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67話

 


 空気が澄んでいる。


 ダンジョンらしき洞窟を進むレイとシャルル、は歩いているだけで清々しい気持ちになっていた。


 両手を広げたくらいの幅で天井も高いので窮屈さは感じず、壁に生えているコケが淡く光っているおかげで、視界も良好。足元も不自然なくらいに凹凸がなくて歩きやすい。


 やっぱりここは普通の洞穴じゃない。そう思いつつも声にはしない。なぜだか分からないがあまりお喋りをするような雰囲気では無いような気がした。


 戦闘を行くレイは魔道具の杖を持って魔物の襲撃に備えているが、今のところ一体も出てきていない。さっきからずっと自分たちの足音だけが響いている。


 柔らかい白い光がだんだん強くなっていく。このまま道を進んで行けば奥の方には広い部屋があるのが見える。


 怖い。


 思い出すのは前にテレビで見た新米探索者に密着するドキュメンタリー番組。広い部屋で待ち受けていた1匹の紫色のカマキリの魔物が探索者たちを蹂躙していた。


 もしかしたらあの部屋の中で待ち受けているのは、強力な魔物なのかもしれない。


 杖を握る手に力が入っていた。大きく深呼吸して体に酸素を行き届かせて緊張を解く。武術をやるうえで一番大切なのは脱力すること。何があってもすぐに動けるようにしなければいけない。


「行くよ?」


 振り返ってシャルルを見れば、緊張している顔が見える。どうやら彼女も同じく何かの気配を感じ取っているようだ。


 頷いたのを見てその部屋の中に足を踏み入れた。


「おいっすー!」


 予想外に明るい声がした。


「待っとったぞ、待っとったぞ早くこっちに来なさい」


 シャルルと言ったん顔を見合わせてから、言われるがままに部屋の中へと入っていく。


 2mくらいの白くて細長いものに目と口と鼻と髭がついている摩訶不思議な存在がスポットライトの中を浮いている。


「ワシは、もやしの神「ラウツ」だ。そう緊張しなくても大丈夫、お前たちにとって悪いことはしないから安心しなさい」


 なんですかこの物体は。


「ばかもん!物体とはなんだ物体とは!もやしの神だと言っているだろう!」


 心を読まれた?


「挨拶はどうした!ワシは挨拶したのに自分たちはしないというのはどういうことだ!そういう行為は相手に対して大変に失礼なことだと親から教わらなかったのか!」


「すいませんでした。僕の名前はレイフェリックスです」


「わたしはシャルル・ド・ゴールです」


 ラウツの勢いに押されて喋る。


「まったく、最近の若者はなっとらんな。ワシの若いころはこんなんじゃなかったんだがな」


 この人は本当に神様なのか?言ってることがそこらの頑固じじいと一緒じゃないか。


「誰が頑固じじいだ!」


 やはり心を読まれているようだ。


「発言よろしいでしょうか」


 手をあげて聞いてみる。


 見た目も言っていることもアレだが、心を読んでいる以上は本物の神様かもしれない。もしそうだったら下手な対応はするべきじゃない。


「いいだろう。ただしそんな畏まった言い方でなくてもいいぞ、ワシのこともラウツさん、と気軽に呼んでくれて構わない


 巨大なもやしの姿をした「もやしの神ラウツ」は鷹揚な態度で言った。


「それじゃあ聞きたいんですけど、ラウツさんは神様なのにどうしてこんな所にいるんですか?」


「それはなぁ………お前のことを待っていたんだレイ・フェリックス」


「私のことをですか?」


「そうだ。お前はテティス様のお力によって別の世界からやって来た。これは間違いないな?」


 あの女神さまの名前がテティスというのは知らなかった。けれど話の流れとしてはその通りだ。


「はい」


 返事をした途端、シャルルの籠った叫び声が聞こえた。


「この世界でのお前の行いは八百万の神々によって見られている。そしてチャンネル登録や高評価が付けばポイントが得られ、それを使って遺してきた元の世界の住人たちに幸運を与えることが出来る、ということになっている」


「はいそうです」


 あの時は分からなかったけど、冷静になって考えて見ると、俺は異世界でユーチューバーと同じことをやっているという事だよな。


 そう考えればなんだか微妙な気分にはなるが、羽藍うらんと家族を幸せにするためだから仕方がない。


 さっきからシャルルが裾を引っ張っている感触がある。「もやしの神ラウツ」をがいることで人見知りを発揮して声を出すことは出来ないけど、話が気になって気になって仕方がないようだ。


 シャルルには異世界転生のことは言ってないからなぁ。



「そこで、僅かではあるがポイントが貯まったのでな、お前にそのことを知らせるためにワシは来たのだ」


 おお!知らないうちにポイントをゲットしていたのか、ありがたい。


「ということは八百万の神々様の誰かが私のことを気に入ってチャンネル登録してくれたというわけですね?」


「いや、コメントを書き込んでいる方がいたから、それでポイントが入ったのだ。お前にとってこれが初めて書き込まれたコメントだな」


 コメント?そんなの出もポイントが入るとは知らなかった。


「ちなみにどんなコメントが書かれたのか聞いてもいいですか?」


「ああいいぞ………「つまんな。死ね。」と書かれているな」



 アンチコメントだった。





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