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+++ 夜の訪れ +++(1)


「ふぅ、やっと着いたな……。お前がチンタラしてるから三日も掛かったじゃねぇか」

「仕方ないじゃないですか! 自分だけならともかく、馬に魔力で身体強化を施す術なんて初めて使ったんですから! はぁぁぁ……慣れない魔力制御でもうヘトヘトですよ。と言うか、こんなこと出来るならもっと早く助けに来てくれても良かったでしょう!?」

「魔力を温存してたんだよ。国王が認めた結婚の邪魔するなら、最悪王国と戦争になる可能性もあったからな。ま、取り越し苦労も良いとこだったが」


 王都を出てから三日後。

 シオンとルピナはようやく見えてきた町の灯りに肩の力を抜く。


 辺境までの距離を考えれば驚異的な速さだが、それでも二人は、長旅から帰ったような気分だった。

 夕暮れ時を過ぎ、夜の帳が下り始めている故、余計にそう感じたのかもしれない。


「勇者パーティーじゃ馬の強化くらい誰でも出来たぞ。自称勇者が聞いて呆れるな」

「むむっ! そんなこと言って、シオンさんこそ普通の魔法は全然使えないじゃないですか! 火起こしも水の用意も全部私がしたんですけど!? その体たらくで元勇者を名乗るなんて、恥ずかしく無いのですかぁ?」

「別に名乗ってねぇわ。魔法なんて無くても、その程度の事はどうとでもなんだよ。大体お前、制御ミスって何回暴発させんだよ? アレで余計に時間食ったんだぞ」


 などと、やいやいの飽きずに言い合いをしながら、二人は馬の速度を徐々に緩める。町はもう目と鼻の先だ。


「ん……?」


 だが、そこでシオンは不意に、手綱を引いて馬の脚を止めた。


「ですから、私の魔法は戦闘でこそその真価を発揮してですね……って、シオンさん?」


 シオンの馬が止まった事に気付かず一人で喋りながら先に進んでいたルピナは、少し離れてからようやく隣に誰も居ないと知ってキョロキョロと周囲を見回す。


 その、直後。


「っっっ!? クソったれ!!」

「ちょっ、何がっ!? ああもうっ!」 


 途端に表情を険しくしたシオンが、悪態と共に文字通り馬の尻を蹴って突進するように猛然と町へ突っ込んだ。

 ルピナは訳が分からぬまま、慣れない魔力制御を再開して彼の後を追う。


 シオンは町の中を見回しながらも、一瞬の停滞すらせず通りを突っ切り、一目散に教会がある丘へと馬を駆け上らせて行った。


「っ! これは……?」


 その背を追いながら彼を真似るように町の様子を確認したルピナは、ようやく異変に気付く。


 日が沈んだばかりで、殆どの家屋や商店にはまだ灯りが点いている。

 ……だと言うのに、人の姿が一切無い町の姿は、酷く異様だった。


 一見、盗賊の手によって集団誘拐に遭った後のようにも見えるが、それにしては町が荒れていない。

 部分的に損壊した建造物なども散見されるが、やはり破壊が目的と言うにはごく僅かな被害で、どこか“様子を伺った”ような痕跡にも見える。


 一体……何が起こっているのか。


「ルピナ! 教会に着いたら全力で身体強化して、礼拝堂に駆け込め!」

「っっ!? りょ、了解しました!」 


 緊急事態に意地や羞恥心は吹き飛んでいるのか、ごく自然に自分の名前を呼んだシオンに、ルピナは動揺しつつもすぐに頷く。


 そうして二人の馬があっという間に丘を駆け上り、教会の屋根が見えて来た辺りで、ルピナの顔から一瞬にして血の気が引く。


「あっ、あれはっ……!?」

「ちぃっ!? この辺に流れて来た連中は“狩り尽くした”と思ってたが、どっから湧きやがった!?」


 教会の周囲、その一帯に広がる異様な光景に、ルピナは息を呑み、シオンは憎悪に歪んだ顔で舌打ちを漏らした。


 そこに居たのは、数多の“異形”。


 牛の頭と蹄に、筋骨隆々な肉体を持つ者。

 巨大な蝙蝠のように、漆黒の羽で空を舞う者。

 禿頭に一つ目、四本ずつある手足で地を這う者。


 いずれも人に近い部分はあれど、明らかに異なる化物のような姿。


 否。それは悪魔で“人間”の基準でその姿を見た表現であり、“彼等”の社会ではどれもありふれた容姿に過ぎない。



「ま、魔族っ!?」



 

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