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68話

 


 レイ・フェリックスが嘆きの声を口にした。


「ちょっと待ってくださいよ、なんですかこのコメントは」


 巨大なもやしの姿をした「もやしの神ラウツ」はにやにやしながら答える。


「まあまあ、そう怒るな。あれは異世界でのお前の行動を見て誰かが書き込んだコメントだ」


「怒りますよ」


「どうやらかなりお気に召さんかったようだな」


「こんな言われ方をするような事はしてないと思います」 


 今までの人生を振り返って見ると、道場で毎日稽古に励み、王立ワシントン学園のハードな入学試験を突破した。多少計算高くて腹黒いところはあるかもしれないが、特に悪いことをした記憶もない。


「毎日真面目に頑張って生きてますよ。それなのに「つまんな。死ね。」ってなんなんですか!」


「そんなことをワシに言われても困るな」


 もやしの体から白い手が生えてきてアゴヒゲを摩っている。もやしの体と目と鼻と口しかないかと思ったら、そんなことが出来るなんて驚きだ。


「コメントを書き込んだのも八百万の神々様なんですよね?」


「もちろんそうだ」


「神様がそんなこと言っていいんですか?」


「褒められたことじゃないがよくあることだ。あまり気にせんことだな」


 ラウツがあっさりと言った。


 めちゃくちゃ気にするよ。神様から「つまんな。死ね。」って言われるのって他の誰に言われるより一番嫌だよ。


「その代償としてポイントが手に入ったわけだから、得したとでも思っておけばいいじゃないか」


 励ます感じで言ってくれるけど、俺のメンタルはそこまで強くない。


「何が悪かったんだろう………」


 思わず声に出ていた。


「もしかしたら真面目すぎたのかもしれんな」


「真面目?」


「これはワシの考えなんだが、レイが道場で毎日頑張っているのは偉いが、もっと派手に戦う所が見たかったということなんじゃないかと思うな」


 そんなこと言われてもな。こっちはまだ小学生なんだから今は体を作って基礎を身に付ける時期だ。調子に乗って無茶なことをするべきじゃない。


「まあ、やっている本人と見ている方では、感じ方も何も違うという事だ」


 そう言われてみれば少しわかるところもある。


 ボクシングを見ていると、なんでもっと手を出さないんだとか、ガードをあげろとかを思いながら見ているわけだが、ボクサーの方にも色々と言い分はあるだろう。


 今は俺が見られる側になっているわけだから、見てる方の気持ちも考えながらやっていかないといけないという事だ。


 いつの間にか俺は異世界ユーチューバーになっていたのだ。


 八百万の神々様、どうかチャンネル登録と高評価をお願いします。ポイントがあれば遺してきた幼馴染と家族を奇跡をあげることが出来るんです。


 天へ向けて祈る。


 まさか神様にこんなお願いをすることになるとは思いもしなかった。


「ポイントを使って奇跡を起こすか?」


「コメントが一件来ただけなのに、そんなことできるんですか?」


「本当にささやかな奇跡だがな」


 後に残しておいて一気に使うという考えもあるけど、せっかくだから使ってしまおうか。


 ポイントが貯まったらどんな奇跡を起こしてもらおうかというのは偶に考えていた。


「僕が残してきた幼馴染と家族は元気ですか?」


「そうだな、ちょっと待ってくれ」


 そういった後でラウツは目を閉じた。


「ふむ、やはりまだ落ち込んではいるが、レイが届けた子猫のおかげもあって時が経つごとに落ち着いてきている。3匹の子猫の内の1匹は幼馴染からお前の家族の所に引き渡されたようだ」


「そうですか………それはよかった」


 本当に良かった。


「それでは私の父親の腰を治してもらえませんか?昔、交通事故に遭って以来、調子が良くなくてたまに自分で腰を叩いている時があるので」


「うーむ」


 ラウツが渋い顔をした。


「難しいですか?」


「直すにはポイントが足らんな。いま出来ることは痛みを和らげることくらいだ」


「わかりました、それでお願いします」


「その願い聞き受けた」


 もやしの神様の頭上から光が降りそそいできて、どこからともなくハンドベルのような音が聞こえる。


 これが奇跡を起こすという事なんだ。


「願いは叶った。これでお前の父親の腰の痛みは和らいだ」


 穏やかな口調で語るもやしの神様が今初めて本当の神様に見えた。


「ありがとうございます」


 涙が出そうだった。


 最初はずいぶんとひどいところに来てしまったと思っていたんだけど、この世界の家族や道場、学校の人たちと過ごしていくうちに楽しくなっていった。


 けれどそれを申し訳ないと思う時もあった。


 自分が楽しく過ごしている時にも、自分の事で泣いている人がいると思うと心が苦しくなった。


 感謝を贈ろう。


 たとえ二度と会うことが出来なくても、住む世界が違っても遺してきた人達のためにできることがある。 


 自分と同じように笑って欲しい。


 生きることを楽しんでほしい。


 頑張ろう。


 頑張ってポイントを稼いで少しでも幸せになってもらいたい。この世界にではそれが出来るんだ。


 こんな機会を与えて下さってテティス様ありがとうございます。見てくれている八百万の神々様に少しでも楽しんでもらえるように頑張ります。



 心が温かい。



 今ならすべてを許せそう。



 アンチコメントしたやつのことも。




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