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第一話 学生生活と裏の顔


 画面の中で火花が散り、無数の剣閃が交差する。

 戦況は常に一方的、片方が攻め、片方が後退し、防戦一方。

 そしてついに剣が弾き上げられ、刀のきっさきを喉元へと突きつける。

 勝負あり。

 そこで動画は途切れた。


「どう、だった?」


 画面から顔を持ち上げると、不安そうな面持ちが見える。

 動画で刀を突きつけていた時の凜々しい顔つきが今はどこへやらだ。


「あぁ、前よりも動きがよくなってる。けど」

「けど?」

「三手手前で決着は付けられた」

「……そっか、まだまだ甘いね、私」

「いや、上出来だろ。これで園内序列一位の座は引き続き美月みづきのもんだ。余所で言ったら顰蹙ひんしゅくを買うぞ」

「でも、四季しきには遠く及ばない」

「だとしても、この魔法学園では一番だ。名門校だぞ、ここ」

「序列の上では、だけどね」


 いつも通り、自分に厳しいな。


「とにかく、自信を持て。美月は強い」

「私の自信を粉々にしてるのは四季だけど」

「じゃあ、拾い集めて組み立て直せばいい」

「簡単に言うけど、それが出来たら苦労はしないの」

「へぇ、そうなのか。自信が砕けたことないから知らなかったよ」

「まったく、もう」


 そうふざけつつ、携帯端末を美月に返す。

 ちょうどその時、アラームが鳴った。


「ほら、時間だ。着替えるから帰った帰った」

「そうする。そうだ、今夜またお願い」

「あぁ、開けとく」

「それじゃ」


 立ち上がった美月がポニーテールを揺らして寮の部屋を後にする。


「ふああ……さて、と」


 それを見送り、学生服に袖を通した。


§


 繰り出される剣筋を的確に読み、握り締めた刀を弾かせる。

 得物を失い丸腰になったところに剣を突きつけられ、勝負はあった。


「そこまで、ソーンの勝ちだ」

「おっしゃ! これでイーブンだからな」


 頭に生えた獣耳がぴんと立つ。


「あぁ、今回は負けたよ」


 対戦相手で獣人のソーンと握手を交わすと、魔法領域が霧散する。

 それまで荒野だった景色が、訓練場へと回帰した。


「では、次」


 次の模擬試合のために場所を開けると、また魔法領域が展開。

 その中で行われる模擬試合の様子は空中に浮かんだ幾つかのシャボン玉に映し出されている。


「幼馴染みはあんなに強いのにな」


 ふと、後ろのほうからそんな話が聞こえてくる。


「気にすんなよ」

「する気にもならん」


 そうソーンの答えて、シャボン玉に映る模擬試合の様子を観戦した。


§


 大昔、この地球には人間と動物と虫しかいなかったらしい。

 魔法も魔物も存在すらしてなかったとか。

 それが今じゃ多種族が暮らしていて、生態系もかなり変わった。

 この京都も今じゃ異種族まみれ、景観もかなり変わって、和風なのはごく一部。

 日本家屋には人間とエルフしか住んじゃいない。

 昔の人がこの時計塔からの景色を見たら、なんて言うかな。


「四季。糸に反応があった」


 連絡を受けると、仮面を通して視界に京都の地図が映り込む。

 赤いマーカーが付いていて、目的地がわかりやすい。


「了解。すぐ行く」


 言いながら身を投げ出し、時計塔の頂上から落ちる。

 真っ逆さまになって地面がぐんぐんと近づくが問題ない。

 すぐに空間が引き裂け、その中へとダイブする。

 次の瞬間には時計塔から遠く離れた民家の屋根に足を下ろしていた。


「うわ、その瞬間移動、何度見ても心臓に悪いな」

「慣れたら面白いぞ、シルヴァも体験してみるか? 一回五百円」

「俺は勘弁、それで弁当買ったほうがマシだ。ほら、さっさと現場にいけ」

「わかってる」


 屋根を駆けて空間の裂け目に入り、また別の場所へと出る。

 その瞬間移動を幾度か繰り返し、ものの数秒で現場へと辿り着く。

 裂け目から飛び出て電柱の上に降り、眼下に納めるのは廃工場。

 赤錆びた敷地内には、とても従業員とは思えない武装した集団が徘徊していた。


「ここに例の子が誘拐されてるのか?」

「そうだ。熊のぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて、牢屋に閉じ込められてる」

「酷い連中だ。まだ四歳なのに」

「あぁ、そうだな。ロリコン連中からあの子を救おう」

「よし、任せろ。隠密でさくっと終わらせてやる」


 電柱から飛んで裂け目に入り、廃工場内の部屋に出る。


「けほっ、けほっ、掃除くらいしとけよな」


 埃の嫌な匂いに顔を顰めつつ、足早に廊下に出た。


「あ」

「ん?」


 扉を開けると、武装した男と鉢合わせ。


「なんだおま――」


 そいつの顎を殴って即座に意識を刈り取った。


「隠密がなんだって?」

「目撃者が消えれば隠密だ」

「そんな能動的な隠密があるかよ!」

「バレてないんだから良いんだよ!」


 とりあえず気絶させた男を埃まみれの部屋に閉じ込めた。


「肺炎になりそう」


 自業自得ということで。


「はぁ、肝が冷える。頼むから慎重にな」

「あぁ、わかってる。任せろ」

「その台詞の五秒後にバレたんだけどな」

「はっはー」

「笑って誤魔化すな!」


 敵に気取られないように、慎重に廃工場を進む。


「あ、おい! なんだあいつ!」

「ここには誰もいない!」


 廃工場の構造は仮面を通して視界に表示されているため迷うことはない。


「仲間が倒れてるぞ!」

「お前はなにも見てない!」


 一歩一歩着実に誘拐された子へと近づいてく。


「なんか物音がしたぞ!」

「気のせいだ!」


 そうして何事もなく、牢屋の真上にまで到達した。


「一つわかったことがある」

「なにが?」

「お前に隠密は向いてない」

「なに言ってる。実際、バレてないだろ」

「あぁ、巡回してる連中を片っ端から伸してたらバレないだろうよ! でも、時間の問題だ。いつ目が覚めるかわからないぞ」

「だな。さっさと救いだそう」


 懐に手をやり、シルヴァが開発した魔導具を四方に投げる。

 苦無くない型のそれは突き刺さると各々を魔力で繋ぎ、その範囲内を透過させた。

 廊下の床は判定をなくし、俺は真下の牢屋へと落ちる。

 華麗に着地を決めて顔を上げると、目を丸くした少女と対面した。


「やあ、助けに来たよ、お嬢ちゃん」

「ふ――ふぅう……」

「あれ? 泣きそう?」

「うぅうぅうううう……」


 つぶらな瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな少女。

 誘拐されて檻に入れられたんだ、無理もないけど泣かれるのは不味い。


「ちょーっと待った! 泣かないでくれ、頼むよ」


 そうは言ってみるが、泣き止む様子はない。


「四季! 仮面だ! 仮面が怖いんだよ!」

「あぁ、そうか。じゃあ、えーっと」


 仮面に手を当てて魔力を流し、その形状を変化させる。


「ほら、兎さんだよー」

「うぅぅうぅぅうううっ」

「兎はダメか。なら、猿はどうだ?」


 仮面を猿にするが、結果は同じ。


「ぐすっ……ぐすっ」

「おいおいおい、ヤバいぞ。今にも泣きそうだ! どうにかしろって!」

「やってるっての! あー、じゃあ、次は……」


 その時、ふと視界に熊のぬいぐるみが見える。


「そうだ。熊だ! ほら、くまちゃんだよー」


 仮面を三度作り替え、くまの仮面にして見せた。

 すると、泣き出しそうなくしゃくしゃな顔がぴたりと止まる。


「お? 行けるか? くまなら平気?」

「う、うん」

「よっし、じゃあ行くぞ」


 少女を抱え上げて振り返る。


「おっと、動くなよ」


 銃口を突きつけられた。

 前に一人、奥に三人か。


「その子を下ろしな、熊野郎」

「くまちゃん仮面って言って欲しいな」

「ふざけるなよ、くまちゃん仮面」

「言ってくれるんだ」


 意外とノリがいい。


「まぁ、待てよ。落ち着け。引き金を引いたらこの子にもあたるかも知れない。そうだろ?」

「その台詞だとどっちが悪役かわからないぞ、四季」


 シルヴァは無視。


「かもな。だが、このまま奪い返されるよりマシだ」

「マージか」


 四人に銃口を向けられて、一斉に引き金を引かれた。

 銃声と共になまり玉が飛び出し、高速でこちらへと迫る。


「なんてな」


 俺はそれよりも速く地面を蹴って跳び上がり、天井の穴から上階の廊下に出た。

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