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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
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百十二話 挑発





午後4時ごろ。

色々と服を押し付けられ、それを身に付けた2名。


仕事というか依頼というか、業務で訪れている都合から白の襟シャツを新たに着用する。

ズボンに関してはどちらもデニム材質で、固めな質感で緊張を持たせる狙いがあるらしい。


とはいえ巳浦は腕が狭苦しいという理由で即座に上腕まで袖を捲り上げていたが。

※それは許された。






その格好に改めてから、再度外を出歩く。

すると不思議な事に、険悪な視線を向けていた筈の住民達から興味ありげな雰囲気が。


半袖で身軽なゼンジャは見慣れた姿だが、並々ならぬ圧を持った2人組がその後ろを追従している光景には目を奪われる。


先刻までエレエラ国内では忌避の対象とされていた黒服を着用していた2人が、突然がらりと印象を変えて平然と出歩いている。

 しかしそれ以上に、冷静になってその両者を確認するとなんとも鳥肌が立つ様な威圧感があった。



ーーーまぁ、無理に上下の衣服を用意され半強制的に着せられた事に苛立っていたのだが。

常人からすればその程度の感情で揺れる魔素ですら恐怖を刺激されるのだ。


視線が合えば、有無を合わさず圧殺されそうな思い空気。

ゼンジャとしては、現在背後から刺す様な目を向けられ脂汗が止まらない思いであった。


そうして足早に食事を済ませに向かう。











何分か、或いは十分程か。

着いた店は、睨む様な形相をした者達がごろごろと席に屯する明らかに治安悪めのギルド。


食事する場所、ここしか無かったのか。

そんな疑問も露知らず、ささっとど真ん中のテーブルへ向かいそこの席を引く。


3人は一先ずそこに座るが、矢鱈と周囲の顔が此方を覗き込んでいるのが分かった。

 これ、座っちゃいけない空気じゃない?






ぞろ、ぞろぞろ。

そんな擬音が聞こえてくる。


何やら一言言いたげな顔の無精髭が3人のテーブルに腕を叩き付ける。

どうやらゼンジャ以外の2人に対して苛立っている様子だった。






「なぁゼンジャさんよ、このテーブルはエレエラ国内で最も武力のある人間が座る席だ。」

「ーーーしかし、あんたは当然として横の2人はなんなんだ。」


「あ………気にしないで良いですから!」

「確かにフレールさんの言いたい事は分かりますよ?

だけど強さの理屈で言えば、十二分に座る権利のある2名ですから…………ね?2人とも。」


「ーーーえ、こっちに振るの。」

「面倒だし私達は別の卓に座るよ。

それでいいよね、髭。」


「えぇぇ!?私だけ座らせるんですか!

ーーーそれなら良いです、私も退きまーすっ!」



「な、なんだその会話は……?」






 フレール。

このエレエラ国内ではゼンジャという規格外を除き最高の実力者。

レベルも50を超えており、実際今の時代には上位層の人物である。


だが、自身に怯えるどころか不快そうな顔で席を外していく2人からは嫌な圧を感じた。

不思議な事に、これまで相対したどの人間や魔物とも根本が違う。



この、人1人が国に戦いを挑む様な場違い感。

そんな本能から来る警告を、フレールは経験自体した事がない。

それ故か、その正体を暴きたくなってしまう。


鳥肌が立ち、全身が震える奇妙な感情。

これは何という物だろうか。






別卓に移っていた3人の内、唯一男性であった巳浦に声を掛ける。

女性に対してのぞわつき、とは理解出来なかった。


卓上に肘を突き、顎を掌に乗せ眠そうにしている彼に正面から一方的な申し入れをする。






「黒の長髪を縛る君に尋ねたい。

いや、頼みたい。」


「…………なんだ、髭のおっさん。」






「ーーー俺と、手合わせして貰いたい。

ゼンジャの言う事が事実か、確認したいのだ。」

「何、ただとは言わん。

彼女の発言が現実の話と解れば、ここでの食事代は俺が持つ。」


「…………それって、真面目に?」


「嘘は吐かん。

男に二言はない。」


「結構食うけど、問題なさそうか?」

「あ、私も奢って貰うから。」

「すいません、私も良いですかーっ?」


「ーーーー好きにしろッ!

何でも良いから俺と戦ってくれ、頼むっ。」






「まぁなんだ、そこまで良い話持ってこられて蹴る奴も居ねえよ。

フレールさん、あんたが形式を決めてくれ。」

「煽る訳じゃなく、それが最低限必要だ。」


「………1分だけで、良い。

俺の築き上げた経験を、あんたにぶつける。」



「なるほどね。

現代は強くなるのも一苦労だ、その助けになるなら。」


「助かる。

では外に移ろうか。」







ーーーー。






その後。

フレールが培った近接格闘、今年35になる齢で手に入れたskill。


そのどれもが当たりもせず、最後は意図的に顔へ1発入れられて歪んだ顔のまま、

『1分、経ったぜ。』

と呟き終わりを迎える。



殴られた箇所には微かな擦りがあるだけ、埃が塗されただけでとても殴打された後には見えない。






ゼンジャ、ヴェルウェラはさっさと食事を注文したくて呼びに来ていた。

 巳浦は丁度終わった事を告げ、元気が無くなった様子のフレールに慰めを伝えて連れ帰る。



そもそもの話、当然だ。

だが自分以上の存在を知らず内心調子付いていた誇りを、天から地へと落とされた。


彼は、自身が初めて完敗を喫した戦いを思い出していた。

4月頃にこの国が召還したゼンジャを相手取った時以来。


その際のやり取りは、戦闘として成立しておらず開始と同時に意識を飛ばされていた。

 あまりの速さに認識すら出来ず顎をぶっ飛ばされていたらしい。






そんな戦いとは名ばかりの負け戦を彷彿とさせる内容に、しかし自分は幸運だとも思えた。


過去に存在した、歴史上の偉人或いは凶人。

そんな人間の到達点を直に体感し、それを目指せるのだ。

 そう前向きに捉え、3人を改めて中央卓に呼び食事を頼み始める。



ーーーそう、本当の戦いはまだ始まっていなかった。






「俺は今完敗したてで元気が無い。

飲み物とフランスパン、後はチーズでも貰おうか。」

「お前たちはどうする?」


「んー。

………じゃあ俺は」






「卵スープ1つ、チーズトーストが3枚。

ミートドリア2つに後は、」


「ん?まだ頼むのか………」


「このトマトサラダを2つ。

最後に………まだ頼んで良い?」


「…………そんなに、入るのか。

人間の体って、そうだったか。」



「何言ってんだよフレール、まだまだ半分頼んだかどうかだろ。

なぁヴェル、お前達はどうすんだ?」






「私は……適当に10個頼んでおいて。

宜しくね、ゼンジャ。」


「え、私が?

んーとじゃあ、サラダは欲しいから5個ずつ頼んでおいて、」


(サラダって、そういう食べ方だっけ。)


「他は普通の食パンと牛乳のセットを私が5個。

ヴェルウェラさんはーーー」






ーーーーー。

そうして卓上いっぱいに届けられた食事。


物にもよるが、一品物は1銀貨。

穀物類は小物で2銅貨、大物で5銅貨。


巳浦1人で1金貨、ヴェルウェラとゼンジャも2人して同様の金額が掛かる。

ギルドの飯だけで金貨3枚分消し飛んだ経験は無く、高い授業料だと我慢しながら支払う。





料理を見て期待しながら手を動かす。

想像通りの味にどんどん皿の上は消えていき、10分程で全てを完食された。


軽い食事を済ませたような顔付きで席を立ち、何事も無かった雰囲気で店を出て行く。

 いや、店じゃなくてギルドだから。






ゼンジャから明日5日の午前7時より養成所にて働き始める事を聞く。


フレールは勿論、国内1の力を持つフレールを片手間にあしらう程の力を持つ存在が暫く鍛錬に参加する。

 周囲で聞き耳を立てていた男達も日頃から当然の如く参加しているが、明日からの内容がどうなるか恐怖で緊張していた。











午後5時過ぎ。

養成所に到着すると、先に帰還し待機していた近衛兵達が巳浦をじろじろと凝視しつつ国の中央にある現長の領地へと戻っていく。


そして後から白い石造りの建物から出てくるのはその清潔な外見に見合わない物騒な装備を付ける男達。

 なるほど、さっき近衛兵が睨んできたのはゼンジャを心配してたからって訳だ。






事情を説明してるゼンジャを後ろから見つつ、巳浦は現代を生きる強者達を思い出す。


先程のフレールもそうだが、魔物が激減した世界でも50lvの壁を越えられるというのは凄い事だ。

 単純に経験が足りない、その分更に多く時間を掛けて努力する手間は中々に苦痛なはず。

 素直に賞賛に値する偉業だ。



しかし、巳浦は現在自分の置かれている極限の状況を思い出してしまう。

その度、上位や高位を遥かに上回る存在である神をどうすれば倒せるかを思考する。

 だが勝算が無い、どうしたら傷を負わせられるかも分からないのだ。


そんな疑問を日頃から浮かべている巳浦の姿を見て、ヴェルウェラが背中を指で突いて目の前の状況へ呼び戻す。


いつの間にやら囲まれている。

 何があったかは知らないが、どうやらゼンジャが説得に失敗した空気だ。






「おいそこの兄ちゃん。

俺達ぁな、今更誰かに教えを乞うつもりはねぇんだ。」


「ん、そうか。

でも仕事で来てるからな、受けて貰えねえとこっちも困るんだよなー。」






「知らねぇよそんなテメェの事情なんかよっ!」

「おいお前ら、コイツ調子乗ってっから恒例の100人組手で痛い目見せるぞぉっ!」



ーーーー空気を叩くような声の塊。

耳に響く声量となり、辺り一帯を鳴り通る。



「よーし、いつでも来い。

100人纏めて、な。」






その一言に切れ、全員が襲い掛かってくる。

 因みにゼンジャとヴェルウェラは庭に生えている木の枝に座り見物していた。






軽く30m垂直に跳躍する。

その時点で地上の傭兵達は遅れて巳浦の危険性を察知するも、既に遅い。


ただ単純に魔素を放出する。

それだけで半径3mを墨の様に濃密な魔素が吹き荒れていた。


そのまま真下へ向かい開いた右掌を突き出すと、直接の外傷は与えず魔素だけを地上へ叩き付ける。

 呼吸が止まる程の恐怖を全員に与え、自分は平然と着地する。

その際足元は10cm弱凹むが、なんて事はない顔をしているのを見て周囲は更に畏怖する。



呆気なく、男衆は沈黙してしまう。

それらを一瞥して一息吐くと、魔素を解除して大声を挙げる。






「明日7時から鍛錬だっ!

文句のある奴は俺の部屋まで来い、納得するまで色々やるからなっ?」



ーーー了解ですっ!

そんな感じの内容が響き渡る。



「よしよし。

あ、なんか動いたら疲れたな。」






巳浦は適当に道案内出来る奴を呼ぶと、連れ2人を完全に忘れてさっさと奥へ進んでいく。


個人戦も集団戦も楽に対応出来る、それは誰にも出来る事ではない。

 ゼンジャは改めて巳浦の恐ろしいまでの汎用性に驚嘆する。


それはそうとヴェルウェラを連れてすぐに付いて行くのだった。


















そうして到着した部屋は、なんだか埃を被っている。

暫く使われていない様子だ。


先人が置いていった本類は棚に戻し、ベッドの下の色々なゴミを片付けたり窓際の溝を拭いたりして掃除していく。

 招待された人間のする事か?




ヴェルウェラはどこか懐かしそうな表情で部屋を綺麗にしていく。

ゼンジャは不慣れな手付きで清掃を手伝う。


そんな中、少し疑問に思う事があり質問する。






「なぁゼンジャ。

この部屋は俺だけが使うんだよな?」


「え?

…………それって、どういう意味……ですか?」


「いや深い意味無いからね、俺殺される。」




「まぁ、そうしてあげたかったんですが残念な事に部屋が足りません。」

「なので、誰かが1人部屋、残りは2人部屋になります。」


「それなら私がこいつと一緒に寝る。

ちょいちょい巳浦と一緒になろうとするな。」


「まぁそうですよね。

分かりました、気が向いたら私の部屋に眠りに来ても良いですからねーっ!」




「おう、おやすみー。」


「おうじゃねぇよ、駄目だよ。」






6時になってないが、少し早めの解散だ。

どうしようかと考えていると、ヴェルウェラが謎の閃きを呟く。


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