+++ 月の光に抱かれて +++(2)
教会本部、大聖堂。
名だたる貴族や神官達が、正装に身を包みずらりと並んでいる。
彼らの雰囲気は一見和やかだが、どこか戸惑いを隠し切れていない者もちらほらと見えた。
国王の名の下、急遽通達された高位神官と侯爵令嬢の婚姻。
そのどちらの名も、ほとんどの参列者の認識では「何となく知っている」程度で、お世辞にも社交界の中で名高いとは言えない。……だがそれが逆に、注目を引く理由にもなっている。
何故、無名の者達の婚姻を、国王陛下が自ら取り仕切るのか。
若く優秀と評判の新王の突飛な行動から、貴族達は目が離せないのだ。
特に、これから新王に取り入ろうとする者達は、些細なとっかかりも見逃すわけにはいかない。
そうして、様々な思惑が渦巻く中、ナルキスとルピナの挙式は粛々と執り行われていた。
「ナルキス・レムナ、ルピナ・イキシア。両名は、神の名の下に永遠の愛を誓いますか?」
演壇に立つ神官が、並び立つナルキスとルピナに決まり文句で問い掛ける。
ナルキスは髪を撫で付け普段の神官服とは異なる白い燕尾に身を包み、興奮と緊張に頬を上気させ、上擦った声で答えた。
「わ、私っ、ナルキス・レムにゃはっ! ルピナを生涯愛しゅると誓いましゅっ!」
その情けない宣誓に、大聖堂内は押し殺した失笑と更に深い戸惑いが溢れた。
もっとも、当の本人は参列者の様子にまで気が回らないようだが……。
「………」
対して、純白のドレスに身を包んだルピナは、ベールの奥で俯いたまま、ただただ奥歯を噛み締めていた。
結局、今日に至るまで、何度王宮に抗議を申し入れても聞き入れては貰え無かった。
強引な手段も考えたが、事ここに来ての暴力沙汰や逃亡は、幾らなんでも家の名に深過ぎる傷を付けてしまうと躊躇う気持ちが勝った。
だから彼女は、覚悟を決めるしか無かった。
「ルピナ・イキシア? どうされましたか?」
「………いえ。誓います」
気遣わしげに再度問いかけた神官に、ルピナは涙を堪えた苦笑で小さくそう答える。
参列者達は、その短いやり取りで彼女がこの婚姻を望んでいない事を察した。
だが、所詮は他人事。貴族の間では望まぬ政略結婚などザラであり、ましてやこれは国王が直々に取り仕切る婚姻だ。口を挟む者など、居よう筈も無い。
何より、当の国王が最前列中央の席で、何が楽しいのか愉快げにニコニコと笑っているのだ。
同情より、その不気味さの方がずっと気掛かりという物。
「コホン……では夫となる者、ナルキス・レムナ。婚姻の証として、妻となる者、ルピナ・イキシアに指輪を」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
ナルキスは噛みながらも勢いよく返事をして、あたふたと指輪を取り出す。
品の無い大粒の宝石が取り付けられたその指輪を震える手で掴み、ルピナの手を取った。
「っ……」
汗ばんだナルキスの手に触れられた瞬間、全身が泡立つように鳥肌が一気に立った。
だが、ルピナは唇を噛んで必死に堪える。
「くっ、くふふっ! こ、これでっ、貴方は私のモノだっ!」
「っ………こんな物、形だけです」
声を潜めていながら、興奮を隠せないナルキスの下卑た笑いを、ルピナは眦を吊り上げて睨む。……だが、その声は震え、今にも涙が溢れそうな程瞼の奥に溜まっていた。
そして、ルピナの細く白い指に、指輪が通される。
その、直前。
ドガガガァァァンッッッ!!
………と、盛大な音を立てて、大聖堂の扉が木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「「「っっっ!?」」」
「なっ、何だ!?」
「え………?」
参列者は勿論、ナルキスとルピナも予想だにしない事態に驚愕し、思わず扉を失った入り口に目を向ける。……ただ一人。俯いて表情の見えない、国王を除いて。
「やべ、加減ミスったか? ……まあ良いや」
舞い上がった粉塵の向こうから、“やさぐれた低い声音”が響く。
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