表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

誰?


魔法が日常に溶け込んだ世界。

照明も交通も通信も、すべては魔力を電力へ変換することで成り立っている。

そして魔法は防犯や仕事などに使われる。


便利になった社会の裏で、人々は一つの脅威と共存していた。

―擬態型生物。


中でも“フェイカー”と呼ばれる存在は特別だった。

そいつは対象の姿形だけでなく、能力・癖・声・記憶の断片まで模倣する。

だが、完全ではない。

性格だけは、どうしても真似できない。


だから見抜けるはずだった。

―本物を知っていれば。

ヴェルトは探偵だ。

まだ若いが、擬態系の案件を専門に扱う変わり者として知られている。


理由は単純だった。


二年前、親友が消えた。


アルファ。

優しくて、少し抜けていて、でも誰よりも人を気にかける少女。


彼女は、あの山へ向かったまま帰ってこなかった。


山は今も封鎖されている。

半径100メートル以内は鉄柵で囲まれ、近づくことすら許されない。

麓では、異形の魔物が頻繁に発見されていた。

そして、戻ってきた人間は今のところいない。



「アルファを見つけてほしい」


その依頼を受けたとき、ヴェルトはすぐに違和感を覚えた。

“見つかっているはずの人物”を探せと言われたからだ。


指定された場所にいた少女は、確かにアルファだった。

顔も、声も、仕草も。

懐かしい笑い方まで、何一つ違わない。


―ただ一つを除いて。


「ねえヴェルト。そんな顔、前はしなかったよね」


その言葉に、温度がなかった。

アルファなら、そんな言い方はしない。7歳からの仲だ。それくらい分かる。


もっと柔らかくて、もっと相手を気遣う。

それが、ヴェルトの知る本物だった。


(こいつは違う)


確信は一瞬だった。

だが、ヴェルトはそれを表に出さない。


「……久しぶり。アルファ」


あえて笑う。

フェイカーは、対象の隣に居続ける。

観察し、学習し、完全になるために。

なら、利用するだけ。


ヴェルトはその日から、アルファの隣に居続けた。

親友として。

再会を喜ぶ“フリ”をして。

だが内心では、ずっと探している。

こいつの綻びを。

化けの皮が剥がれる瞬間を。


「…悪い。急だったから片付けが間に合わなくて」


ヴェルトは、アルファの自宅のリビングで、埃の被ったソファを指差した。

主がいなくなってから二年間、ヴェルトが管理し続けてきた場所だ。

魔法式の防犯結界を更新し、空気を入れ替え、いつか彼女が帰ってきた時のために、あの日のまま時を止めていた。


「ううん、全然! ボクの家だもん。」

「…あ、ヴェルトがボクの帰りを待っててくれた証拠だね。嬉しいな」


アルファはそう言って、慣れ親しんだはずのソファに、弾むような足取りで腰掛けた。


その軽やかな動き、少しだけ外側に跳ねた髪の毛。綺麗な短い銀髪と金色の瞳。

記憶の中にあるアルファそのものだ。

だが、ヴェルトの視界の端では、ポケットに入れた魔力測定器がかすかに震えていた。


家庭用電力として供給されている魔力エネルギーが、彼女の周囲で不自然に渦巻いている。


「どうしたの? ヴェルト」


「…いや。お前、少し痩せたかと思って」


ヴェルトは、あえて視線を外しながら言葉を絞り出した。



この部屋の空気を吸うたび、二年前のあの日がフラッシュバックする。


「ねえ、あの山に行ってみようよ! 絶対何か面白いものがあるって!」


このリビングで、無邪気に笑うアルファに、俺は呆れ顔でこう返したんだ。


「バカ言え。あそこは立ち入り禁止だ。危険だからやめとけ。俺は行かないぞ」


俺があっさりと断ったから、彼女は一人で山へ向かい、そのまま消えた。


(俺が、あの時止めていれば。あるいは、無理にでも連れ戻してやれば)


その悔恨を糧に、俺は探偵になった。なのに、今目の前に座っているのは、俺が一番拒絶したかったはずの、山からの“偽物”だ。



「ボク、あそこでのこと、あんまり覚えてないんだ。気づいたら柵の外にいて、誰かに『ヴェルトに会いに行け』って言われた気がしてさ」


アルファは、ソファの上で膝を抱えて笑う。その笑顔に、ヴェルトの瞳には冷たい光が宿った。やはり、この偽物を送り込んだ「意志」が山の向こう側に存在する。


「そうか。…なら、今日はもう休め。俺は、お前の部屋が使えるか確認してくる」

「うん、おやすみ。ヴェルト」


彼女は素直に横になり、目を閉じた。呼吸の音、寝返りの癖、すべてが本物と同じリズム。

ヴェルトは彼女の寝室へ入り、ドアを閉めた。暗い部屋の中で、かつての親友が使っていた机を指でなぞる。


(……剥がしてやるよ。その完璧な皮を)


あの日、俺の言葉を無視して山へ行った本物のアルファは、どこへ行ったのか。

その本当の続きを暴くために、俺はこの偽物の隣で、親友のフリを演じ続ける。


あいうえお

かきくけこ

さしすせそ

たちつてと

なにぬねの

はひふへほ

まみむめも

やゆよ

らりるれろ

わをん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ