百十一話 馬車道
戦闘シーンとか、書きたいね。
4日の朝。
時刻は7時過ぎ。
ゼンジャの発言通り迎えが来訪した。
バルト王国から西方200km先にあるエレエラ国へ向かう事になるため、勿論西口の検問所に待機している。
馬車か、或いは別の移動手段か。
そんな些細な疑問を、真っ向から覆す。
「「「「「お迎えに上がりました!」」」」」
「お、お迎え、に上がりま、した、たぁっ!」
「……………おう。
なんでこんなに同行者が居るんだ?」
「あ、えっと、単純に私が一人で行こうとしたら、心配だからって国の長が近衛兵達を護衛に付けてくれた、のです。」
「何が心配なんだよ。
俺がお前を襲うとかそういう話か?」
「「「「「「な、なんだってえぇぇぇえっ!?」」」」」」
「え、えっと、別に私は………良い、ですよ。」
「いや駄目だろ。」
こうして朝から騒々しく出発を開始する。
ヴェルウェラはどこか不機嫌そうに右横で座っている。
それもそうだ、何故かゼンジャが対面席ではなく巳浦の左側に寄り添うように座っている。
明らかに好意を持っている素振りに、ヴェルウェラとしては苛々して仕方が無い。
一言言ってやろうかとも思うのだが、しかし圧倒的年長者である立場からすると簡単に声を荒げるのも微妙なのだ。
そんなこんなで二人に挟まれて顔が青白くなっている巳浦を他所に、馬車は突き進んでいく。
しかし一つ疑問がある。
「なぁ、馬車で進むのはいいとして馬の持久力は持つのか。
あんまり早いと疲れちまうし、遅いと日数が掛かるだろ。」
「あぁ、そう言えばそうだね。
馬って日に50kmとかそんくらいしか移動出来ないでしょ。」
「どうするの、ゼンジャ。」
「それに関して、とっっっておきの装備が有るんですよっ!」
「現代までを生き続ける英雄、松薔薇さんが作り出した馬の為の装具、その名は【魔填蹄】っ!」
「「まてんてい。」」
夢中になって色々と話してくれた。
それによると、乗員の魔力を馬に供給する事で外付けの持久力として利用出来るのだと。
松薔薇による発明品はほぼ普及しておらず、様々な発想から作り出される試験品をあちこちに売り込んでいるとか。
それで納得の行く完成度なら商品として売りギルドの経営費に回すのだ。
凄く頑張っている。
というか1人で運営出来る規模ではない。
「…………まぁかなり欠陥品なので、それによる魔素消費はえっと、尋常ではありません。」
「普通の馬さんが余裕を持って走れるのは時速で考えると5〜6kmと言われてるんです。」
「が、【魔填蹄】を付けると通常なら30分程しか維持出来ない時速20〜30kmの移動を平均的な英雄の魔力1人分を消費し3時間程度まで伸ばせますっ!」
「あ、行きはもう一つ段階を落として1時間に13〜15km程の速度で移動してきたので、私1人の魔力でも6時間掛けて90km分は飛ばしました。」
「残りの100km少しに関しては全く別の日に作っておいた魔蔵水晶を一個使って解決しました…………朝までぐっすり眠りましたが。」
「ーーーーなるほどな。
つー事は、俺1人が電池になれば9時間は走れる訳だ。
実際には6時間で180kmは行けるから、残りは42分前後で20kmぐらいは移動出来るな。」
「えーっと、英雄3人分の魔力があるという前提であればそうなります、ね。」
「ーーーーえ、それって本気で言ってます?」
「嘘ついてどうすんだよ。
俺は先天的に魔素量が多いんだ。」
「あ、因みに自慢じゃねえけど髪が伸びるのも早かったりするぞ。
知り合いに同じ体質の奴が居たりもする。」
「へ、変なのか凄いのか分からないですね。
とは言え、色々質問したい気持ちを抑えてその提案について一つ言うとしたら、」
「ーーーはい!お願いしますね!
やったわっこれなら15時前には着けるかも知れない!」
「………私は手伝わないから。
1人でやってね。」
「いやいや………そりゃあ構わねえけどよ。
俺、ちょっと周りに緩かったか?」
「がばがば、弛緩しきってるよ。
主に異性への距離感とか色々。」
「もう少し夫婦なのを前提に行動して。」
「そうだな、と分かってはいるんだけどよ。
周りが俺に突っかかってくるってのが難解な点でな。」
「別にお前以外に興味無いから安心しろ。」
「…………どうだろうね、実際。」
「天使のデカ女とか、ちょっと違うけどレインドだとかもそう。
余程異性を惹き付けるんだね、あらすごい。」
「なぁなぁ、頼むから俺の事を怖がらせないでくれ。
前もなんかの時街の女性に鼻伸ばしたとか疑われて、自宅監禁みたいな事されただろ。」
「ーーーえ、怖。」
「……女、一々口を挟むな。」
「あの頃は………お前への執着が強かったんだ。」
「今はそこまでしない、するとしても一月じゃなくて1週間で我慢する。」
「うーん、まぁそれなら良く………ない全然。」
「ま、空気も重くなってきたしそろそろ充電器になろうかな。」
「あ、それなら今からお連れしますよ。
…………(奥様から少し離れましょうっ!)」
「じゃあヴェル、少し働いてくるわ。
エレエラ国に着いたらへばってるだろうから、その時は看病は宜しくな。」
「…………うん。」
そんな会話をしながら、馬車の荷台奥へ連れてかれた。
そこにある菱形水晶を手に取ると、ゼンジャから説明される。
平均的な英雄1人分の魔素を貯蓄可能で、それを粉末状に砕き馬に吸引させると即効で体力が回復するらしい。
具体的には、水晶自体を構成する自然魔力が外部から流れてくる他魔力を中和仕切り完全に自然魔素に変換しきっているのだと。
それの限界量が水晶一つにつき英雄の魔素1人分との事だ。
面白い発明だな、と素直に感心する。
これが現代まで生き続ける英雄、松薔薇の知恵が為す神業。
(自然魔力の特性は、生物に対して言えば生体機能の促進。
免疫力、治癒、疲労快復など。)
そう言う事で置かれていた水晶を2つポケットに入れておく。
後部にいるゼンジャやヴェルウェラの声が聞こえない仕切り越しの空間で最初に渡されていた水晶にかなりの魔素を放出する。
それは丁度といった様子で吸収し、半透明な色を光が通らない黒色へと変わっていく。
他2つにも同様に魔素を注ぎ込むと、ルシファー戦を終えた直後と同じ極限の疲労感が襲い掛かる。
しかしやる事はやった。
それを馬車の運転手に渡し、そのまま先程の場所で気絶。
ぶっ倒れている巳浦を見守りつつ、馬車は突き進む。
※護衛の騎馬達は最先頭にいる巳浦達の馬車に綱で牽引される形となるが、馬車の負担としては大した差がないのでそれの魔素消費は無い。
そうして、暫し時は経ち。
★
「ーーーきましたよ………あ、あの、」
「良いよ、私が起こす。
こいつ寝起きが悪いんだ、だからこうーーー」
「んん………………」
「ーーーーがぁぁぁあぁあぁっ!!?」
「ね、起きた。」
「いやその、股間蹴られたら男性ってとても痛いんじゃないんですか………?」
「まぁ頑丈な男だから、心配要らない。」
「そ、そうですか。
ーーーいや怖っ。」
「なんだァっっ!?攻撃かっっぐぅっ。
誰だクソがっ!寝込みを襲いやがってっ!」
「よう、起きた?」
「あぁ、いい寝覚めだ。
そうか、もうエレエラ民主国に着いたんだな。」
「あ、そうだった!
巳浦さんとヴェルウェラさん、お二人は立場上お仕事で来ていただいていますよね。」
「現在は15時辺り、本日の養成所業務は終了ですから依頼の件は後日にしましょう。」
「ーーーあと、朝の7時頃から訓練を開始しますからそれより前に起床して貰いたいんですけど…………良いですか?」
「あぁ、別に良いぞ。
バルトに居た時は5時前に起きてたからな。」
「ーーーいや、私は勘弁して。
寝てないと巳浦の事で苛々するから。」
「あーー、はい。
取り敢えず重要なのは巳浦さんですから、ヴェルウェラさんは気が向いたらお願いします。」
「分かった。」
「うし、じゃあその養成所まで行こう。
何となく腹が空いてきたしな。」
「そうですか?
実は私も少し口が寂しかったんですよね!」
「そうだね、私も貰おうか。」
「勿論です!
皆んなで食べましょ!」
「ーーー前よりも明るくなったな。
その方が良いと思うぜ。」
「早く行きましょう!
……………え、そうでしょうか?」
「俺はな。
でも普段の態度はお前が好きにすれば良いさ。」
「…………なら、このままで行きますっ!」
「おいお前ら、変に絡むな。
ーーー巳浦、後で分かるな。」
「え。」
「わ、私は関係ないですよね?」
「いや、今の無責任な発言でお前も入れた。
二人とも、お仕置きね。」
「「……………」」
そんな話をしながら、馬車で検問所を通過。
すると、荷台から降りたゼンジャの姿を見て住民が頭を下げ始める。
この国にとって、真っ当に通用する防衛手段は彼女だけなのだろう。
傭兵、冒険者といった存在は常時国内に滞在している訳ではない、厚遇を受けるのは自然。
彼女は気まずそうな顔で手を振ると、2人を連れて足早に先へ進む。
建造物は大半が白を基調とした塗装が施されており、形状は様々だが妙に緊張する雰囲気だ。
いや、事実白色から潔白さ、誠実さを連想させるのは傭兵家業を国益とするエレエラ民主国にとって大切な印象付けなのかもしれない。
しかしそんな白い国に、黒一色の男。
襟付きコートを着用する黒髪で黒眼の巳浦は、付近の住民から忌避の視線を向けられた。
居心地悪いな、全く。
ヴェルウェラも黒の襟シャツに黒の首巻きを着けており似たような視線を突かれる。
そんな中、ゼンジャに手を引かれると最寄りの服屋へ連行される。
何か別の色をした衣服を着る事になった。




