69話
レイ・フェリックスはふと疑問に思った。
「ところでラウツさんはチャンネル登録してくれてるんですよね?」
「しとらんな」
もやしの神「ラウツ」があっさり言った。
「何でですか、してくださいよ」
「ワシはあまり人間の生活に興味が無いのだ。刺激的すぎるからな。それよりは心が穏やかになる自然とか動物を見ている方が好きだな」
「そうですか………」
そう言われてしまっては何て言って返していいか分からない。
俺自身も前世では好きなものしかチャンネル登録しなかったし、見なくなったものは登録解除して整理していた。余計なのがあると見にくいんだよなあれって。
「まあしかしその分、タピオカの神のように悪口を書き込むという事も無いからいいだろう?」
ん?
「あのコメントはタピオカの神様が書き込んだものなのですか?」
「ああそうだ。名前がちゃんと表示されるから誰が書いたかははっきり分かるようになっているんだ。どうやら最近、あいつは何かイライラしているらしいからな」
それって地球でタピオカブームが終わったからじゃないか?一時期はあれほど騒いでいたのにブームが去った途端にフワちゃんですらも一言も発さなくなった。
タピオカの神はそのイライラをアンチコメントとして俺にぶつけてきたに違いない。
「神様でもイライラするんですね」
「もちろんだ。神とは言えど全てが自分の思った通りに事が進むわけではない。そうなれば腹が立つのは当然のことだ」
「なるほど………」
そういう話を聞くと心が重くなる。神様でもそうなら、もし天国に行ったとしても幸せなだけの生活というのは無いような気がする。
「そういう時には酒でもあるといいんだがなぁ………」
遠い目をしながらもやしの神「ラウツ」が言った。
「そうですか」
神様ですらも酒を飲まなきゃやってられない日があるというわけだ。
「酒でもあるといいんだがなぁ………」
ここは天国じゃないんだかといって地獄でもない、か。ああ………久しぶりにブルーハーツが聞きたい。この世界に来てしまった以上はもう二度と聞くことが出来ないんだ。
俺はこの世界に来たおかげでいろいろなものを手に入れたが、代わりにブルーハーツは無くしたんだな。
「オイ!聞いているのか!」
「え、はい、なんでしょうか」
しまった。いつの間にか自分の世界に入ってしまっていた。
「お前、神の話を無視するなどあってはならんことだぞ」
「申し訳ありません。無視するつもりは無かったんですが、考えに耽ってしまいました」
頭を下げる。
いくらもやしの姿をしているとはいってもやはり神様だ。怒るとかなりの迫力がある。
「なんの話だったんでしょうか」
「知らん!」
え?
「ワシはそんなに簡単な男ではない。もうお前には教えてやらんぞ」
ちょっと待ってくださいよ、拗ねてるじゃないですか「もやしの神様」。今日初めて会ったのにもうすでに何回も怒られてるよな。というかそんなに大事な話してたのか?
「お酒………」
後ろにいるシャルルが小さな声で教えてくれる。
「お酒が飲みたいみたい」
なるほど、そう言うことを話していたのか。ありがとうシャルル、助かったよ。
人見知り全開で全く会話に入ってこなかったが、話自体はしっかりと聞いてくれていたようだ。
さて、前世でもお神酒といって神様にお酒をお供えする習慣はあったが、どうやらこの世界でも同じらしい。前世と違うのは神様から直接言われているという事だよな、なんか変な感じだな。
まあそれはともかくとしてお酒くらいなら是非献上させてもらおう。
「んんん………」
腕を組みながら怒っていたラウツがチラチラこっちを見ている。どうやらかなり気になっているらしい。
「神様にお酒を備えるとしたらお酒の種類は何が良いんだろう。お酒には詳しくないから分からないな」
独り言を言うようにして言ってみる。
この世界にどんな酒があるのかは本当に分からない。もし違うのを買ってきてしまって、また怒られるのは勘弁だから聞いておきたい。
「清酒………」
もやしの神様が小さい声でぼそっと言った。
「清酒が一番いい………」
言ってる。
怒りながらも何が欲しいのかを神様が言っている。清酒っていうのは多分日本酒ってことだよな?今度ここに来るときには忘れずに持ってくることにしよう。
忘れてきたら相当怒るだろうな。というか今はまだ小学生なんだけど酒は普通に買えるんだろうか。ちょっと不安だ。
「これでもう用は済んだようだな。ワシはこれで帰ることにする」
「もうですか?」
せっかく神様とあったんだから、聞きたいことは山ほどあるのに。
「これでワシもなかなか忙しい身でな」
神様にも忙しいとかあるんだ。
「それではレイ、渡すものがあるから両手を出しなさい」
戸惑いながらも言われた通りに両手をお椀のようにして差し出す。
「初めて出会った記念にこれをやろう」
そう言ってラウツが置いたのは3つのクルミくらいの大きさの木の実だった。
「これは成長の実といって、中に入っている種子を食えば身長を伸ばすことが出来るという不思議な木の実だ」
「おお!」
異世界では身長すらも伸ばすことが出来るのか。
「大人であっても効果はあるからありがたく受け取るが良い」
「ありがとうございます」
受け取ってからふと思う。これは俺には必要ないんじゃないか?体の成長に関してはクラスメイトの中で余裕で一番背が高いくらい順調だ。順調すぎて自分でも不安なくらいだ。
「シャルルは身長伸ばしたい?」
振り返って黒髪天才剣術少女に聞いて見るが首を横に振っている。
「もし自分たちで必要ないと思うなら売り払ってしまってもいいぞ。欲しがる人間はきっと大勢いるだろう」
「いいんですか?」
神様からもらったものを売るなんてなんだか罰当たりな気がする。
「やったものをどうしようとそれは当人の勝手だ」
なるほど、そういうものか。
「わかりました、ありがとうございます」
「うむ。それじゃあワシはこれで帰るとする。もし何かあったらまたここに来るが良いぞ、レイ・フェリックス、そしてシャルル・ド・ゴール」
「ありがとうございました」
シャルルと二人そろって頭を下げる。
「励めよ」
「はい、ありがとうございます」
神様に言われると本当に頑張ろうと言う気がしてくる。
「次来るときは酒を忘れるなよ」
「はい」
これだけ言うという事はよほど好きなようだな。
「もし持ってこなかったら、一生鼻からもやしが生え続けてくるかもしれないと予言しておくぞ」
怖っ。
「ちゃんと持ってきます」
「うむ、それじゃあな」
「ありがとうございました」
頭を下げ礼を言う。
神様なのにわざわざこうして時間を割いてくれて、そのおかげで前世の父親の腰痛が改善されたのだから感謝しかない。
顔をあげた時にはラウツの姿は無かった。
「ねえ………」
しばらく静かな時間が流れた後でシャルルの声がした。
「今の話って何?」
目が鋭い。
「二人の話に全然ついていけなかったんだけど」
どうやらこの御方も拗ねられているようだ。




