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水滴の音が聞こえる。ぽちゃんぽちゃん、耳障りだ。
蛇口をひねるが水は止まらない、なぜなら寝ぼけた妄想だから、水滴の音は現実だ。
「うぅ」
ずっしりとした重力を引きずりながら、台所を目指す。「うぅ」
台所にたどり着くと、洗面器いっぱいに水が溜まり、表面に水滴が滴ると、波紋が広がっていた。
蛇口をギュッて絞る。
シンクの傍に手をかける。1つ大きなアクビをする。
寝室に戻り。いびきをかく、彩子、太郎を眺める。
幸せだなあ、と。
なんで僕はあの時、飛び出して行ってしまった。
彼女らが、愛しい。胸が甘くなる。
生まれてきて良かったと思えた。




