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8 捕獲と召喚

 大男に連れられ、俺は小さなテントへと案内されたのだった。


「おい、連れてきたぜ」


 大男の呼びかけにテントの中から2人の男女が出てきた。

 大男ほどではないが鍛えられたガタイの良い金髪男。

 グラマラスな体を見せつけるかのように露出度の高い服を着た茶髪女。


「ふーん。そいつが魔法使いなわけ?」


 金髪男がだるそうに訪ねてくる。

 茶髪女は男へと絡みつきながら俺へと小馬鹿にするような視線を送ってきた。


「ああ。出国したいそうだ。魔力は弱いらしいが門を開けるには問題ないはずだ。良いだろ?」


 大男が答える。金髪男は頷いた。


「冒険者だそうだけど、どうして魔法使いが必要なんです? この人にはもう説明したけど、俺は魔法使いとしては結構低レベルですよ」


 俺は3人に向けて問いかけた。金髪男が口を開く。


「何だ、説明していないのかよ。兄ちゃんの言うように、俺らは冒険者だ。『石畳の国』の外にある洞窟を調べている。宝とか鉱石を見つけてそれを売っているわけよ。で。この前新しい洞窟のルートを見つけたんだが、その先は魔法の門があってさ。魔力を注入しないと開かない仕組みだった。だから魔法使いがいるんだ」


「出国の手助けはするから、門を開けるのを協力しろってことですか」


「その通り。魔法使いはレアだから、思いの外早く見つかってほっとしてる。早く門を開けないと他の冒険者に横取りされるからな。それで、お前はどうする? 俺らに協力するのか?」


「……その洞窟ってどのくらいの距離にあるんです?」


「4時間も歩けば辿り着く。ムチャクチャ近いだろ? 穴場だぜ」


 俺は考える。それなら明るいうちに作業を終わらせて、夜にブランカを出してやることは出来そうだ。

 幸い図鑑の中は快適なようだし、あと半日くらいならブランカも我慢するだろう。


「分かった。協力するよ」


 俺の返事に3人とも満足げな表情を浮かべた。




 城壁を抜けた先にはしばらく平原が続いている。

 農作業や酪農は基本的に城壁の外で行われるのが『石畳の国』のスタイルだ。

 平原のあちこちに放牧された牛などの家畜が気ままに歩いている。

 

 生まれた初めて見た外の世界に、俺は興奮を隠せない。

 書物や記録魔法で触れた情報だけでは感じられない本物の空気。

 荷物を抱え3人の冒険者の後ろを歩きながら俺は周囲をキョロキョロと見てしまう。


 ーーすごい。これが外の世界か。


 興奮冷めやまぬまま、歩くこと4時間。

 平原を抜けた先に現れた広大な森。

 その入り口にやってきた俺たち4人は一度休憩を取ることになった。


「魔法使いってのは体力のないヒョロヒョロな奴ばかりだと思ってたけどよ。兄ちゃんは案外体力あるのな」


 道中に俺が息切れもペースも落とさないことが意外だったのだろう。大男がそう言葉を発した。


「友達が魔法騎士なんですよ。そういうわけで剣術や体力作りに付き合わされてましたから」


 なるほどね、と言いながら大男は豪快に携帯食料を口にした。


 すると、森の方から鳥の鳴き声が聞こえてきた。何と言うか(さえず)るなんてレベルではなく、恐怖に駆られて叫んでいるようなやかましい声だ。


 3人の行動は早かった。

 地面に置いていた道具を急いで鞄にしまい込むと、森の外周に沿って駆け始めたのだ。

 俺も3人に習い、荷物を片付けすぐに後ろを追う。

 森の方からは鳥の声に混じって何か巨大な物が走ってくるような地響きが聞こえてきた。


 3人に俺が追いついた時、森の入り口にそれは現れた。


 巨大なイノシシ。そうとしか形容できない外見の生き物だった。

 木々を数本なぎ倒しながら現れたそのイノシシは、息を荒げ足で地面を掻いている。 

 そしてその双眸が逃げる俺たちの姿を捉えると、こちらに向かって突撃してきた。


「何で大イノシシがこんなところにいるんだ! こいつは森のずっと奥に住んでるはずだろ!」


 金髪男が喚く。

 冒険者である彼らにとっても、この場所で大イノシシが出現することは想定外だったようだ。

 

 先頭を走る3人は剣などの武器を所持してはいるが、対人用の一般的な武器に見える。

 魔物を倒す専用の武具でなければ、大イノシシ相手に牽制は出来ても倒すまでは行かないだろう。

 攻撃手段のない俺たちは逃げるしかない。


「バラけるぞ。例の洞窟で集合だ!」


 大男が指示を出す。

 3人が別々の方向へと森の中へ入っていった。なるほど分散させて逃げるか。良い手だ。

 

 ーーん? いや、待て待て! 俺はその洞窟の場所知らないんだが!


 そうこうするうちに3人の姿は森の中へと消えてしまった。

 追い討ちをかけるように、後ろにいる大イノシシは3人ではなく俺を追いかけてきた。


 俺は3人に習って森へと入る。大イノシシも全力で俺の後ろへと付いてきた。


 スタミナには自信があるが、魔物相手に持久戦は勝ち目がないだろう。

 後ろから大イノシシの息遣いが聞こえてくる。

 強大な力を持った存在が、俺と言う存在を仕留めようと迫ってきた。


 俺は『魔物図鑑』を取り出し、ブランカのページを開けると『召喚』と書かれた項目を押す。


 図鑑のページからブランカのイラストが消えた。

 それと同時に、


「ぬわぁっ! なにこれ!」


 呼び出されたブランカは俺の隣に出現し、後方に迫る大イノシシに驚きの声をあげながら俺と並走し始めた。


「悪いブランカ。色々あってデッカいイノシシに追われてるんだ」


「何が起こったし! いつのまにか森にいるしさ、状況が全然分かんないんだけど?」


「とりあえず今はピンチだ! ブランカは強いだろ? このイノシシを追い払えるか?」


「楽勝!」


 そう言うや否や、ブランカの姿消えた。

 あっけに取られる俺だったが、


「ブッホォォォ!」


 後ろから聞こえてきた獣の悲鳴に足を止めた。

 

 大イノシシは横へと吹っ飛ばされていた。

 飛ばされた大イノシシの体が木々を数本なぎ倒し、地面を転がり止まる。

 ごろりと寝転がった大イノシシはぐったりと身動き一つ取らなかった。

 

 先ほどまでイノシシがいた場所には拳を突き出したブランカがにんまりと笑って立っていた。


「どう? 私、強いでしょ?」


 白い歯を見せながらブランカが自慢げに笑顔を見せる。

 

 正直なことを言えば俺はブランカの強さに半信半疑だった。

 何せ外見が17歳くらいの細腕少女なのだ。

 

 実際にブランカの動きを見るにあたり、俺は認識を改める必要があるようだ。

 彼女は強い、

 

 大イノシシの側まで近づいた俺は『魔物図鑑』を取り出した。


『名称:ワイルドボア

 大イノシシとも呼ばれる。巨体とそれに見合うパワーを持つ魔物。魔力は低く、一般的な武具でも熟練者ならば討伐可能。肉は固く、食用には向かない。

 捕獲条件 「達成」  

 状態   「捕獲可能」』


 真ん中のページあたりに大イノシシについての記述が加えられていた。

 やはり魔物と遭遇することで図鑑はどんどん情報が増えていくらしい。

 

 気になるのは『捕獲可能』という項目だ。

 捕獲条件が「達成」となっているのは、ブランカによって行動不能なほどに痛めつけたからだろうか?

 

「うー。ワイルドボアかぁ。こいつ美味しくないんだよね。ナイトを傷つけようとしたわけだし、止め刺そうか?」


 ブランカが指先から鋭い爪を出すとイノシシの首元へと近づけた。


「待てブランカ! ちょっと試してみたいことができた」


「んー? 何するの。食べるの?」


「捕獲する」


 俺はページ下部に出現した『捕獲』という項目を押してみた。すると一瞬ワイルドボアの輪郭が歪み、次の瞬間にはその姿を消した。


「おお! 消えたよ、ナイト! 図鑑の中にいるの?」


「ああ。見てごらん」


 俺は図鑑のページをブランカに見せた。


 ブランカの時と同じくページの左上に出現した黒い正方形。その中に写実的なタッチで書かれたワイルドボアのイラストが出現していた。


 下には、『回復』『図鑑に戻す』『召喚』の項目もある。

 俺は回復を押してみた。すると、イラストのワイルドボアが緑色の光に包まれた。光はゆっくり点滅し始め、やがて元に戻った。


「次は『召喚』だ」


 『召喚』の項目を押してみると、ワイルドボアが俺たちの目の前に現れた。

 ダメージは回復したらしく、しっかりとした足取りで歩いている。


「伏せろ」


 命令を出すと、すんなりとワイルドボアは伏せをしてみせた。


「こうやって魔物を仲間にできるわけか。理解したぜ」


 『図鑑に戻す』を選び、俺はワイルドボアを消した。


「ふーん。でも私の時って『捕獲』なんてしたっけ? 気がついたらナイトの図鑑の効力を受けていたような気がするけど」


「ひょっとしたら、最初に出会った1匹目の魔物は無条件で仲間に出来るのかもしれないな。だとしたら出会ったのがブランカで良かったよ」


「え?」


「だって会話できるし、強いしさ。頼もしいじゃん」


「ふ、ふん。まぁ、私は誇り高い狼人間だからね。猪程度に遅れなんて取らないわ。ナイトも運が良かったね。私が最初の魔物でさ。感謝してもいいよ」


 腕を組み得意顔になるブランカだが、よく見ると服が少し動いている。

 どうもそれは尻尾を振っているからのようだった。

 『魔物図鑑』のページをめくって見ると、


『狼人間(純血)  状態:大歓喜。もっと褒めて欲しい』


 と書かれている。


「やっぱ犬じゃん」


「ん? 何か言った?」


「別に。ところでブランカ。俺は今3人の冒険者と出国しているんだ。一応約束だから仕事をしないといけない。でも3人とはぐれてさ。ブランカは嗅覚が良さそうだから、彼らの匂いを辿れるか?」


「そんなの楽勝だもんね! 道中魔物が現れたら私がぶっ飛ばすよ」


「頼もしいな。殺さない程度にしてやれよ」


 任せて、と嬉しそうに地面の匂いを嗅ぐブランカ。その姿はーー


「やっぱ犬じゃん」


「ん? なんか言った?」


「いや、何でもない。頼むぜ狼」


「くーん。任せろって!」



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