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9 洞窟に潜むもの

「あっ! 見つけたよ」


 匂いの追跡を始めて20分後。

 森の中を歩き続けていると、先頭を歩いていたブランカが前方を指差した。


 木々を抜けた先には岩石地帯が見えている。

 そこに3人の冒険者たちが集合していた。


「ブランカ。悪いけど、もう少しだけ図鑑の中にいてもらうぞ」


「うー。なるべく早く出してね」


 図鑑へブランカを収容すると、俺は3人組へと声をかけた。

 かなり驚いた様子の3人だが俺が無事であることにほっとしてくれたようだ。


「大イノシシに遭遇なんてイレギュラーは起きたが、無事目的の場所には辿り着いた。さてさて、ここからが本番だ。頼むぜ、兄ちゃん」


 金髪男が元気よく歩き始めた。

 3人組は岩石地帯そのものには入らず、森と岩石地帯の境界を移動するようだ。

 やがて、俺たちの前方に洞窟の入り口が見えて来た。岩場から滝が落ち、川が形成されているのだが洞窟はその滝の横にある。


 中に入った3人組はランプを取り出すと、ずんずんと進んでいく。その足取りに迷いはなく、彼らが日常的にこの場所へと通っている事が伺えた。俺も指先へと光を灯しその背を追っていく。


 洞窟内は地下水の影響なのかしっとりと冷えている。

 時折転びそうになりながら進む俺。

 やがて3人組の歩みが止まった。


「これが例の扉って奴?」


 俺の問いに3人が頷いた。

 洞窟の細道を抜けたその先にあったのは円形の扉だ。岩を削って作られているようだが、扉全体に呪文が刻印されている。魔法の力で封がされているのは間違いない。

 中央部分には三角形の刻印がされている。そこが魔力の核らしい。おそらく一定の魔力を注げば封が解かれる仕組みだろう。


 3人組が期待の表情で俺を見てきた。

 俺は刻印へと手をかざすと、自分の魔力を扉へと流し込んだ。


 円形の扉は中央部分が縦に割れ、左右へと開いた。

 それと同時に三角形の刻印から青く輝く宝石が浮かび上がって来た。なんだこれ?


「おお! サファイアだ!」


 感嘆の声を3人組が上げた。どうやら魔力を注ぐと宝石が出現する魔法が仕掛けられているらしいが、意図分からない仕掛けだ。なんのためにこんな魔法が施されているのだろうか。


「やったぜ、兄ちゃん。早速中を調べよう、と言いたいところだが何か魔法の仕掛けがあるかもしれないな。兄ちゃん、悪いんだが中に入って魔法の痕跡とか調べられないか?」


「ここまで来たら俺もこの奥が気になる。良いですよ」


 金髪男からの提案を承諾し、俺は扉を抜け中へと入った。


 真っ暗な空間が広がっている。足音の響き具合からして、それなりに広い空間が広がっているようだ。

 

 俺が魔法の痕跡を探そうと神経を集中した時だ。

 

 どーんという重低音を響かせながら魔法の扉が閉まってしまった。

 振り返った俺は急いで扉の前へ戻るが、どうも内側からは開けることができない品らしい。


「ぎゃははは! 悪く思うなよ兄ちゃん。おかげで宝は手に入った! あばよ!」


 扉の向こう側から金髪男の声が響いてくる。宝が手に入ったってあの青い宝石のことか?


 疑問が頭に浮かぶ中、俺は背後から気配を感じ反射的にしゃがみこんだ。


 俺の頭上を何かが通り過ぎた。一瞬巨大な蛇かと思ったが違う。

 ぬめぬめと粘液に覆われたピンクの肉塊。

 俺の頭上でぐねぐねと動いた肉塊は猛烈な勢いで空間の奥へと消えていった。

 

 俺は灯の魔法を強め、空間全体を照らす。そしてそこにいた存在を見て顔を引きつらせた。

 

 巨大なカエルがいた。空間内はほぼ円形ですり鉢状になっている。その中央部分は水たまりとなっていて、そこから半身を出した巨大なカエルが鎮座しているのだ。人間くらいなら一口で食べられそうな大きさだ。


 今の肉塊はこいつの舌だったらしい。


 俺が『魔物図鑑』と取り出すと自動的にページが開いた。


『名称:エメラルドフロッグ

 名前の由来にもなった緑色のクリスタルに似た皮膚を持つ巨大なカエル。餌の魔力に応じて皮膚から宝石を産み落とす。動きは鈍重だが、長い舌で遠方の餌を引き寄せる。待ち伏せが得意。魔法の罠を使う個体もまれに存在する。

 捕獲条件  気絶させる。もしくは一定値まで魔力を消費させる。

 状態    空腹。捕獲条件未達成』


 この空間はこいつの狩場なようだ。

 魔法の扉を潜れるような魔力のある餌を待ち伏せ、食べるための場所。

 そして俺はまんまとこいつの罠にかかってしまった獲物というわけか。


 俺の灯火魔法の光が弱まる。

 どうにも魔法が制御しにくい。壁へと目をこらすとうっすらだが魔法陣のようなものが刻印されている。こいつによって俺の魔法が妨害されているらしい。


 なぜそんな魔法陣が刻印されているのかは不明だが、今大事なのは目の前のカエルが俺を食う気満々であることだ。

 カエルは二撃目を放った。

 鞭のようにしなる舌が俺へと襲いかかる。

 俺はそれを回避すると、ブランカを呼び出した。


「むわー。やっと出れた! ってまた変な奴いるし!」


 現れたブランカは舌の攻撃を回避しつつぼやいた。


 突然出現したブランカに驚いたのか、エメラルドフロッグの攻撃が止んだ。

 拳を握りエメラルドフロッグを睨みつけるブランカ。

 睨まれた魔物は後ずさりしている。


「ナイト。この状況は何? 私は何すれば良いの? このカエルを殺せばいい?」


 腕を鳴らしながらブランカが質問してくる。

 エメラルドフロッグは言葉が分かるのか、ブランカの『殺す』発言を受け体を振るわせ始めた。


「いや、殺さず気絶させてほしい。捕獲する。こいつは金策に使えそうだからさ」


 俺の指示を受けブランカが動く。

 勝負と呼べるレベルではない。ブランカの速さにエメラルドフロッグは反応もできず、そのパワーには抗うこともできなかった。顔面を殴られ吹っ飛ばされたエメラルドフロッグは気絶し、俺によって図鑑へと収容された。


「ご苦労さんブランカ。ついでにあの扉を破壊できるか? どうもここにいると魔法がうまく使えないんだ。お前のパワーが頼りだ」


 俺はちらりと岩に刻まれた魔法陣を見る。

 あの大男の言葉通り、大多数の魔法使いは基本的に体を鍛えていない。魔法に頼っているぶん、その魔法を妨害されれば一般人より弱い存在にだってなり得るのだ。

 魔法陣による魔法の妨害。

 扉を抜けここに閉じ込められた魔法使いは、ほぼ無抵抗でエメラルドフロッグの餌食になるだろう。


 入り口の扉を維持していたのはエメラルドフロッグの魔力なのだろうが、扉を形成したり魔法陣を刻印したのは、どう考えても別の存在だろう。エメラルドフロッグ以上の魔力と知能と、悪意を兼ね備えた存在だ。


 ブランカによって無事に脱出した俺は洞窟を速やかに出ると、外の川へとエメラルドフロッグを召喚した。

 図鑑内の空間で餌を食べていたらしく、エメラルドフロッグは落ち着いている。

 その体からは手の平サイズの青や緑色の宝石がポコポコと浮き出ていた。


「これを売れば他所の国でも金が手に入るな。いい財布を見つけた」


「おお。じゃあ牛肉も食べられるよね! よっしゃあ! 早速お肉食べに行こうよ!」

 

 じゅるりとよだれを垂らすブランカの頭を撫で、俺は首を横に振った。


「その前に『お仕置き』と『お礼』に行くとしようかな。ブランカ、またあの3人を探してくれ」


 俺の言葉にブランカは首を傾げたが素直に匂いを辿り始めたのだった。





 『石畳の国』へと向かう道中にある小さな森。

 その外側に沿って歩くのはナイトを嵌めた3人の冒険者たちだった。


「今回も上手くいったな。若い魔法使いってのは扱いやすくて助かるぜ」

 

 金髪の男が青い宝石を指で弄びながら横を歩く仲間へと呼びかけた。


「あの兄ちゃんはちょっとばかり体術の心得もあるようだが、さすがに限られた空間で武器も無しに魔物から生き延びられはしないだろう。今ごろはカエルの腹の中だ」


「活きのいいボウヤで良かったわ。魔力が弱いとか言っていた割には今まで一番大きい宝石を取り出してくれたわね」


 金髪女がうっとりとした表情をしてみせる。宝石で得た金の使い道でも妄想しているのかもしれない。


「誰があんな魔物と罠を用意したかは知らないが、俺らとしちゃあいい小遣い稼ぎだぜ」


「魔法使いに扉を開かさせるだけで宝石が湧くんだからな。中に魔法使いを閉じ込めれば追加でさらに宝石が出るし」


「本当に便利よね。採掘みたいな重労働せずに大金ゲットだもの」


 3人組が今日の成果に大笑いで喜んでいると、


「「「……えっ」」」


 彼らの前方に強大なイノシシーーワイルドボアが一頭出現したのだった。


 こんな小さな森に魔物がいるなど想定していなかった3人は硬直する。

 やがて、3人へとワイルドボアが突撃してきた。


 慌てて逃げ惑う3人だが、彼らが逃げた先にはこんな森にいるはずのないエメラルド色に輝く巨大なカエルが一匹鎮座していた。

 

 ギョッとする3人へとカエルは長い舌を放ち、鞭のように3人へと攻撃を加える。

 避けきれず大男と金髪女が吹き飛ばされた。

 何とか回避した金髪男も、体勢を崩したところをワイルドボアに跳ね飛ばされてしまった。


 魔物の攻撃を受け痛みと恐怖に呻く3人はやがて気絶した。

 その3人の前に巨大カエルが近付く。

 カエルは彼ら3人の前へとそれぞれひとつずつ体から生えた宝石を置いていった。

 カエルの作業が終わると、2頭の魔物は霧のように消えてしまった。




「うー。もっと痛めつけてやればいいじゃん! 足くらいへし折ってやったら?」


 3人組が気絶している様子を少し離れた小岩の上から俺とブランカは見ていた。

 口を尖らせ不満そうな顔でブランカは俺へと問いかけてきた。


「気絶させるだけで十分だ。鬱憤は晴れたからそこまでする必要はないよ。それに、今回のことは騙された俺も悪い。『人を簡単に信用してはいけない』。頭では理解しているつもりだったけど、まだ俺は甘いな。

 それに、あの連中が出国させてくれたことに違いはない。宝石を置いたのはそのことへの感謝と、貴重な『失敗』を経験させてくれたことへの授業料ってところだな」

 

「ふーん。私なら四肢を砕いて森の中に放置してやるのに」


「あいつらの顔は覚えた。また俺たちに危害を加えてきたときは容赦無くそうしてやろう。今はこれでいい」


「はいはい。ナイトの言う通りにするよ。で? 今からどうするの?」


「昔見た地図だと、この先に小さな国があるはず。そこで今日は休もう」


「牛肉あるかな」


「多分ね。ブランカは頑張ったから食べさせてやるよ」


「うー。じゃあ早く行こ!」


 ワイルドボアとエメラルドフロッグ。

 新しい魔物2頭を手に入れ、俺たちは国へと歩み始めた。


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