↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/106

昔のスタイルと違うところ

 寮に住んでいた頃、僕たちは朝まで語り明かすことが多かった。 

 そんなときは、公平を期するために、お互いの部屋を交代交代に使うようにしていた。話に熱中するあまり、飲み物をこぼしたり、スナック菓子の欠片などで部屋を汚すことがあったからだ。

 でも、どちらの部屋でも、僕は、ソファ。Pは、床にひいた毛布の上と決まっていた。

 一見不公平に見えるかもしれないが、何度もソファから転がり落ちたPからの要望で、そうなった。Pは極めて寝相がわるいのだ。

 ついでに言うと、天井を見上げた状態で話をするようになったのは、目が合うと、気恥ずかしさが先に立ち、つい話が止まってしまうから。この件については、どちらからともなく、そういうことになった。

 反対意見大歓迎。質問の種類に制限無し。ただし、答える答えないは、相手の自由。眠くなったら、いつでも眠ることができる。

 これが、夢を語り合っていた頃、自然にできあがった僕たちのスタイルだった。

 しかし十年経ったその日、何カ所かが、当時と違っていた。

 Pもソファで寝た。

 と言っても、僕と同じソファに寝たわけではない。どういうわけか居間には、ガラスのローテーブルを挟んで、ピンクと黄色の三人掛けのソファが二脚並んでいたのだ。

「以前付き合っていた女の子が、ピンクの長椅子でなきゃ眠れないというもんだからな」帰りに買ってきたつまみ類を、タッパーに移し替えながら、Pは照れたような顔で言った。「今じゃ、邪魔になってしようがないんだ。どっちでもいいからもらってくれないかな」

 Pの目に叶った彼女なら、さぞかし美人だったのだろう。でも、人の彼女が使ったソファをもらうほど、落ちぶれてはいない。それに、僕は座り心地の良いソファを持っている。

 要らないよ、そんなもの。

 と言う代わりに、僕はテーブルにあったリモコンでテレビを付けた。そしてキッチンへ行き、冷蔵庫にぎっしり詰め込まれている飲み物の中から、コーラとジンジャーエールのボトルを選んで、ソファに寝転んだ。

 テーブルには、つまみが入ったタッパーの他に、メーカーもサイズも違う缶ビールが6本並んでいた。

 夜遅くまで会長のお供をするPは、自分の部屋で、食事やアルコールを口にすることが殆どないらしい。

「この際だから、飲み比べをしてみるよ」反対側のソファに寝転んで、喉をコクコク言わせて、最初の一本を飲み干したPは「実を言うと、寝る前に、確認しておかなければならないことがあるんだ」と言った。

 確認と聞いて、有給休暇の日数を訊かれていないことに気づいた。と同時に、僕自身、何日滞在するか決めていなかったことも思い出した。

 たぶん、帰りの便の手配のため質問。それにどう答えれば、一番いいのか考えてみた。しかし、無遅刻無欠勤が自慢だった僕は、有給休暇を取ったことがなかった。

 そういえば、ニュースキャスターは、ゴールデンウィーク明けか、夏休みの途中で、一週間程度の有給休暇を取る。しかし僕が住んでいるのは鹿児島。地方の零細企業の平社員なら、三日が妥当だろう。それに、抽選で当たる招待旅行も、大体が二泊三日。

 そのような結論に達した僕は、肘掛けに頭をのせたまま、香ばしい匂いで僕を誘うビーフジャーキーに手を伸ばしながら訊ねた。

「何だよ、その、確認ってやつは」

「これから、どうするつもりなんだ」

 僕たちの間では、主語抜きで始まる質問は珍しくない。てっきり、僕が行きたいところを訊かれたと思った。

「そうだな」僕はジャーキーを頬張りながら答えた。「今夜は俺の話を、たっぷりと聞いてもらう。明日は、秋葉原の電気街をうろつく。その後は未定だけど、帰るのは明後日の昼」

 十秒ほどの沈黙の後、Pは言った。

「俺が訊きたかったのは、そんなことじゃない。お前の仕事の事なんだ。派遣社員登録さえしておけば、自分に合った仕事が来るとでも思っているのか。時給720円で満足しているのか」

 どうして、こいつは、こんなに詳しいことを知っているんだ。

 疑問と共に、先ほど打ち消した疑惑が頭をもたげてきた。

 僕は、体を起こしてPと向き合った。

 やっぱり俺の身辺を調べていた。時給額まで知っているということは、徹底的に調べ上げた証拠。怒りに近いものが、喉の辺りにこみ上げてきたが、今日の自分は、形的にはゲスト。それを飲み込んで、低い声で、

「どうして、そのことを……」

 と言ったところで、やっと自分のバカさ加減に気づいた。

 さっきホテルで、言った。支配人とオーナーの息子に、何度も言った。当然、Pの耳にも届いていたはず。だが、ここは、あれは冗談だったんだよ、で押し通さなければならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。