幸子の章
——あそこの家
今でもたまにそのアパートを指差す人がいる。全国紙にのったのだから、しょうがないよね……。
あの後、
お姉ちゃんは再婚をした。
太郎君はうちで預かった。サラッと言う事じゃないと思うけど、育児放棄だ。色々と、その際に生じた摩擦はあったが、時間が経過し落ち着いた。
お姉ちゃん、太郎君中学生になったよ。
興味ないかもしれないけど、
時折寂しそうだよ。
……。
「お母さんに会いたくない?」
少し彼は悩む。
「……必要ないですね。
会ってどうします? 幸さんは知っているでしょ?
僕は……酷い暴力を受けていたのですよ?
それに……。
体の傷は癒えていますが、当時を思い出すと酷い頭痛がします。だから、もう……」暗く目を伏せ、
「いずれ会いたくなったら考えますよ」と締め机に向かった。
奨学金制度で高校に入りたいそうだ。僕は頭が良くないから、人よりもやらないと、そう言う。机に噛り付くを文字通り体現している。
私たちは身内なのだから甘えればいいのに……。
ふと、あの事件を思い出す、あれは私たちも殺されておかしくなかった。
凶器の血で汚れた金属バット。うちの玄関先に投げ込まれた。
ゾッとする。
裁判は最高裁までもつれ込み、無期懲役で収監されているとは言え、彼は現実に生きている。
彼は……。(目が眩む、意識的にに閉じ込めておいた記憶の蓋が少し開いてしまったようだ……)




