教育(調教?)の賜物である。


「でっかいお肉、じゃなくてモンスターさん! いざ尋常に勝負です!」


 鬱蒼と茂る森をものともせずに駆け抜け、モンスターの一部らしき“青い鱗に包まれた尾”を視界に捉えたルピナは、迷わず剣を抜いて邂逅一番に背後から斬りかかった。『尋常に勝負』と叫びながら不意打ちとは、流石はルピナさん。さすルピ。(多分使い方間違ってるぞ)


 ……だが、身体強化マシマシで大上段から振りかぶったその刃は、ガキーンッッ!! と、金属同士がぶつかったような甲高い音を立ててあっさりと弾かれた。


「およ?」

『グル?』


 あまりに簡単に弾かれてしまったせいで驚愕を通り越して逆に拍子抜けしたように首を傾げるルピナと、奇しくも彼女と同じく小さく首を傾けたそのモンスターの目が合った。


 否。その存在が放つ威容は、『モンスター』と言うカテゴリーで一括りにするのは“不敬”だという念すら抱く程に、強大で神々しかった。


「へ? 貴方は、まさか……」

『グルルゥ……』


 器用に弾かれた衝撃を利用して宙返りしながら着地したルピナを、その存在は巨大な青い宝玉のような瞳で、品定めでもするようにじっと見つめていた。


「「「なっ……!?」」」


 そこに、ようやく『自警団』の男達は追いついたものの、すぐさま全身が石化でもしたかのように動きを止める。

 どうにか震える足を動かし、ルピナを庇うように前へ出たリーダー格のスキンヘッドは、漠然と予想していた脅威の更に上を行くその存在に顔を青ざめさせ、無意識に声を絞り出していた。



「ド……ドラゴンだとぉぉぉぉぉぉっっ!?」





同じエピソードタイトルで長々とすみません。書いてたら楽しくなって中々キリのいいところまで行かず……もう暫しお付き合い頂けると幸いです。

それはそうと、そろそろスキンヘッド君には名前を付けてあげたい……(希望)


今話もお読み頂きありがとうございました!

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