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54話

 


 1億ゴールド以上の大金を持ったままで、あまり治安は良くないが人が多くて栄えているエリアを進んで行くレイ・フェリックスとティンベー・カネナリ。


 荒々しい声もそこらで飛び交っているこの場所までわざわざやって来たのは、魔物の肉を買うためだ。


 それは魔道具技師のハラトロ・モスの開発した浄化液によって、魔道具に安全な魔物の肉を食べさせ、成長させるという実験が成功したから。


 魔石を売って大金を手にした今、愛用の魔道具の杖をさらに強化したい。その為には出来るだけ強力な力を持つ魔物の肉が必要。そしてこの通りが魔物の肉を取り扱う店があるエリアなのだ。


 果たして売っているのかどうか、それが問題だ。


「絶対大丈夫だと思うぜ」


 カネナリが軽く言うがきっと何の根拠もないだろう。以前シャルルに詐欺を仕掛けてきたこの男はよく言えば明るく、悪く言えば何も考えていないような性格なのだ。


 強い魔物の肉はなかなか売っていない。それはなぜかと言えば人間には食べることが出来ないものだからだ。


 食用の肉となる魔物もいるのだが、それは弱い魔物に限られる。


 強い魔物の肉を食べてその力にあやかりたいと考えるものは、昔から多くいるが食べてしまうと消化することが出来ない。さらにひどい場合には内臓を腐らせてしまうのだ。


 それなのになぜ強い魔物が商品になるのかと言えば、飾りになるから。金を持っている貴族や商人はそういったものをパーティーの飾りにしたり、あるいは剥製にしたりする。


 持ち帰っても需要は無い時の方が多いが、売れるときには高く売れる。冒険者にとっては、しょうがなく持って帰ってくるような物なのだそうだ。


「できればBランク以上の魔物がいいな」


「そんなん余裕でいけるって俺って結構運がいいし」


 そんなことを話しながらカネナリに案内してもらいながら進む。


 カネナリは元Bランク冒険者なので魔物の肉を売ったことは何度もあるそうで、このあたりの地理には精通している。


 ただそのちゃらんぽらんな性格のせいでいまいち信用が出来ない。悪いやつでは無いんだけど。


「おいなんだよ!話が違うじゃないかよ!」


 辺り一帯に響くほどの大声が聞こえる。


「俺が魔物の肉を買おうと思ってたのは丁度あの店なんだよね。今は結構取り込んでるみたい」


 店先で騒いでいる少年を指さしてカネナリが言う。


 出来る限り早く買い物を済ませて学園に戻ろう党と思っていたのに、何やら厄介ごとの匂いがする。


 近づいて見ると少年が路店の店員に詰め寄っている所だった。


「貴族のパーティーがあるから強い魔物の死体を持ってくれば高値で買うと言ったのはそっちじゃないかよ。それなのになんだよ、必要なくなったから買い取れないってのは!」


「だからさっきから言ってるじゃねぇか、いい加減に分かれよラーテル」


「いいや分かんないね!こっちは命がけで取ってきたんだよ、それなのにそんな簡単に納得できるわけないだろ!」


「俺だって急に言われて困ってんだよ。やる予定だった誕生パーティーを、娘が「友達に祝ってもらうからやらなくていい」って言いだして、それで親父が「家族の誕生日を祝うのは我が家の伝統だ!」って怒って言い合いになって中止になったんだよ。そんなもん俺にはどうしようもないだろ?」


「そんなの知ったこっちゃないよ!そっちが強い魔物の死体を持って来いっていったのは確かなんだぞ。冒険者にそう言うっていうことは依頼したってことだろ!冒険者のルールならそれは依頼主が悪いことになるんだよ!」


「知らねえよ冒険者のルールなんて!」


「知らねえ知らねえで世の中済むと思ってんのかよ!こっちはちゃんと「ストームドラゴン」の死体を持って来たんだからちゃんと金払えよ!」


 ストームドラゴン。


 図鑑で見たことのある魔物の名前が出てきた。それは魔物の中でもレア種であるドラゴンの魔物。ストームドラゴンと言う名前の由来は、この魔物を見ると次の日は嵐になるという逸話からだ。


 記憶によればAランクの魔物だったはず。見かけることが少なく、長細い体でかなり上空を飛ぶために捉えることもできないレアな魔物だ。


 気になる。


 かなり気になる。前世の時からドラゴンの背に乗って空を飛んでみたいと思っていたのだ。ストームドラゴンは中国の絵に出て来るような細いタイプのドラゴンなので乗れるかどうかは分からないが、それでも気になる。


 人だかりをかき分けてさらに進んで行って少年が見えるところまで来ると違和感を感じた。


 ストームドラゴンの姿が見えない。


 記憶によれば確か体長数十メートルはあるはずなのにそんなものの姿はどこにも見られない。


 どういうことだ?


 疑問に思っていたら店主が言ったことがその答えだった。


「それのどこがストームドラゴンなんだよ、ただの蛇じゃねえか!」


「蛇じゃねえよ!ドラゴンだって言ってんだろ!」


「そんなモヤシみてぇなドラゴンがいるもんか!どうせ蛇を緑に塗っただけなんだろ!?そうに決まってる!」


 そう。


 少年が首にかけているのは長細い緑色の蛇のように見えた。


 十数メートルどころかせいぜい数メートル。そしてだいぶ細い。もしあれがストームドラゴンだとしたら、あれに乗って空を飛ぶのは不可能だ。


「これはストームドラゴンの子供なんだよ。おかしい事じゃないだろ、魔物にだって子供の時期はあるんだからさ!」


「そんなもん何だって言えらぁ。ほらほら、商売の邪魔だからとっとと失せろラーテル」


「これは本物のストームドラゴンだ!」


 ふたりのやり取りを見守っている観衆からも「蛇だ、蛇だ」という囃し立てる声が聞こえる。


 あれは本当に蛇なのだろうか、ラーテルという少年の言葉には嘘が無いような気がする。


「もし本当にそれがストームドラゴンなら僕が買うよ」


 言ってみた。




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