006 作戦会議
本日はこのあと21時半に007を投稿予定です。
日が沈むまで気になったVtuberを片っ端からチェックし、また風呂に入り、夕飯を食べた。
今は自室で情報を整理している。
ちなみに夕飯はカレー。
これから七重と作戦会議をすることを考えると、ニンニクたっぷりの餃子よりはよかった。
……あれ?
そういえば、その会議ってのはどこでやるんだ?
オンラインでチャットなり通話なりするんだろうか。
七重も年頃の女子だし、そう何度も俺を部屋に迎え入れることはないよな。
と思っていたら、『来な!』というRINEのメッセージが届いた。
テンション高いな。
壮大な計画の始動に高揚しているのか。
来いって言われても、いつ行けばいいんだよ?
俺はスマホにそう入力しようとして――途中で指を止めた。
まさかとは思いつつ、椅子から立ち上がってカーテンを開ける。
「……いるし」
窓の外を見ると、同じようにカーテンを開けた七重がこちらに手招きしていた。
今すぐ行かないと、催促のメッセージが無限に届きそうだ。
パソコンをスリープモードにして……部屋の電気とエアコンはこのままでいいか。
部屋に戻ったときに暑いのは嫌だし。
俺はスマホを手にとってベランダに出た。
念のため、ちらっと左を見る。
そちらには沙都の部屋がある。
昨夜は意識していなかったが、あいつもベランダに出ていたりしたら問題だ。
更に奥は両親の寝室だが、2人はまだ1階でくつろいでいるようなので警戒は必要ない。
ちなみに、それぞれのベランダは繋がっていないが、間隔は頑張れば飛び移れそうなぐらい。
やろうとは思わないけど。
幸いにも妹の部屋は既に雨戸まで閉められていたので、心配は無用のようだ。
外の熱気は相変わらずえぐい。
なるべく物音を立てないように、かつ急いでベランダを渡る。
「お邪魔します」
「今日はまだお母さん達も起きてるから、気をつけてね」
「あいよ」
七重の部屋に入り、窓とカーテンを閉めた。
これでとりあえず一安心。
部屋の中央には、昨日はなかったちゃぶ台が用意されていた。
その上には湯気の立った紅茶とクッキー。
いい香りがする。
「気が利くじゃん」
「まぁね」
七重の服装は、昨日とはうってかわってTシャツに短パン。
俺とほぼ変わらないシンプルな格好だが、悪くない。
惜しげもなく晒された美脚が眩しい。
健康的で好印象。合格です。
俺は何かを勝手に認定しつつ、ちゃぶ台を挟んで七重の向かいに座った。
「じゃあ作戦会議、始めるか?」
「うん。まずは佑人の意見が聞きたいわね」
「俺の?超新参だぞ」
「1日調べてみて、どう感じたのかなって」
そういうことか。試されている。
「えーと、Vtuberって本当に人気なんだなって。チャンネル登録者が200万人超えてるのとか、桁を見間違えたかと」
「そんなのは1人だけどね」
「あとはそうだな……3Dが凄いな。モデルの出来もだけど、あんなに自然に動けるとは知らなかった。あっ、それと歌が上手いのも多いな」
「そうなのよ……」
ズズッと紅茶をすすると、七重はため息をついた。
「俺、なにか変なこと言ったか?」
「ううん。佑人が言う通り。でも、そのあたりはあんまり参考にならないかな」
「なんでだよ」
どんなジャンルで上を目指すにしても、その道の先駆者を手本にするのは基本だ。
Vtuberもそれは例外ではないと思うが……。
「第一に、あんな3Dモデルは用意できないでしょ」
「でもお前だって2Dのは自分で作れたわけだし」
「3Dのモデリングって、絵とはまた違うんだから。無料のいいソフトもあるけど、1日2日で習得できるようなものじゃないのよ」
「たとえば、誰かに頼んで作ってもらうと……?」
「わりと安くても数十万。こだわっていくと数百万円とか」
そりゃ無理だ。
専門的なことは全く分からないが、やっぱりあんなの作るのは大変なんだな。
「つまり、俺は2DモデルのVtuberになるわけか」
「そういうこと。絵は私が描いていいわよね?」
「ありがたいけど、それこそ金払わないと悪いだろ」
「なに言ってんの。私が頼んだことなんだから、それぐらいやらせてよ」
私でよければだけど……とごにょごにょ言う七重だが、そこはもっと自信を持ってほしい。
客観的に見て七重の絵は上手い。
商業のイラストに混ざっていても浮かないと思う。
少なくとも『絵のせいで人気が出ませんでした』ということにはならないはずだ。
「じゃあ任せた。やるからにはかわいいのを頼む」
「もちろん。明日から何枚かラフ描いてみる」
「こうやって話してれば、どんなVtuberになるかなんとなく決まりそうだな」
期間が2ヶ月と限られている以上、技術的にできないことは素直に諦めた方がいい。
持っている手札で勝負するしかないのだ。
俺はクッキーを1枚口にした。
厳しい現状とは違って、甘くて美味い。
「次に歌だけど、これも武器にするのは難しいでしょ。歌上手い勢はCDとか出してるレベルだから」
「俺はボイチェン使うわけだしなぁ」
女声で喋るのはソフトウェアの力と鍛錬でなんとかなるとしても、歌うのは厳しそうだ。
美少女Vtuberがあからさまな男声で歌うというのもネタにはなるかもしれないが、ちょっとアクが強すぎるだろう。
「私が思うに、ビギナーならまずはゲーム配信かなぁって」
「ほう」
思い出してみると、俺が聞いた七重――長月夜長の配信もホラーゲーム実況だった。
「ゲーム実況って、そのゲームについて喋ってれば無言にはならないし……」
「コメントと会話しようにも、最初のうちは誰もコメントしてくれないってことか」
「そう。人が集まるようになってきたら、雑談配信もいいけどね」
2Dモデルで、まずはゲーム配信を積極的に。
方向性は決まってきたか。
「あとは、個人勢は一芸に秀でてると強い」
「個人勢?」
「企業所属じゃないってこと」
企業所属とかあるんだ……。
まぁ確かに、毎日動画投稿なんてなかなかできることじゃないよな。
1日の大半を制作に費やすのであれば、それを事業にして活動を継続させていこうってのも納得がいく。
そういえば、バーチャルでない大物YowTuber達もよく事務所に所属していたっけ。
「レアな特技を持ってるってのは、キャラ被りしづらいってことよ。新人が『流行りのゲームやります』ってだけじゃ、なかなか厳しいでしょ」
「特技ねぇ」
「作曲ができるとか、ゲームが作れるとか、専門分野の深いトークができるとか」
「お前の『絵が描ける』ってのもだな」
「絵は……とんでもなく上手い人もたくさんいるから」
七重は難しい顔をする。
おいおい。
お前の絵が一芸として成立しないなら、俺には何があるってんだ。
「佑人の場合は、声が武器になる」
だよな。そういう流れだった。
考えないようにしていたのだが、この話はやはり避けられないようだ。
「なるかねぇ」
「ボイチェンも無料でいいのがあるから。私が絵を用意するまでの間、ちゃんと練習しておいてね」
「……はい」
絵面を想像すると、わりと地獄だった。
今さらやめるとは言えないが。
「すぐ決めないといけないことって、まだあるかしらね? 名前は、絵ができてからでもいいし……」
「そうだ。配信は当然として、動画投稿はやらなくていいのか?」
「う~ん」
渋い顔をして腕組みする七重。
おいおいおい。
昨日のロリータ服より薄手のTシャツ姿なので、持ち上げられた胸がかなりけしからんことになっていた。
―-平常心、平常心。
紅茶を飲んで心を落ち着ける。
「動画って、字幕付けるのとか編集とか大変みたいなのよ」
「でも、それで面白くなるならアリじゃないのか?」
「ナシではないわよ。でも、手をかけた分だけウケるわけじゃないの」
「割に合わない、と」
「作り手にも視聴者にも『動画なんだからきっちり面白く仕上げられた物になっているべき』って意識があると思うのよね」
それは必ずしも悪いことではないのだろうが、ハードルが上がるのは苦しいな。
なんせ動画編集なんてほとんどやったことがない。
お遊びで、友達がふざけている動画に字幕を付けてみたことがある程度だ。
こだわっていくと数分の動画を作るのに何時間もかかったりするらしいし、厳しいかもしれない。
「やりたいなら止めないけど、動画メインはおすすめしないかなぁ」
「だな。配信メインでいこう。打席に立つ回数を増やしたい」
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるの精神だ。
何がウケるかなんて、そう簡単に分かりゃしない。
「そう」
七重はホッとしたように腕組みを解いた。
支えを失った胸が『たゆん』と揺れたのなんて、全く見ていない。
我ながら見上げた自制心だ。
このストイックさで、配信ペースも高く保っていきたい。
この2ヶ月間、時間だけはある。
「それじゃ、今日はこんなとこか」
「あっ、このあと予定ある?」
「ん? 21時から見てみたい配信があるけど……」
あと5分で始まってしまう。
必ずしも見なくてはいけないわけではないが、わりと興味がある。
自分の部屋に戻る手間なども考えると、すぐにここを出た方がいい。
「よっつちゃんのやつ?」
「よく分かったな」
ピンポイントで当てられた。
それだけ有名ってことだろう。
『よっつ』とは、大人気Vtuberである四つ葉うさぎのあだ名の1つだ。
見た目は清楚な学級委員長、中身は奇々怪々なモンスター。
今日の昼間に軽く見ただけで、その強烈なパーソナリティに目を奪われた。。
「じゃあ一緒に見ましょうよ。私も見るつもりだったから」
「おっ。マジか」
それは都合がいい。
四つ葉うさぎは、少し前に活動開始から1年を迎えていた。
これまでの配信・動画を聞いていないと分からないネタもあるだろう。
横で補足してもらえると助かる。
「椅子、これね」
学習机とセットになっていたものであろう、シンプルな木の椅子を勧められた。
俺はそれを七重のゲーミングチェアの左横に運ぶ。
そして、2人並んでパソコンの前に座った。
……これ、肘がぶつかったりとかそういうのちょっと気になるな。
七重は全然意識していないようなので、俺も顔には出さないが。
「いくつか動画見たけど、この子のトーク力は凄かった」
「でしょ。芸人寄りのキャラだから勉強になると思うわよ」
そんな話をしているうちに、もう21時だ。
配信ページにアクセスすると、ちょうど配信が始まった。
「皆さんこんばんは~、四つ葉うさぎです。校則、ちゃんと守ってますか?」
もし面白いと感じていただけましたら、最新話下部の評価・作品ブックマーク・感想などよろしくお願いします。
活動報告もこまめにしていくつもりです。




