+++ 夢のほとり +++(6)
「………やっぱり、何だか静かな気がしちゃうね」
ルピナが去って数日後。
夕食の席でフィナがぽつりと、そう溢した。……すると、それまで気丈にいつも通り振る舞っていたレンとリーンもまた、食事を中断して俯いてしまう。
「ルピー姉ちゃん、本当に大丈夫なのかよっ……」
「むねんなり……」
「………」
シオンは瞑目して、何も言わなかった。
今日だけでは無い。この数日間、ルピナの話題に関して彼は、子供達を慰めるでも、忘れろと言うでもなく、ただ口を閉ざしていた。
それは、彼の中にある迷いの現れだった。
ルピナが連れ去られたあの時。実はシオンには、彼女を救う“手段”があった。
けれど、その選択を無意識の内に除外してしまった。……子供達を、想うが故に。
その手段は、彼等を守る上で大きなリスクを伴うのだ。
だが、落ち着いて考える事が出来るようになってから、その手段がずっと頭をチラついている。
自分が決断すれば、今からでも恐らく間に合う。彼女を救える。
けれど、それは本当に子供達を危険に晒してまでやるべき事なのか?
その迷いが、言葉を紡ぐ事を躊躇わせた。
だから、守られる側の彼等が、彼よりも先に覚悟を決めた。
「兄さん」
「シオン」
「おにぃ」
純真で澄んだ眼差しが、迷いに揺れるシオンを見上げる。
「っ! お前ら……」
子供達の瞳が、何を言いたいのか。
言葉にせずとも、すぐにシオンは理解した。同時に、守るはずの彼等に、迷いをあっさりと見抜かれていた自身の間抜けさを恥じた。
「私達なら平気だよ。兄さん」
「っ……フィナ………」
酷く大人びた笑顔で先回りするフィナへ、上手く反論する言葉が出てこない。
「俺らだってもう働こうと思えば働けんだ。いざとなりゃ、またどっかに旅でもしようぜ」
「われがいるばしょこそわがしろなり」
「レン、リーン……いや、リーンのは意味わかんねぇけど」
フィナと同じく、自身の思考を容易く見透かしている幼い二人に、シオンは思わず苦笑する。
「言っとくけど、私達は兄さんに傷付いて欲しく無いんだよ? だから、本音を言えばこのまま此処に居て欲しい気持ちもあるの。……でも、その方が兄さんにとっては辛いでしょ?」
「何だかんだ言って、シオンもババァに似てお人良しだからなぁ〜」
「かえるのこはかえる」
「……クソガキどもが」
どこか呆れたような顔で自分を見上げる子供達に、シオンは何故だかまた無性に泣きたくなり、心のこもっていない悪態で誤魔化した。
そんな彼にフィナは敢えて、年相応なとびきり無邪気な顔で笑いかける。
「行ってらっしゃい。兄さん……うんう。私達の、“勇者様”!」
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